第476話「薔薇の迷路と精霊達」



 それを見て、すぐさま行く気満々になる『ルモーラ』と、それを聴いた周りの妖精は非常に羨ましがる。


 そしてルモーラは、異世界産バタークッキーに後ろ髪を引かれているエイミィの肩に乗ると……



「薔薇迷路はね人間は絶対に行くべきよ!本来妖精種にしか許可されない場所よ!人間種で例外として行けるのは『聖女』のみよ!それも時間はごく僅かな間だけ!!中には森の精霊と風の精霊が居るの!契約が出来れば私達妖精でも強力な風の魔法か森の魔法を手に入れられるわ!人間には夢の様な場所でしょ?」



 ルモーラに話には続きがある……


 聖女でも許可されるのは『聖樹の加護』を以定場合に限られて、特定条件を満たした者が半刻程度許可されるらしい。


 その間に『風の精霊』か『森の精霊』を見つけて契約するのだそうだ。



 薔薇の幻影迷宮には隠し部屋が山程あるそうで『幻覚』で出来ているが、妖精でもそれを魔法でどうにも出来ないそうだ。


 その部屋を見つけると、中には何かしらの『ステータス』を上げる物があるそうだ。


 最奥部まで辿り着いた者は過去にも居ないそうで、妖精界ではそれを達成するのが悲願の様だ。



 僕はポットにお湯を沸かしていたので、そこにココアを入れ蓋を開ける。



「いい匂いだの……コレは何のために作ったのだ?お主達は今から迷路へ行くのだろう?」



「皆さんの分ですよ?冷めるまで少し開けといた方がいいと思って……僕達が『迷路の謎解き』している間に暇なら飲めると思って?」



 僕は宝箱から業務用バタークッキー(1kg) と業務用チョコブラウニー(1kg) に業務用バナナチップ(1kg) の袋を取り出して空いているお皿の部分に、どんどん盛っていく……


 そして宝箱はクロークに回収しておく……万が一トラブルで迷路から出られない場合の非常食の代わりだ。



「待っている間食べててください。なるべく早く帰って来ます……」


「私も頑張って迷路で契約してくるよ!」



 そうルモーラが言うと、『ルモーラだけズルい!』と声が上がる。



「じゃあ皆さん僕が行ってくる間収穫お願いしますね?色々他の食べ物も置いときましたけど、収穫の褒美は『チョコレート1袋』ですので……忘れてませんか?」


「「「行ってらっしゃーい!!!」」」



 ブーイングから一斉に仕事モードに切り替る妖精達……僕は安心して向かおうとするがトレントから待ったが入る。



「ヒロよ!ちょっと待つがいい……この木の実を持っていくがいい……それにしてもお前は……狡いな?全く……聖女でもこのワシに、ここまでさせた者は居らんぞ?」



 トレントが枝で指す方に実があった。


 上を見上げていると、トレントの枝から木の実が落ちて来るので、僕は咄嗟に掴む。



「それは『森の精霊』が死ぬほど欲しがる物だ……『トレントの涙』と言う実で森の精霊が『上級精霊』になるのに欠かせない物だ……それさえあれば『森の精霊』とは契約できるだろう……風の精霊は自分でなんとかするんだな!」



『バリボリ……バリボリ』


「このバナナチップはなんと豊かな大地の味なのだ!!根から吸い上げた旨みを身に蓄えてそれを乾燥させたのか!素晴らしいぞ!異世界!!」



 渡す物が済んだ森の賢人的には、もはや僕達はどうでもいい様だ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕達は薔薇のアーチを潜り中に入る。


