第487話「ミオとシャインの大喧嘩」


「皆さん!忘れもには無いですね?テント片付けますよ?」


 全員が荷物確認をしている……このテントを使用するのは初めてなので、収納した後どうなるかなど分からないので荷物チェックは確実にさせる。


 僕はテントを片付けようと持ち上げる為に力を込めるが、全く持ち上がる気がしない……



「あれ?おかしいな……全く動かないぞ?……」


「大方……孤児の誰かがまだ中に隠れてるとかじゃろう!あれだけ豪華なら出たく無いのもわかるからな!どれ……見てくるとするかの?」



「アルベイさん!孤児なら全員点呼を取りましたが……」



 孤児は全員いてメンバーも全員居る……皆がなんでだろう……と言っていると……



「あれ?ルモーラは?孤児達と中に入ったよね?」



「うん!ルモチャンならな朝ご飯食べてお腹いっぱいで、森で一眠りするって言ってたよ?」



「「「一眠り?」」」



 見事に僕とローリィとエイミィの声が被る。



「探そう!絶対ルモーラだ!」



「「うん!ヒロさん……なんか……ゴメン!!」



 皆で半刻探し回ってやっと見つけたルモーラは、テント内の植木鉢の中で寝ていた……



「ごめんてばー!知らなかったんだよーー!!もう村から移動するなんて!!」



「中に居たら片付けられないって!朝ご飯の時に言ったでしょう?ルモーラ?」


「エイミィの言う通りよ?あれだけ『中で寝るな』と言ったじゃ無い!!」



 エイミィとローリィは珍しく怒っている……次の村への移動時間が既に1刻も遅くなったのだ……怒るのも当然だろう……



「私はローリィとエイミィにくっついていくの!!村長には許可も取ったのぉ!!」


「だから……危険な旅に連れて行けないでしょう?もう!」


「ローリィのケチんぼ!!風精霊も契約したんだから!大丈夫だってばぁ!!危なくなったら二人のポーチに逃げ込むから!!」



 ローリィとエイミィの反対の気持ちはよく分かる。


 だが『飛べる彼女が』勝手に付いてくると危険でしか無いので一度戦闘を見せた方が早いと言いたかったが、既に『幻影騎士戦』を生き残っている……誰もフォローせずに生きているルモーラはかなり『運』は良い方だろう。



 だが幻影騎士の時の様に、傷薬や状態異常を治している余裕は無いことは確かだ。


 その判断は彼女達を死に誘うだろう……



「最低限の『自己防衛』が出来ないとダメだよ?ルモーラ?幻影騎士の時の様に傷薬ガブ飲みとか異常回復を彼女達に任せれば120%二人は死ぬ……それでも行くなら自分の身を自分で守る手段を見せないとダメだと思う……」



