第461話「男爵としてのお仕事とアナベルとの会話」


「アルベイ!ごめん!私達も一度村に戻るわ?ヒロ男爵様が村のあるジェムズマイン南部を統治するなら、私達も一緒に行った方が説明早いし!」



 エイミィとローリィがアルベイに事情を話すとエクシアが、



「明日から回るんだろ?ヒロは?だったらダンジョンは明日からじゃないから行ってこい!アタイ達が伯爵と予定を決めて出るのは少なくとも4〜5日後だ。直ぐに潜っても敵が多ければどうにもならんしね、あとテイラーとシャインも手伝ってもらわにゃ、今回みたいだとアタイ達だけだとヤバいからな!」



「そうじゃな……ならば我々も折角だから、お前さん達の故郷を見に行くか!前に香草料理を自慢してたもんな?この際じゃ丁度いいじゃろ?」



 そんな話があって僕達の予定が決まる。


 僕は、ミミの他にローリィとエイミィを伴い領内巡り、護衛にエルフの3グループに三姫達と、輝きの旋風にミミの在籍する銅級パーティー。


 ダークフェアリーの強襲など万が一があると危険なので、異世界組は同伴行動。



 エクシアは、貴族任務の打ち合わせと準備があるので街で待機。



 今回領内移動に関係ない銅級グループである、アイアンタンクとスノウベアーは地力をつける為にギルドで依頼消化となった。


 アイアンタンクとスノウベアーはファイアフォックスに来ている依頼の、トレンチのダンジョン1階層から4階層までの大掃除をする事になった。


 山程のゴブリン種を狩る依頼なので、同時で街営ギルドの依頼を受ける事で纏まった。


 当然イスクーバがこの場にもいるので、明日は執事のマークラも伴い詳細を説明しながら同行すると言い、ギルドからすっ飛んで帰っていった。


 多分明日の予定をすり合わせに戻ったのだろう。



 時間も既に夜10時を迎えている……夜なのによく皆食べるなぁと思いつつ僕も平らげていると……



『ツンツン』


 脚元を見るとスライムが触手を伸ばして『ちょーだい』ポーズをしている……チョコレートの催促だ。



 僕はそっとクロークからチョコレートを取り出して鷲掴みのそれを渡す。


 取り出した数はざっくりだったが、10個の約束より多かったのか返そうとするスライムだったが……それが異世界組3人娘の目に止まる。



 ミクとカナミそれにアーチだ……



 一人ずつ僕の横に並び両手を出す……スライムの真似だろう……


 仕方ないので10個ずつ渡していくと、何故かエルフレアまで並び始めてその後ろにユイとモア、そしてスゥが並ぶ……一つ目の袋が空になったので、2個目の袋を開けて配る……スゥの後ろには何故か2周目のスライムいたので一個だけ上げる。



「「「ずるい!!」」」


 スライム相手に大人気ないミクとカナミとアーチだったが、今日の功労者はスライムだ。


 水精霊を呼ぶ為にウォーターを唱えたのも、溶解液を出したのも……



「スライムは貰う権利があります!水精霊を呼ぶときも、溶解液の素材もスラがやったんです!だからご苦労様のお礼の一個です!!」



 スライムは最後に一個貰ったチョコレートを持ってギルドから出ていく……


 念話で『アリン子ニアゲテクル』と言っていたので、性根が優しい子だ。



「スラはアリン子にあげる様ですよ?」



 それを聞いた3人は耳を塞ぎながら自分の椅子に戻り、夕飯の続きを食べ始めていた。



「じゃあお開き前に報告だが、今回の魔物討伐部位とかは全てギルド預かりにさせて貰うよ?これは必要な時に各々へ下げ渡す感じになる、何がどれだけあるかは、帳簿で確認してくれ!合同討伐の場合は、全員で共通の素材これがここのギルドの流れだ覚えておいておくれ!」



