第477話「風っ子と水っ子のシェア争い」


 後ろの二人はローリィとエイミィをチラ見する。



「良ければお二人も契約できませんか?この二人も探しているので契約してくれる『風の精霊』を……」



「良いではないですか?ここに出入りを許される人間などはそう居ませんし、貴女達も『人間に感謝される存在』になるのは必然だったのでしょう……今日この日に一緒に歩くことになったことが何よりの証でしょう!」


 水っ子とほとんど背格好が変わらない風の精霊はそう言う。



「ちょっと!風っ子!私の契約者をこき使うなんて……正気なの?」



 革製の水袋から化現する『水っ子』……若干バチバチする物が見えるが……敵対関係ではない様だ。



「な!?水精霊?それも……中級?」



「風っ子!良い事?このヒロはね!『中級水の祭壇と高級水の祭壇』を持っているのよ!だから私達水精霊が有利なの!良く覚えておいてね?」



 そう言ってから化現を解いて水を撒き散らす。



「きぃぃぃぃい!良いわよ!ならば人数分の『風精霊の祭壇』を用意してやろうじゃないの!!」



 挑発する水っ子に受けて立つ風っ子の図になったが、水っ子は僕の事を考えていた様で、去り際に僕に『念話』を送っていた。


 内容はこうだ。



『ヒロの前のあの子……バカでおっちょこちょいだから『絶対に祭壇忘れてるはず』なのよね……でも口で言えば『自分で探せ』って絶対言うから……仕方ないからおちょくったけど祭壇探さなかったらまた私呼んでね?風の眷属地だから私が化現できるの僅かだけど!!』



 なかなか気がきく水っ子だった……精霊の先輩として風格を出そうとしているかも知れないのだが……風だけに……


 それから僕達は、最奥部に向かい歩きたい気持ちを我慢しつつ、祭壇装備を探して迷路を歩くことになった。



 幻影壁は全て僕がどうこうする間も無く、風精霊が風魔法を唱えて幻影を破壊して消し去っている。


 見た感じ『ヤケ』を起こしているのは間違いはない。



 しかしお付きの二人は、もはやウキウキしている。



 中級祭壇を手に入れた時点でピアスとイヤーカフは彼女達が装備した。


 既にイヤリングをしていたので取り替えるだけだった。


 そしてイヤーカフ装備は話し合いで決めていた。


 結果的にローリィがイヤリング2個でエイミィがイヤリングとイヤーカフだ。



 この時点で風精霊の二人は、後ろの二人に目配せをして契約をコッソリ交わしていた……理由は簡単だ『人族の信仰を得る存在』になれる可能性が大きいからだ。



 既に鉱山の戦闘で水精霊の信仰は大きく、精霊界でも大きい話題になっていた。


 彼女達風精霊がその位置を夢見ても仕方のない事だ……目に前にその可能性が転がっているのだから。



「コレで中級祭壇6つに初級祭壇2つよ!!聴こえてるかしら?水精霊さん!!コレで私は何時でも『化現』できるから!何時でも貴方の席は明け渡してもらって問題ないわよ?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


風精霊の中級祭壇・ピアス 3

風精霊の中級祭壇・イヤーカフ 1

風精霊の中級祭壇・マジックベルト 1

風精霊の中級祭壇・チョカー1


風精霊の下級祭壇・ミサンガ

風精霊の下級祭壇・リング


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「風っ子さん……えっと……木材加工の話は?」



「え?………あ!!水っ子め!もう!!だから私にけしかけたのね!!姑息な!貴方は後どれだけ此処に居られるの?」



「え?……時間ですか?ルモーラわかる?」



「え?時間て何?……あ!でも此処にはまだ全然いられますよ?風精霊様!」



 そう……僕達は厳密に居られる時間がわからない。


 だから聞かれても答えることなど出来ないのだ!!



