第462話「引き継がれる想いと力」


 そう言って『アナベル』は僕の手を握ると、掌に焼印の様な焼け爛れた紋様が浮かぶ……



「それは彼がこの異世界で手に入れた『特殊な力』だ……能力は『デス・アサシン』暗殺者の中でも、特に戦闘力特化した力だよ……」



「その力はね……彼をこの世界に連れて来た奴を、仕留める為に研いできた牙だ……彼はアンタにあのダークフェアリーを任せた……その礼にって事みたいだね。『今後のアンタには絶対に必要になるだろう……』だってさ……」



「ううううう……長谷川くん……申し訳なかった……もっと早くあの階層に行っていれば………ううう………」



「残念だけど……無理だよ……アンタはアラーネアと仲が良いじゃないか?分かるだろう?アレに関わると……どうなるかをさ?」



「でも……それでも……あんな消え方よりマシだった筈………」



「何を言っているんだい!感謝したからアンタに『それ』をプレゼントしたんだろう?最後に出会えて良かったって思ってやんな?300年は短くはないよ?一瞬でもその時間が報われる瞬間が来たんだ……彼の魂はそれで救われたんだ……」



「アナベルさん……アイツは何をしてるんですか!?他にも居るんですか?」



「このダンジョンの多くは『自然にできた』訳ではないよ。あの馬鹿共が引っ掻き回す為にこさえたもんだ……多くの人間、魔物がアレに吸収された……そしてアンタの同郷の奴等もね……」



「なんで……この世界に神様は居ないんですか?アレを許すなんて!」



「残念ながら……人間メインの考えでは『神』は動かないよ?それはアンタの世界だって同じじゃないかい?家畜を繁殖させて食べてるじゃないか……弱肉強食それが世の常さ……だから仕方がない……だがね……食べる為に繁殖させたのに、食べられず捨てられる生き物は『恨まない』とでも思っているのかい?」



「それとこれは意味が違う!!」



「確かにね……そう思うなら、『アンタが辞めさせる』しか無いだろう?力づくかそれとも説得か……それはアンタ次第だよ?誰かに縋ったって助けてくれるのは、あんたに何らかの目的があるやつだけさね。厳しい事だがアンタの世界もこっちの世界も変わらない……」



 アナベルの言うことは間違っていない……自分中心の考えだと言う事はわかっている。


 既にこの世界で魔物を倒している僕は『魔物の縄張り』に足を踏み入れて襲われたから倒した……では『縄張りに踏み入れなければ?』その魔物は誰も襲わなかちゃかもしれない……弱肉強食で他の魔物を食べていただけかも知れない。



 しかし……だからと言って、全てを飲み込める程『大人』ではない。



「あの坊やも私も、アンタに言えるのは『死なずに還れ』としか言えないのさ……彼はその為の『剣』をくれた……大事に使いな!そして何かを頼ろうとするな……特に『神』なんてもんは絶対だ……アンタに出来ることも出来なくなっちまうからね?」



 僕は深呼吸してアナベルに向き直りお礼を言う……今までは文句を言う場所がなかった……


 あのダークフェアリーが目の前にいる訳でなく、仲間にも言えない……皆出身は違うが気持ちは同じだからだ。



 だからと言ってアナベルに八つ当たりするのは『間違い』だ……わかっている。



 段ボールからカップ麺を3個引き抜きアナベルに渡す……



「すいません……八つ当たりしちゃって……悪いのは神でもなく世界でも魔物でもない……あの『ダークフェアリー』です……そして他にも被害者がいるなら少しでも早く助けに行って、還す手段を探します……それは八つ当たりのお詫びです……そんなカップ麺ですいません……」



