第467話「副村長の不正と新しい村の仕事」
来たのは、この村では間違いなく受け入れられ難い人物であるヤクタ夫人とその父だ。
「ヒロ男爵様!お待たせ致しましたわ!父上がお礼に何を……と悩むものですから……え!?……な……何が?この者が何かをしでかしましたか!?ヒロ様が激怒されることを……マークラ!村営ギルドから今すぐ衛兵を呼んでまいれ!!」
「ヒロ男爵様!!我が子にあの様な素晴らしい剣を………マジックウェポンなど王宮騎士団とて早々持てぬのに……礼を言っても言い切れない……ぬ?……何がどうなって?この男が何かしたのですか?ヒロ男爵様にぃぃ!!ぐぬぬぬ………今すぐ不敬罪に処す!衛兵すぐに来るが良い!!何が何でもこの不埒者を直ぐに引っ立てよ!!」
「ちょっと!ストップ!!いえいえ……コレはなんでもないですよ。勝手に衛兵呼ばないでください。それと伯爵様が僕に『様』付けはおかしいですから!ヒロと呼び捨てにしてください」
「ヒ………ヒロ男爵様?ヒィ……ヒロ………男爵?さまぁぁ??」
青ざめる周辺住民はもとより、副村長は自分がやったことを後悔してショックの余り泡を吹いて気絶する………
気を失うほどのことだろうか……と思ったが実際に気を失ったのだ、僕が貴族である事が何か余程ショックなのだろう。
僕はその事がショックだ!
「ヤクタ夫人聴きたいことが……お主人とこの村の繋がりはご存知ですか?」
「勿論です……貴族だからと力で押さえ込んだり、都合が悪いから逃げたりなどは致しません。皆様……我が夫『ヤクタ』がこの村で行った悪行について、心より謝罪させて頂きます……大切な家族を失わせる真似をして、本当に申し訳ございませんでした!」
ヤクタ男爵夫人の心からの謝罪だったが、今までの苦労が吹き出す様に口から文句がでる。
「謝って済むと思ってるのか!?」
「そうよ!私の主人は帰ってこないのに!御免なさいなんて………」
「ふざけるな!父を返せ!!」
村人が口々に不満を口にする。
このジェムズマイン南部の領主夫人では無くても、元ヤクタ夫人のマッタリは『貴族』である事は変わらない。
その彼女に文句を言えば不敬罪に問われても仕方はないが、黙って居られないのもよくわかる。
だが彼らは、自分の身が可愛いあまり力の無い子を放って置いた……そう言う意味では孤児から見れば同罪だ。
「皆さん気持ちはわかりますが、今日この時まで孤児を放っておく貴方達はある意味同罪では?『自分の家族が居なくなったので、他の家族も同じ様に』……『苦しむ子供の顔は見なかったふりをする』……『裏で貴族と繋がって居るから副村長には敵わない』……だから言うことを聞く……今の現状はその結果では無いですか?」
「貴族に逆らえば『不敬罪で死ぬ』のに!私達に選択肢は無いんですよ!?私たちにどうしろと?」
多分彼女の亭主は鉱山戦に連れて行かれたのだろう……彼女の娘と思われる子供の頭を撫でながら、腹を括った顔で僕を睨みつける。
「だったら誰かが『ザムド伯爵』を尋ねれば良いでは無いですか?あの人は無下にはしませんよ?特に『腐敗貴族や悪辣貴族』と正面切って戦う方ですから。若しくはウィンディア伯爵も少し行けばいるではないですか?僕が言った事は確かに結果論ですが……立ち向かわなければダメなんですよ!神はあてにはならないんです!助けてなんかくれません!!」
「ヒロ男爵様は同じ貴族だから肩を持つんでしょう!?不敬罪でも何でもすればいい!どうせ死ぬなら……この際だから言わせてもらうわ!貴族は自分の事しか考えないじゃない!」
村人がそう言うが、孤児達の意見は違う様で……
「ヒロ様は違う気がします……こんな風に稼ぎ方を教えてくれる貴族様は……居ないのでは無いですか?ワタシは頭が悪いから難しいことはわからないので……間違っていたら御免なさい……」
孤児の言葉を聴き口籠る村民達だったが、今まで搾取されていただろう村民は、副村長にされて居るだろう事を口走る……
「どうせ稼いだらその全てを搾取するつもりなのよ!貴方達はまだ幼いから分からないかも知れないけど!貴族達は……『申し訳ありません!此方に香木の取り扱いがあると聴きましたが!!』……全員……は………はい?」
キレ気味にそう言った女性の言葉を、躊躇なく遮って割り込む輩が来た……
その男は目が既に¥(金貨)マークになっているので、僕が呼んだ人で間違いない……
「すいません!何やら重そうなお話中に……我々は商団のマッコリ……!!!おおお!!こんな沢山のフォレストウルフの毛皮!!コレの売却先は…………まだですか?早く!早く買取契約を!!今すぐ!お金なら此処に!!」
「すいません!!ちょっと待ってください!我々も……それに混ぜて………マッコリーニ!!抜け駆けは狡いですよ?何一人で全部買おうと!!」
「ま……………間に合った………ゼーゼー!!マッコリーニ!フラッペ!独占は許さんぞ!!特にマッコリーニ!お前は既に色々手に入れてるでは無いか!?この村の物くらいはワタシへおこぼれに!!」
タイミングよく残りの金の亡者2人が来た………
役者は揃ったので、この村の建て直しを始めよう!!