「じゃあ今出しますね、机の上でいいんですか?」



「ああ!悪いね!ヒロが居ると便利でいいよ!」



 僕が預かった討伐部位や素材を机の上に出すと、サブマスターのザッハが溜息をつきながら……



「沢山あるな!帳簿つけるのは明日でいいか?エクシア……流石に夜が明けちまうよ!!」



 サブマスターも大変なんだ……と思う一瞬だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから僕達はギルドから宿へ戻った……



 宿には既にスライムが卓上を占拠していて、亭主にご飯を貰っている……



 胃袋は底無しだな……と思いつつ、お風呂の準備をお願いする。



 夕飯の準備は、ビラッツが言いにきた様で従魔分しか用意をしていなかったそうだ。


 しかし、悪魔っ子も戻ってきて食べた様で、食べ終わった後またもや孤児院にお泊まりに行ったそうだ。



「あの娘っ子から伝言じゃ……『畑の世話で明日の朝早いからお泊まりしてくる』と言っておったぞ……あ、あと土を掘るのにアリン子も連れて行くと言っておったぞ」



 僕は裏庭に急いでいくと既に遅くアリン子は居なかった。



 そして宿の亭主が追っかけてきて……



「凄いの?あのアリン子は……畑の土を耕してくれと言ったらあっという間にこの状態じゃ!」



 畑の土はふんわりとして、一目でいい畑と分かるものが広がっていて、ちゃんと畝まで出来ていた。



「土掘るのが好きらしいぞ?半分掘った所でわしが見つけてな?すまんが頼んでしまった!歳だから土を耕すのも大変でな!ちゃんと褒美に、ご飯は大盛りにしたから怒ってないと思うぞ?」



「いえいえ!アリン子も暇だったでしょうから、逆に仕事をくれて感謝しますよ。土掘りが好きそうですからね!」



 僕と亭主は笑いながら宿へ戻った。



 この宿の風呂は男女別なので、男側はあっという間に終わるが女性側は大変だ……タバサもお風呂だけはこの宿に借りに来ていた。


 同じパーティーメンバーとして借りるのは問題ない様だった。


 亭主の場合、その程度の細かいことは言わなそうだが……



「随分疲れている様じゃな?無理しないで早く寝たほうがいいぞ?無理をすれば身体を壊す、そうすればまともな冒険も出来んからな?まぁ貴族様じゃ冒険なんぞ本来必要ないはずだがな……」



 僕は亭主の忠告もあり一足先に部屋へ戻る。


 ベットに倒れる様に転がるが、まだ寝るわけにはいかない。



 壁に手を当てて『倉庫』の扉を出す。


 中に入ると、あの時いなかった『アナベル』が倉庫内を物色していた……主にカップ麺と棚に置いたウィスキーだ。



「おや坊や!寝ちまうかと思ったがね……ちゃんときたね!関心関心!!さっきは済まなかったね来てやりたかったが、野暮用でね!」



「こっちの世界と関わってはいけないと前に言ってましたからね?大丈夫ですよ。それに色々と知りたいことは長谷川くんのおかげで分かりましたし……」



 僕は話しながらウイスキーを1本取り、カップ麺の箱を開けて3個ほど取り出してアナベルに渡す。



「それをカップ麺と言います。カップ麺は熱湯を内側の線まで入れて3分待てば食べられます。ウイスキーはもう知ってますよね?」



「良いのかい?そのカップ麺ってのは折角異世界から取り寄せたって言うのに……」



「出来れば………長谷川くんの魂が安らかに眠れる様に……そんな物しか今は渡せないので……」



「大丈夫さ……もう彼は元の世界に還しておいたからね……肉体が無い以上、わたしにも送る手段はある……ただ同じ時代じゃ無いかも知れないのは勘弁しておくれ。あの子がいた前か、同じかはたまた後か……到着しないと分からないんだ」



「そうですか……なら尚更渡すべきですね……彼の為に僕が出来ることはこれくらいですから……」



「彼は喜んでたよ?最後に『同い年で、同じ世界の友人ができた』ってね……あとね、彼からの『ギフト』も預かったよ」



 アナベルは少し寂しげではあるが、僕をまっすぐ見てそう言った……

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