第486話「お泊まりした翌日は……怖かった……」


 部屋は僕やソウマの例外や、イスクーバの様に証拠探しで使用中などはあるが、基本女性が小部屋で15部屋が使用中だった。



 テント内には25部屋もあるので、そうそう無くならないが今は兎に角空きがあって良かった……


 流石にイーザとミオの二人は同部屋は嫌だろう……ちなみに最近ミオとシャインの相性も良くないので、部屋が無い場合最悪イーザとシャインが同室になるところだった。



 雑魚寝組はフカフカのカーペットに寝転んで、クッションを枕がわりに寛いで居る。


 25部屋もある異常なテントだ……当然部屋の全員が一度に集まれるだけのキャパがある。



 魔法と次元収納は凄いな……と思うしか無い。



 僕は風呂に入ってから部屋に戻り、キングサイズのベッドに仰向けで倒れ込む様にする。


 非常に大きいベッドだったが素材が良いので、身体は倒れた勢いで深く沈み込む。


 あまりの居心地の良さにウトウトし始める……


『ねぇ!水っ子!どうよ?これで人族は私達風精霊の存在を知っちゃったわよ!?ちょっとヒロあの糸車ここの村民の為にもっと作りなさいよ!』


『狡いでしょう!抜け駆けの道具は!!って言うか……水車も作ってよ!糸じゃない何か作れる水車!!……ねぇヒロ!!』



「ごめん……疲れて頭が回りませーん!今日はもう寝る……限界ですよ……MPもかなり消費したし!!あと145MPしかないんだから……オヤスミ………」



 僕はフカフカの布団と睡魔の猛攻撃に敗北し、話を切り上げて寝てしまう……


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『トントン………』



『トントン……トントン……』



『おい?いくら叩いても起きないぞ?何かあったんじゃないか?……まさか一人で外出を?』


『タンバそれは考えられるぞ?仲がいいシャインさん!ちょっと開けて見てください!!』


『兄じゃ無いんですから……不敬罪で罰せられてしまいますよ!!』



「ちょっと退きなさい!起きろヒローーー!いつまで寝てんの!朝ご飯さっさと食べて!これじゃいつまで経っても片付かないじゃ無い!!」



「はいいい!!ご!御免なさい!お母さん!!今日も寝坊を………はれ?じゅる………ユイナさん?何で僕の家に?」



「ぷ!!はははは!寝癖とよだれ!!早く顔洗ってご飯食べにきて!もう土の9刻よ?10刻には出発するんでしょう?食べ損なっていいなら良いけどさ!良い夢見てたのは良いけど『毎日寝坊』してたらお母さん大変よ?」



 爆睡した僕だったが、スライムはドアの隙間から部屋を出て朝飯を食べた様でユイナが抱えて持ってきた。


 超絶ご機嫌でゴロゴロ転がっている。


 フカフカのカーペットが気に入っている様だ……


 かなり激しく転がってから、潰れてダンジョンに吸い込まれる時の様に『ぐでぇぇぇ』っとなっている。



 僕はよだれを拭いてから、部屋を出て顔を洗いに行く……


 何故か洗面台もある不思議な『魔法のテント』は大人気で、朝から風呂に入っている人がいる。



『ジャー………』



「ふぅ……さっぱりだ!ユイナさんの怒り方って母さんにそっくりだったな………朝ごはん食べないとまた怒られそうだ……」



 僕は顔を洗いさっぱりしたのでウッカリ呟いた……それが間違いの元だった……



「イーザ?ありがとう!替の下着鞄に忘れて助かったわ!………『ガラガラ』……イーザもいい所…………あ……あれ?…………きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「うわぁぁぁ!見てません!見てません!僕なら見てませんから!!」



