第478話「森精霊の試練と風精霊の助力」



「ちょっと!何勝手に試練の間に入ってるの?う……嘘でしょう……触ってるし!!こうなったら仕方ない……貴女達も人族と契約して手伝いなさい!パートナーを選んでいる暇はないわ。今すぐその人間達と契約を!………って!なんでもう契約済みなのよ!?アタシだけなの?未契約って!!」



 部屋の異変に気がついた風精霊達2人は主人の危険を察知して飛び込んでくる。


 風っ子は、自分のお付きが幻影騎士の前に立ちはだかるのを見て、直ぐに『契約済み』と理解した。



 幻影騎士はあからさまに『敵意』を発している。


 風精霊達は自分の契約者を当然守るべきだ……指示される前に戦闘態勢に入るのは自然な事だ。



「ヒロって言ったわね!今すぐ『風祭壇』を装備………って既にしてんのね!!何しれっと装備して待ってるのよ!言ってよ!!もう!!『我らが王、精霊王に申す!我、風の中級精霊は命尽きるまでこの者と運命を共にする事を精霊王に誓うものなり!この者に風の祝福を!!」



 周りに旋風が吹き荒れる……



「準備は良いわよ!!何時でもかかって来なさい!幻影騎士!!」



『ゴォォォォ!!グオァァ!!』



 幻影騎士が雄叫びをあげると、霧が一面を包み部屋の構造が一変する。



 霧が晴れると周りは薔薇の壁に囲まれた巨大な闘技場に姿を変えていた………



 目の前の騎士は『幻影騎士』と呼ばれるだけあって、体が霧状になり消えたかと思うと僕達の右側から現れ剣を振るう。



『エアー・シールド!!』


 風っ子さんが叫ぶと風の盾が生成される……剣を激しく振るうが見えない壁に阻まれ斬撃はこっちにまで届かない。


 打ち込む度に弾かれる幻影騎士の剣……それを見たローリィとエイミィは距離を保ち矢を撃ち込む。



『ザス!!……シュパン…………』



 一本めの矢が刺さると、すぐに霧状になり次の矢を避ける幻影騎士。



「厄介な敵ね……エイミィ!実体の時に撃たないとダメージは入らないわ!無駄撃ち無しで行くよ!」



「分かったわ!ローリィ!」



『バオォォォォォ!!』



 エイミィとローリィがコンビネーションを組もうとするが、見事にその間に割って入る幻影騎士。


 実体が消せるからこそ出来る手段だ。



「く!コイツ!わざと此処に!!……ローリィ!バックステップ!!距離を保って!」


「分かってるわ!エイミィ!……ちょこまか消えて卑怯者め!!でも!コンビネーション崩しだなんて!なかなか……やってくれるじゃないの!」



『バオォォォォォ!!消え去れ!!ファントムザッパー!!』



 話せないと思っていた幻影騎士は『言葉』を発し、周囲に斬撃を放つ大技を繰り出す……



『『エアーアロー!!』』



『ゴハァァァ…………』



 エイミィとローリィが契約した風精霊は、同時に前後から風の矢を撃ち込む。


 寸分違わず撃ち込む魔法は、避けられる事もなくダメージを与える。



「ローリィ同時タイミングで有ればダメージは与えられます!」



「エイミィ避けられない為にはタイミングと距離を揃えて撃てばいいのです!」



「やってくれるじゃ無いの!流石私達の精霊ね!ローリィ負けてられないわよ私達も!」


「そうね!愛想尽かされない様に完璧にこなして見せようか!同時射撃やるよ!!エイミィ!!」



 まるで計算したかの様に、詠唱タイミングも到達時間も同じ射撃を行う風精霊に触発されたのか、エイミィとローリィが同じコンビネーションを実戦なのに試し始める。



 エイミィとローリィは闘技場を駆け回り、位置を特定させない戦法に出る。



 初めのうちは、ちょこまか動き回る二人を追い掛けて攻撃しかけていた幻影騎士だったが、突然姿を消して霧状になると闘技場全体を包み込む。



 当然距離感を失い、動きが止まるエイミィとローリィ……



「キャァァ!」


「アゥ!!…………イッタァ………」



 唐突に霧の中で二人の声がする……状況から見て何かが起きたのは明白だが、霧のせいで全く状況が把握できない。



「大丈夫ですか?エイミィさん?ローリィさん?…………うぉ!イッテェ!!」



 理由は僕にもすぐに分かった……目の前の霧がレイピアの形になり僕の足に刺さったからだ。



「厄介ね!霧状になって本体を出さずにダメージを稼ぐつもりよ……本体が見えないんじゃ打つ手なしよ?どうするつもり?」