「僕達はたまたまこの村の周りで魔物を倒しましたが、埋めるのに手間が掛かるし孤児達が食料に困っているそうなので肉を持ち帰りました。今村人にも素材切り分けを手伝ってもらってますが、引き取りは『村長』に聞かれると良いですよ?」
「な……何を言って……ヒロ男爵様?」
「何を……って……何がですか?」
ユイナには悪いが取り仕切りをさせて貰う……
しかし感の悪い村長は割って入るので実に面倒くさい。
「ですが……コレは冒険者様も関係する事ですよね?」
村長は割と気にするタイプ且つ本当に鈍感らしいので皆に聞く……
当然皆は、既に僕のやろうとする事に気が付いてニヤニヤしているので、聴くまでもないのだが……
「成程……じゃあ聞いてみますね?誰か欲しい人いる?僕はこの子達の食べる物をユイナにお願いしただけだけど、ユイナの指示で皆狩りに行ったよね?」
「ワシはコレが欲しいと言うより……今日泊まる場所が欲しいぞ?」
「アルベイの言う通りで確かにそうだね?多分今日中には帰れないよね?ジェムズマインには……折角故郷に帰ったし1日くらいは居たいよね?エイミィ?」
僕が尋ねるとアルベイは今日はここで宿泊か……と言う顔をして、ローリィとエイミィはホームシックの様だ……家族は居ないが先程言っていた墓参りくらいはしたいのだろう。
そしてアーチも帰るのを諦めた様で……
「野営は嫌だなぁ……寝辛いし!!みんちょもそう思わない?」
「布団がいいねぇ……あと外より村の方が明るいし安全だし!!」
などとカナミを巻き込んだ会話をする。
「だそうですよ?皆宿屋の心配みたいです……まぁこの作業も時間かかりますしね?」
僕が指さすとそこにはエルフがウルフの血抜きをしては、血抜きが終わった個体を入れ替えている。
「買取契約の前に、この村の仕事を明確にしたいと思いますけど?その後に各商団との取引契約で……ちなみに僕の推奨する仕事は村単位の収益にする予定です。それぞれの取り分は、その後に話し合いと契約書の発行になりますかね?……それで異論は?」
「何故ですか?男爵様には1銅貨にもならないじゃ無いですか!?」
「いえいえ!ちゃんと税払って頂きますよ?懐に貯め込まれて今回の様な悪行の連鎖にならない様にね?働けばしっかり稼げて暮らしが楽になる様にするだけですから!それに僕とすれば稼ぐならダンジョン周回した方が稼げますよ!」
口を開けて呆然とする村民……
「もう一度説明しますね?良いですか?皆が豊かになれば、それだけ稼ぎが増えたって事ですよね?そうすれば税金納められますよね?暮らし向きが良くなれば体力も付くし、何より前向きに働けますよね?結果的に領内へ還元もされる訳ですよ!」
「ですが……そう言っても実際にどうなるか……喜ぶだけ喜んだ後でしっぺ返しは嫌です……もう苦しいのは……」
村民から悲痛な声が上がるので、実演してもらおう……稼ぎが手に入れば意味がわかるだろう。
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