 急いで洗面所から飛び出る……



「あら?せっかく気を利かせたのに?驚いちゃダメよ?お風呂一緒に入れば良いのにミオさん?……あ!下着ここに置いとくわよ?」



『ガラガラ……ピシャリ』



「イ!イーザさん知ってたら教えてくださいよ!今日は朝から何度も心臓が止まりそうになりましたよ!!」



「ミオさんが、ヒロさんヒロさん煩いから折角なのでチャンスを……と思ったんですけどね?チャンスを活かせないなんて……もう!台無しですよ本当に!」



 僕は慌ててテントを後にする……後でどんな顔をして会えばいいか正直わからない……



「ユイナさん!朝飯お願いします!すいません寝坊して!」



「大丈夫よ?私も寝坊したから!人の事言えないのよね!実は村の人が起こしてくれたのよ!はははは!!村の朝は早いみたいでさ!」


 そう言われて村を見回すと、香木を集め終わった子供達は表皮を剥いで、それを大人に渡し大人はそれをナタで細かく砕いている。


 孤児の一人は糸車を使って糸を生産しては、風の下級精霊と戯れている。


 村長は次男のゼロスと数人の村民と共に鍬を握り畑を耕していた。



「あ!ヒロさん!おはよう御座います!」


「こら!ゼロス!ヒロ男爵様じゃろうが!」



『ポカポカ』



 ゼロスという鉱山で助けた青年は元気よく挨拶をするが、村長に敬意が足りないと鍬の持ち手部分で叩かれている。


 しこたまゼロスを叩いた村長は、畑作業の休憩を告げて僕の元へやってくると……すごく心配した様に会うまでにあったことを話してきた。



「ヒロ様!おはよう御座います!よく寝られた様ですね?皆さんが部屋から出てこないので心配なさってましたよ?何でも……『また一人でダンジョンとか行ったんじゃないか?』と言われてました……ワシ達もヒロ様がおられないと困りますので無理だけはおやめくださね?新領主様!!」


 畑を手伝っていたのは昨日僕たちを『信用出来ない冒険者』としていた人達だったが、今日の表情は昨日とは全く違い晴々としている。



「私達も『副村長』の仕事をせずに済みます!あ!ヒロ男爵のおかげで、もう副村長では無いですが!!今朝ジェムズマインへ移送されました!本当にありがとう御座います!!」



「彼の言うことを聞かないと、『鉱山送り』と言われていたので、端金で雇われるしか無かったのです……全てヒロ様のおかげです!これからは村長と共にヒロ様の所領で頑張っていきます!!」



 どうやら彼らは、ほぼ強制的に副村長に仕事を強要されていた様だ。


 話では製材する為の仕事や、木の切り出しを主にやっていたそうだ。


「皆さんに強要はしませんから!是非伸び伸びと働いてしっかり家族を養ってあげて下さい!いずれ学校も用意しますので、その時は子供達にちゃんと学問を覚えさせてくださいね?」



「「「学問をですか!?我々平民が?」」」



「ヒロ男爵様……おことばですが……今の村では無理でしょう……」



「いえいえ!義務教育として学ばせますよ?学がなければいいなりじゃ無いですか!今までと変わらないと!!」



「この村の村民には……そんなお金は有りません………」



 僕はウッカリしていた……この世界には義務教育など無い……


 だから僕の考えや学んだ事など分かるはずもない……



 だからこそ、この領内の準備ができたら『それが当たり前』に領内にする必要がある。


 その前に『お金は掛からない』ことを伝えて、安心させるべきだろう。



「え!?義務教育だから……『タダ』ですよ?あ……『無料』と言った方がいいか……回収するのは『給食費』くらいですかね?」



「「「「タダ!?」」」」



 子供も混じって驚きの声をあげる………無料の言葉には此処の子供達は非常に反応する。


 何故かといえば、今まで貰えるものなど全くなかったからだ。



「ち……ちなみに……給食費と言うのは?」



「給食費は学校で出す『食事代』ですね?まぁそれの配分も村長に任せるので、学校を作った時は打ち合わせしましょう!」



「わ………私任せ?……はい……頑張ります!!村人の為に……頑張ります!」


 その後義務教育の説明に少し時間を割いた後、『糸車』を追加で四台作った。


 組み方は覚えてもらう時間がないので、僕が組んだが村人に集まってもらいしっかり見てもらった。



 壊れた時用に各部品を五台分用意して、村長の家で管理して貰う指示を出すと、既に時間は土の10刻を過ぎていた……

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