「ちょ………ちょっと待って……この場所に居られるのは後どれだけ残っているか聞いたのよ?かなり探し歩いたのよ?最低でも半刻は探してるのよ?魔法の砂時計は?」



「「「魔法の砂時計?」」」



 僕達は不思議そうな顔をするが、それよりも不思議そうな顔をする風精霊達。



「そうよ!!此処に残れる期間がどれだけの物か『分かる』マジックアイテムよ?……持ってないの?え!?トレントは……何を持たせたの?」


「この木の実ですね……森精霊が必要らしいです……」



 僕はトレントの涙を3人の精霊に見せると、盛大に吹き出す風精霊……



「ブハ!!…………それって!『トレントの涙』じゃない!!」


「これって……見つけるまで此処に居て良いって事ですよね?」


「え?なんで人間が?……嘘でしょう?」



「「「勇者?………様!?」」」



 滅多な事を言うもんじゃない!と思い即答で間違いを正す。


 そもそもバナナチップがこれに化けたのだ……『わらしべ長者様!?』だったら、『そうです!』と言えるが勇者ではない。



「違います!!たまたま気に入られて……ちょっと遊んでおいでって言われたんです……」



「そう……此処は遊びに来る場所ではないんだけどね?でも……逆に私の契約者に持ってこいだわ!!あの鉱山の活躍を塗り替えることができる逸材よ!」


「ああ!デビルイーターでしたっけ?あれはビックリしましたね……まぁ運が良かったですけど?」



「「「………………」」」



 余計な事を言ったらしく3人とも黙ってしまう。


 少ししたら再起動したのか声を出すが……ゲームのNPCかと思ってしまうくらいの返答だ……



「え!?」


「はい?」


「ぬ?」



 風精霊の3人が完全停止した後……そそそーと離れて『こそこそ』話し始める。



「これって……鉱山の魔物倒したって事よね?」


「絶対そうですね?」


「仕えるなら……その位でないとって言ってた……まさに『その人間』のことですね?」



 時間がかかると思ったので、僕は彼女達が話している間に『アルブル・モンドの見渡しの魔法地図』を取り出して、今の位置を確認すると……



 目の前の幻影壁の奥が、偶然にも最奥部部屋になる事がわかった……かなり歩いている間にだいぶ奥へ入り込んだ様だ。 



 僕は向かう場所へ指差しをして、2人と1匹を連れて部屋へ向かう。



「此処には部屋があって最奥部の様です。ルモーラの言う事では今までいないそうなので……この際だから是非確認しておきましょう!」



 幻影壁の奥には小部屋と、階層主の報酬でもはやお馴染みの『トーテム像』があった。


 宝箱には入ってなく、剥き出しで鎮座している。



 そのトーテム像は人の様にも見えるが、髪の毛の作りなどは樹木の枝の葉を模した彫り込みで人と木の混ざり合った状態だ。


 人ではない……どこかの部族の守り神の様な存在だろうか?



 僕はそのトーテム像を鑑定をする。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


  『森の精霊核のトーテム像』


 森をこよなく愛するドライアド達が

、自分の核を一箇所に集め形を成した

トーテム像。


 使用者は非常に強い森の力を宿し、

植物育成のスピードを増す。


 森の精霊言語を習得。

念話以外での会話が可能になる。


習得 森精霊言語の習得。


獲得スキル 『森精霊の慈愛』


スキル効果 植物の育成促進。

      『森精霊術』

      『森林魔法』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ヒロさん!これ何?例の特殊能力の再生が貰える系のトーテム像なの?」


「ちょっと……ローリィ!!露骨過ぎるわよ?気持ちは分かるけど!!」


「エイミィ!ローリィ!!何それ!再生が貰えるって本当?めっちゃ欲しいんだけど!!私達フェアリーは怪我が大敵だから!ちょっとの怪我ですぐ死んじゃうからさ!再生とか森魔法があれば最高なんだけど!!」




 僕の聴きたいことを口走るルモーラ……連れて来て本当によかった。



「ルモーラに質問だけど、森魔法って『森林魔法』の事?それとも『森精霊術』の事?どんな事ができるの?」



「森魔法は『森林魔法』の事だよ!再生魔法が使えたり、『薔薇の鎧』で防御あげたり攻撃手段はソーンゴーレムとかが有名よ?なんで?」


「ルモーラ!!なんでって……それがこのトーテム像の御利益って事でしょ!!」



「ふぉ?マジで?エイミィ!?ふおぉぉぉぉぉぉ!!最奥部〜最高!!来て良かった!ヒロを妖精村に連れてって良かった!!」



 小躍りして飛び回り、旋回してトーテム像に飛び付くルモーラ……その直後に迷路全体に突然声が響き渡った……



 『汝達に森精霊の洗礼を!幻影の騎士を打ち倒した者に我ら森の力を託すものなり!』

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