第468話「保存食の生産地」


「では実際に『今稼いで』貰いましょう!じゃあ準備しますね?」



「稼いで?準備??」



 僕は村長を伴い『よく覚えてください』と言っておく。



「商団の皆さん此処のウルフ素材は村の物です……ですので、魚醤と討伐素材の物々交換を見繕ってください。」



 マッコリーニ達は『待ってました!』とばかりにあれこれ物色して、魚醤と交換していく。



「村民の皆さん!解体作業はちょっと置いておき、今から村の特産作りを急ぎます。良いですか?分担作業です。皮剥きに乾燥と粉砕は僕がやります。道具屋のおばさんは麻袋(小)をある限り持ってきて下さい」



「は……はい!今すぐ!!…………」



 ダッシュで店に戻るおばちゃんは少し走ると派手にすっ転ぶ。


 サンダルで走ったせいだ……その後何事もなかった様に走るその後ろ姿は何故か笑えた……当然村民からも笑いが起きる。



 僕は種類ごとに皮剥き・乾燥・粉砕を行う。


 そして村民にタライを持って来させて、魔力容器から中に移し替える。



「も……持ってきました!まだあるので足りなくなったら持ってきます!」



「ならばこの麻袋(小)の元金はちゃんと計算して、村長に後で請求して下さい。今から商品を作ります。この麻袋に高木を種類別に詰めて下さい!それを彼らに買って貰います。今日はあれですが今後の買取数は早い者勝ち……」



「早い者勝ちは辞めて下さい!!」



 そう言って駆け寄る氷菓屋のフラッペ……



「ならば定期的にこの村まで『買いに来て貰う』しかありませんが?」



「「是非!喜んで!!」」



 マッコリーニは非常に悔しそうに黙っているが、フラッペとハリスコは何度も万歳をしている。


 そして村民はびっくりした顔で砕かれたチップを見て『コレがお金に?』と言っている。



「と言うわけで……全員でこの小袋に詰め込んでください。パンパンに入れずにある程度ゆとりを!香木にも限りがありますからね?」



「「「そ!そんなーーー!」」」



「商売人の前でそれは厳しい!!ヒロ様には負けますな!………くぅーーー!!」



 欲深い3人はがっくりしている……だがほぼ3人の独占なのだがっかりする必要は今の所ないはずだ。


 欲で目が見えない様だから『でも三者で独占ですよ?今のところ……』と教えてあげた……3人は声を揃え「「「確かに!」」」と言っていた。



 袋がある限り作った後、今度はそれを商団へ販売する……


 種類別に並べたが端数は出てしまう……端数の袋は若干奪い合いに近い感じになったが、三者で上手く分ける様に言ったら渋々聞いていた。


 作った側からお金になるので『村長』は空いた口が塞がらなかった……


 商談中は村民も気が気ではない様であったが、彼等にはまだやる事が山積みだ。



 僕は村人の仕事が循環する様に作業班を設定する。


 切り分け班⇨ジャーキー制作班⇨村の蓄え制作班の作業を定期的に循環させる……これは全員が同じ作業を出来る様にする為だ。


 一連作業を村の稼ぎにする事で、村民は定収入を得る計画だ。



「コレは保存食になるので村の蓄えにもなりますし、冒険者の非常食にもなります。中に乾燥ゴブ茸を入れておく事で汁物にした場合に旨味も期待出来ますし、栄養価も高いです」