「良いよ!それに異世界の味なんか、そうそう楽しめないからね?一つ忠告するなら、アタシだったら今のうちに『モノリスプレート』で減った分の注文をかけとくけどね?」



 僕は笑いながら、『確かに!!』と言って、プレート操作をして『期間限定醤油味カップ麺』を7ケース注文する。



「またまた……随分注文したね?……ポチが喜ぶだけじゃないかい?それに一箱多いじゃないか?異世界人の人数数えても6ケースだろう?」



「1ケースはアナベルさんの分ですよ……また何かあったら相談に乗って貰うだろうし、愚痴も聞いて貰うだろうから!!前もって買っておきました」



 アナベルは『成る程ね!……でも八つ当たりは程々にね!』と言って笑っていた。



 僕は睡眠時間の事もあるので、今日は部屋に戻る事にした……



 戻る前に、他のダンジョンに居る異世界人の事を聞いたが『世界に関わる事は出来ない、例の名前が出る地図で『ダンジョンの位置』を確認して潜った方が早いよ!』と答えを貰った。


 何処かは分からないが『居る事に間違いはない』だろう……そしてヒントも貰った。


 今度は間に合うと良いが……死ぬ気で頑張ってもランクの高いダンジョンだと、助ける前に本当に死んでしまう……



 確実に進まねばならないし、『流れの情報』がない以上、怪しい『服装』の人間についての聞き込みしかないのだ……


 異世界人は、間違いなくこの世界の服装と違うから、見たならば『目立つし印象に残る』……筈だ……


 部屋へ戻ったあと、僕は水っ子を読呼んでお礼を言う。



「凄い助かったよ……まさかユニーク素材の溶解がそんな危険な事だと思わなかったし、それに説明にもそんなこと書いてなかったから……言い訳になったけど本当にありがとう」



『良い経験だったでしょう?まぁ私的には久々におねぇ様と一緒に仕事できたし?こっちの世界で会えたしヨキヨキ!!」



「どこでそのヨキヨキ覚えたの?」



 ミクやカナミそしてアーチが何かあるたびに『ヨキヨキ』と言っているのを、ビックリした事に水精霊が真似をしていた。



「アーチが良く言ってるよ?最近水筒に多く水入れてくれててさ、私の事呼ぶから化現してあげてるんだよね!水の加護もあげられるくらい、水精霊の信者としての質も上がったし!そろそろ下級精霊見繕ってあげようかな?とか思ってるんだよね!」



 ビックリだった……いつに間にそんなに仲良くなったのか……



 よくよく聞けば寝る前にお祈りを欠かさない『アーチ』はある日、化現をお願いしたらしい……


 それも馬車移動のキャンプ中だったそうで、真横に居るのに言われたから化現したら平伏したそうだ。



 そこからアーチとの急接近が始まり、現在まで交流が続いているそうだ。


 因みに今日のお風呂でも一緒に話していたそうだ………


 僕はお湯でも化現出来るんだ……と感心したら、そこは流石に水だった……


『次ダークフェアリーとの戦いになったら、化現許可無くても私は飛び出るよ?流石に貴方は私のご主人だからね?あと、皆のレベル上げとかないとダメよ?外で万が一襲われた時、魔物対魔物であれば相手が不利になる様な戦いが出来るからね?』


 珍しくまともな話だったのでビックリした……


『明日に為に寝ないとダメよ?ちなみにモンブランは既にお休み中だから起こさない方が良いよ!この時間は闇の時間だから彼女めっちゃ機嫌悪くなるから!』



 そう言われてスマホで時間を確認すると既に0時になろうとしていた……



『8刻寝ないとレベル上がらないでしょ?寝たほうがいいよ?』



 水っ子の言う通り8刻寝ないとマックスレベルが上がらない……ちゃんとした休息が必要だ……



 鑑定してから寝ると、経験値余剰が(+10)を示している……当然と言えば当然だ……地下5階層から10階層まで降りて改装ボスと呼ばれる魔物を何匹も倒したのだから……


 潜る前に既に(+3)はあったのだ……7増えて(+10)になっていてもおかしくはない。



 僕は水っ子にお休みの挨拶をして布団に潜り込むと、あっという間に眠りについた。


 その日の夢は、アナベルにあげたカップ麺を長谷川くんが啜りながら、椅子に座って『やっぱり熱心メーカーの期間限定ラーメンは美味いな!』と言っていた。


 そして僕にお礼を言って『そのスキル大切にな!ちゃんと還れよ!』と言って消えていく夢だった……



 ひどく生々しかったせいで、寝ている間に泣いていた様だ。


 寝る前にアナベルと彼のことを話したせいで、そんな夢を見たのだろう………

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