「いいよ!次の村に行く間に私が魔物倒せたら連れてってダメなら『きっちり諦めるから!!』………」



 その言葉に仕方なく連れて行くことに皆が承諾した。


 しかし当然の事ながら、問題児が増えれば大変なことをやらかすのは間違いなかった……



 村を出る時に村長と話し、この村と領地を立て直す約束をして僕達は隣の村へ向かった。


 予定外の事件で遅くなったが、隣村は1時間程度の距離だ。



 だから僕は気軽に考えていたが……



「荊の守護者よ我を守れ!『ソーン・ゴーレム』」


『エア・アロー!!』


『ダブル!!ストーム・ハンマー!!』



 問題児……ルモーラだ……


 彼女は幻影騎士の戦闘でエイミィとローリィに看病されつつ、僕の戦い方を目に焼き付けていた様だ。


 戦闘センスはピカイチな上、妖精種と言うメリットを活かす戦法をとっている。



 かなり上空からエア・アローを撃ち込み、機動力を奪った状態でダメ押しのストームハンマーを叩き込む。



 下は地面なので目に前に居る『ジャイアント・センティピード』はペッチャンコだ。


 今いる場所は水が豊富な『水鏡村』付近で、森と渓谷に近い場所だけあって虫系で渓谷移動を容易く行う魔物が多く出る。



 ルモーラは上空から魔物を『感知』してソーンゴーレムを投下する。


 敵がソーンゴーレムと戦っている間に、エアアローの魔法を撃ち込みソーンゴーレムを非難させてからストームハンマー……このハメ技で殆どの魔物が倒される。


「もう居ないよ!どうですか?このルモーラ様の戦果は!!」


「ルモーラ様!あの魔物は今度はフラッペにお譲りを!!皆さんへの推薦もちゃんとしますから!!」


「宜しい!ならば一番早く推薦を申し出たフラッペちゃんに譲りましょう!私は心優しいフェアリーですから!!」



 ブンブンハエの様に飛び回るが、魔力が切れるとシャインに泣きつくから出来る技だ……MP回復薬を貰いに来るのだが……


 今僕の居る馬車は大変な状況だ。



 まずギルマスのテカーリンがイスクーバとマークラを別に馬車に移動させた。


 理由は『副村長の不正の一件』の報告を受けておく為だ……鉱山戦に出たのに人身売買に遭ったのだ……貴族命令で出兵依頼なのにそんな事があれば、鉱山戦絡みに大きく影響が出るからだ。



 空いたスペースにミオとイーザが乗り込んだ。


 理由は簡単で講習会絡みだ。



 そんな訳で今僕は『銀級講習会』をミオから受けている。


 ビンタの1発も覚悟をしていたが……そんな事は無く寧ろ急接近気味だ……




「ヒロさん!わからない事はありましたか?もし分からなかったら村に着いたらゆっくり後で説明しますから!なんでもミオに行ってくださいね?」



「ミオさん?馬車の中ですが急に魔物が来るとも限りませんから!ヒロさんの移動の邪魔にならない様に、そんなにくっつかないで貰えますか?」



「シャインさん!あんなに冒険者が沢山居るのですよ?ヒロさんは今一番優先になっている『銀級講習会』を受けるべきです!そうしないと銀級資格を失うんですよ?」



「ミオさん私は『離れるべきだ!』と言っているんです!何もそんな風に太腿に手を置かなくても説明はできますよね?なんでソウマさんと位置を変わってまで真横で説明する必要があるんですか?」



「シャインさん!私はまだ話を終わらせてませんよ?この講習会が終わらないと『鉱山のダンジョン討伐』へも行けませんから!!私とすれば危ない所にヒロさんを行かせたく無いのですけどね!!シャインさんがテイラー男爵様と全部綺麗サッパリ討伐してくださいませんか?そうしたら今すぐ離れますから!」



「ミオさん!それは伯爵様の考えで鉱山のダンジョンへ行くメンバーが決められたのですよね?それだけヒロ様が信用されている証拠です!私が鉱山のダンジョンでヒロ様を御守りしますから!平気ですから!」



「まぁーまぁー……ヒロはエクシアさんとロズさんが居ますから死にませんよ!それに………『『ソウマさんは黙っててください!!』』は………ハイ!!外の景色をみてます!!」



 とばっちりで一番傷つくのはソウマだった……


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そこから15分ほど馬車で走ると水鏡村に着いた………


 がシャインとミオの口喧嘩は終わっていない……因みに『講習会』はイーザから聞いたのだが、シャインとミオの口喧嘩の声が次第に大きくなって、最終的にイーザが『講習会の迷惑ですから声量を下げてください』とまで言われていた。



「ヒロ師匠!此処がミミの育った村水鏡村です!……アレ?なんでシャインさんとミオさん怒っているんですか?師匠……ミオさんのお風呂覗いたって本当なのですか!?だから二人が怒っているんですか?」



「の!覗いてないよ!!顔洗ってただけだよ!!」


「朝からお風呂に入るミオさんがいけないんです!ヒロ様は悪くなどありません!そもそもあのテントはヒロ様の物ですよ?持ち主が優先されて当然では無いですか!それにヒロさんはミオさんの裸に興味などありませんから!」



「ちょ……それはあまりでは無いですか?それに私はヒロさんにみられても構いませんから!あの時はヒロさんと知らなかったから悲鳴をあげただけです!ヒロさんだって分かってたら悲鳴などあげるはずもないですから!!」



「そんな事言っても、悲鳴でヒロさんをビックリさせた事には変わりないですよね?叫ぶ前によく見ればわかるはずですよ?ヒロさんだって!!それに他の男なら何食わぬ顔で開けててもおかしく無いんですから!!ヒロさんは紳士なんです!!それなのに叫ぶなんてはぁ全く……」



「イーザに頼み事をしていたので、てっきりイーザかと思っただけです!!さっきから何ですか?私とヒロさんの仲に土足で入ってこないで下さい!」



 ミミは開いてはいけない扉を開いたと気がついた様で、そそくさと一人で村に入っていった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る