 切り分け班は慣れでどうにかなるが、ジャーキー制作班はちゃんと覚えた講師的存在が必要だ……


 それは常に手が開く孤児達の仕事にすれば良い。


 定額を稼げるし摘み食いできるし……火傷にきをつければちびっ子にはもってこいだろう。



 一通り教え終わったので、その後は僕が関与せずに全員で実務作業だ。


 飽きない程度に仕事を代わってやって貰う……



 手を抜けば品質が悪くなる上にクレームの元だし、そもそも刃物を扱う仕事だから事故の元だ。


 幼い子には刃物は危険なので、それ以外の仕事しか出来ない。



 ちなみに火の管理はこの村にいる幼い子でも出来る……この村に関わらずだが、元いた世界と異なり火が使えなければ、自分の飯の用意など出来ないからだ。



 腹を満たせる汁物を作るには、湯沸かしが必要で火は欠かせないからだ……小学生低学年くらいの歳の子がやっているのだ、見ていると涙ぐましい……



 僕は作業する村人が気にしている収入面の説明する。



「今日の稼ぎは商団の買取金額を一度村長へ集めます。その後『袋代』を差し引いた金額を皆さんに還元します。村長は人数の把握と平均給料を計算して、作業終了後に全員へ収益から均等に配布して下さい」



 作業をしていた手を休めて話を聞く村民は、未だに自分たちがお金を稼げる現状が受け入れられない顔をしている。


 しかし僕は、そのまま話を続行する。



「明日からの仕事は、『香木採取班』・『ジャーキー仕込み班』『表皮剥き・粉砕班』に別れて作業をして下さい。乾燥後それを袋詰めして『商品』にして販売して稼ぎを得ます。ジェムズマインへの売り込み、若しくは商団の呼び込みは話し合って決めて下さいね!」


 それを聞き、手をワキワキさせながらマッコリーニが村長へにじり寄るが僕が阻止する……話の途中だからだ。



「当然製材業がメインの村ですから、それを忘れてはなりませんよ?今回の『不正』をみすごとは領主としてしません!既に、ヤクタ男爵は『死刑』になりました。国家反逆罪、王族反逆罪挙げるとキリが無いです」



「な!何ですと!?どういう事ですか?ヤクタ男爵は死んだのですか?」



 僕の言葉で騒然とする村民だったが、代表として村長が質問をする……


 代わりにシャインがそれに応える。



「ヒロ男爵様は『鉱山の魔物を討伐』して、その後討伐部位を奪って逃走したヤクタ男爵から『遺骸』を取り返したのです!その上、王宮へ運搬中の『秘薬』強奪の企てを見事に阻止して、褒美として男爵爵位を王様から直々に拝命し、ヤクタ男爵の治めたジェムズマイン南部を拝領したのです!!」



「え!?!!!このジェムズマイン南部の新しい領主様!?なのですか?ヒロ様が?……あ!いえ……ヒロ男爵様が?……というかその格好………冒険者なのでは?」



「はい……冒険者上がりなので今でも冒険者ですよ?隠すつもりも無いです。ヤクタ男爵の件であれば本来村長の耳に入っててもおかしく無いと思うのですが?」


 僕はその事を不思議に思い問いただす様に聞いてみた……


 その結果は簡単な事だった……既に名前だけの村長であり、実権は副村長が握っていたのだ。



「少しおかしいと思ったのですが、かなり前にヤクタは姿を消しました……なのに未だにヤクタ男爵の権威を使い実権を?鉱山戦が終わった事も聞いて無いのですか?残念ですが……鉱山に送られたみなさんは………」



「どう言う事ですか?3日前に私の主人は『鉱山兵士』で連れて行かれたのです!!」



「僕のお父さんも4日前に連れて行かれました………鉱山戦は終わってるのですか?じゃあ何で?」



 僕の言葉に逆に質問を被せられた……コレは既に問題発覚でしか無い……



「マークラさん、すぐに副村長の事情聴取を村営ギルド職員と衛兵へお願いして下さい。絶対に隠滅させない様お願いします。あと副村長の自宅の立入検査と書類押収を!家族が証拠隠滅の前にすぐに!」



「ハ!!ヒロ男爵様!直ちに!!」



 マークラがすぐに行動に起こしギルド職員と共に副村長の家を捜索する。


 万が一家族が証拠書類を燃やして隠滅しない様に、事情聴取はその後になった様だ。



 マークラがイスクーバを馬車へ迎えに行き、家族の取り押さえをさせた……罪滅ぼしの一環の様だ。


 副村長の家はかなりの大きさだったが、入って半刻で飛んで戻ってくるマークラ……


 ギルド職員とイスクーバは伴っていないので、彼等はまだ証拠を探しているのだろう。

 

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