 中に入るまではわからなかったが、完全に異次元だ。


 作りは天高く薔薇の壁が聳え立っている。


 目の前の通路を見ると奥の方が蠢いている……どうやら形がどんどん変わっている様だ。



 僕は『アルブル・モンドの見渡しの魔法地図』を出して広げると、隠し部屋やら動く壁などの表記がどんどん入れ替わる。



「マジか……刻一刻と形が変わるのか……ひとまず進むしかないな!」



 僕がそう言うとエイミィとローリィは地図を見て……『反則ってこんな事を言うんだろうね?』と言い、ルモーラは目玉が飛び出るほど地図を凝視していた。



「位置が変わる以上、隠し部屋は近くに来たらダッシュで入るしかないね!」


 そう言って『モノクル』を出す。


 このモノクルは幻影を全て見破ってくれるので幻影壁の意味は全てなくなる。



 僕は迷わずにどんどんと進む……初めの幻影壁にぶち当たったが、モノクルのお陰で幻影壁の意味をなさない。


 壁の中に消えていく僕を必死に追いかけるローリィとエイミィそしてルモーラ。



「あ!下級風の精霊さんだ!」


 ルモーラが近づこうとすると突風が吹き荒れる。



「く!近寄れない……せっかくのチャンスなのに!うわぁぁおぁぁぁぁおわぁぁぁーーー」



 ルモーラは飛んでいるので風の影響をもろに受けるので、後ろに飛ばされる所を即座に掴む。



 風精霊も水精霊と同じだろうか……と思いつつ僕は地面に転がる木片を魔力容器に入れて切削する……



 作った物は『風車カザグルマ』だ………水精霊には『水鉄砲』が大人気だった。


 ならば……と思い作ったのだが……



『シュルシュル………シュルル』



 突風でクルクル回る風車だが、それを見ていた風精霊が集まってくる……思いの外風の精霊には大人気だ。


 風の下級精霊がドッサリ集まり木片風車の周りをクルクル回り出す。



 水精霊と同じ様に彼等は自分が活躍できる物を非常に好む様だ。



 僕はその風車をルモーラへ渡す。



「ふえ?いいの!?コレ……風の精霊入れ食い状態だよ!?こんな良いものを!!」


「いやいや!全員分今から作るから!」



 僕はそう言ってから周りに散らばる木材片を探す。


 森精霊の影響だろうか?結構倒木が通路の端にあったり、木が生えている通路があったり……鬱蒼と草がしげる通路があったりとどの通路も同じ物がない。



 ひとまずルモーラに渡したサイズと同じものを作り、エイミィとローリィに渡す。



 すると当然そっちに集まるグループもできて、2人と1匹の手に持つ風車は緑色の綿飴の様になる。


 因みに妖精は、念力をフル活用して意地でも風車を維持し続けている。



「突然力が!湧いて来るんですけどぉ!!」


 そう言ったルモーラの『妖精の服』の袖は風を巻く様に渦巻いている。



「あれ?ルモーラ……洋服に袖あったっけ?」



 ルモーラの服は肩出しのワンピースだった気がするが今は袖がある……



「はぁぁぁぁ…………風の!塊が……自由に動かせる……ハッ!ま!まさかぁ!私の風精霊さんどこにいるのー?」



 ルモーラがそう言うと、風車の特等席と思われる真正面を陣取る精霊が一際綺麗に輝く。



 どうやらその子がルモーラの風精霊の様だ。


 どうやら風の精霊も主人の奪い合い中の様だ。


 その風車を独り占めして、風羽を回すことができる席は1席と限られているからだろう。



「そこの貴方!それを作っている所を見たわ!!私にもっと凄いものを作りなさい!」



 唐突に僕は話しかけられた……目に前には絶対ヤバイ存在が居る。


 その理由は明確で今まで風車の周りを回っていた精霊が、全部その女性の方へ向かっていった上に、周りには『水っ子』の様なお付きがいる。



「え?………」



「聴こえなかった?我ら風の精霊の力を有効に扱い『人の信仰』を得られる物を作りなさい!コレは!私と貴方の契約!!貴方が約束できるなら……この風の中級精霊が契約するわ!我々『風の眷属』の信仰が失われて久しいの!今こそ貴方のその考えで『人族の信仰』を!!」



「そう言われても……木材加工ができれば『風車小屋』を作れますけど……人も感謝するしお互いwin-winな関係でしょうが……僕は出来ないので……」




「木材加工ができれば良いのね?良いわ!着いて来なさい!!」



 僕達はほぼ強制的に連れていかれる……その先頭を歩く風精霊のお付きは彼女より若干階級が低いらしい。


 彼女達は同じ中級だが『風の眷属』は各階級に順位がある様だ。

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