 風っ子は自分にその手段がないのか僕に解決法を聴く。



「風の精霊は霧を払いながら僕の方へローリィさんとエイミィさんを連れて来てください。上手くいった場合は部屋が狭いので巻き込まれます!急いで!」



「今すぐ向かいます!!邪魔になってごめんなさい!ごめん風精霊さん!ヒロさんのところまで霧を払って!!」


「アタイ達やらかしたかーー!安定的にヒロさん無敵だよ!こっちもお願いします風精霊さん!!」



 その言葉を最後に、風精霊を先頭に霧を強烈な突風で飛ばしながら僕の方まで走ってくる二人。



「いいですか?状態異常は仕方ないですが、死なない様に回復を忘れずに!!」



「死なない様に?」


「死なない様に!?」


「「「死なない様に!!??」」」



『アイス・ストーム』



 僕は『アイスフィールド』を複数回唱えようと思った………そうする事で闘技場全体の温度を下げて、霧の水分を凍結させて動きを止めるつもりだった。


 しかし直前に見た風精霊の起こした突風の『風魔法』が頭から離れなかった……だから完全に『言い間違えた』



 しっかり頭でイメージをしてしまったのだ………すごい雪と風に吹きさらされる光景を……


 闘技場の霧は所詮『空気中の水蒸気』だ……魔法だろうが何だろうが『物理現象』である部分は覆せない。


 幻影騎士が霧になろうが、姿を細かくして隠そうが凍らせてしまえばどうなるか……それは目の前を見ればよくわかる。



「ガチガチガチガチ…………サブイ!!サブイ!!シム!!アタヒ……シム!!ヒロ……シンジャウアタヒ……(白目)」



 ルモーラはエイミィのクロークに包まりひたすら傷薬をぶっかけられ回復魔法をかけてもらっている。


 僕は『再生』が効いているのを確認してから、目の前で凍結して歪な氷の彫像になった幻影騎士を砕く為に走り出す。



「ヒロ!!幾らなんでも不用意に!……近づきすぎよ!!まったく危なっかしい!『エア・アーマー』」



 風っ子は僕が飛び出した事を咎めながらも、身体への衝撃を和らげる防御魔法を唱えてくれる。


 なんだかんだ言いながらも、契約関係が成り立っている証拠だ。



 僕はアイスストームでやらかした事で、思い出したことがあったので実践する為に接敵する。



『ストーム・ハンマー!!』



「はぁぁぁあ??何よそれーーーー!!私……知らないわよ!?そんな風魔法!!」



 風っ子の絶叫と共に、僕は風魔法で生成したストームハンマーを幻影騎士に投げ付ける。


 戦鎚を凍結中の幻影騎士にぶつかると、強烈な圧縮空気が解放されて周囲にも放たれる。



 もの凄い風が身体に吹きつけて僕は吹き飛ばされる……『エア・アーマー』が無ければ自滅で結構な被害を受けていただろう。


 仲間は精霊が作った風の防御壁でなんとか突風を持ち堪えている。


 ウォーター・スピアが『水の槍』なので、風は『ストーム・ハンマー』にした……嵐の戦鎚と言ったところだろうか?


 イメージは打面を中心に圧縮された空気が爆発するイメージだ……



 水魔法が出来たのだから、他の魔法もできると思ったのだが大成功だ。


 『イメージが大切』だと、モンブランも水っ子も言ったのだから風魔法だって同じだ。



『ガッシャァァァン……………』



 砕けて細かくなって消えていく『幻影騎士』


『森精霊の試練に打ち勝ちし者達へ……森の守護者より力を授ける『森精霊の慈愛』を今此処に……』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


      『獲得者』


『ノグチ・ヒロシ』


『ルモーラ』


『エイミィ・サンフラワー』


『ローリィ・ハイドレンジャ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「やった!!アタシ!死ななかった!ローリィ!エイミィ!ありがとぉぉぉぉ!おえぇぇぇ………」



 死なない様に傷薬をぶっかけられ、飲まされまくったルモーラは飲み過ぎで吐いていた。


 ココアと傷薬は飲み合わせが良くないのかもしれない……と言うよりココアの飲み過ぎだ。

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