第394話「強者揃いに喧嘩を売ったら自滅しますよ?」


 目の前の2匹のゴブリンはエアースラッシャーで首を刎ねられて絶命して、少し距離のあった最後のゴブリンは足元から影の矢で穴だらけになってその場に倒れ伏す。



「は……早すぎませんか?……本当に銅級冒険者?」



 周りのフラッペが雇った冒険者たちがそう話す……しかし僕は油断などできなかった……



「皆まだ来ます!気を抜かないで!アーチ!立ち位置を戻して!ユイ、モア!スゥも!前に出過ぎない様に!」



 僕が指さす方向にゴブリンが更に2匹……そして背面からも2匹来ていたが……僕の『空間感知』にはあからさまに変なものが映っている……ゴブリンが来た方向には何故か『人間』の反応があるのだ……



 来る前に『人間』と悪魔っ子に言われていたので、人だと思っていた。


 だから感知は使わないでいたが、ゴブリンが居たことで『空間感知』を使ったが、こんな状況とは……



「これは……あの侍女5人が焚いていた……魔物避けのお香?……だから敵と視認してこっち側に来るのか!」



 人間が居る場所を見ると、何かが燃える煙が見える……風向きが『村』から『王都』側なので戦闘集中してしまえば気が付かない……ここまで焦げた匂いがしない以上……『魔法』を巧みに使っている可能性がある……



「チャック、すまない指示を任せる!エクシアさん!!岩の裏に『野盗』です。このゴブリンは全て『嗾けられた個体』であって魔物避けのお香を使用してます!」



「マジか?あ!『空間感知』ってやつか!感知持ちは本当に便利だな……クソ野党が犯行に魔物使うなんて……ならばこっちも『奥の手』を使うか!!折角人のままで相手してやろうと思ったのにな!



 僕がそう言った後、エクシアは魔物を利用した『野盗』に完全に怒った様だ。


 たしかに魔物との戦いで疲弊した後に『本命』が来たら、戦いにならない場合さえもある。



 エクシアは荷台から飛び降りると僕より速く岩場に向かっていく……



「おいで!焔蛇!もう一人の私……『炎の女神!山神たる力を!』この世の穢れを!共に焼き尽くすよ!来れ!『チャンティコ』」



 精霊化したエクシアの行動は正しかった……相手は『風魔法』を使っている可能性があるので、遠距離の威力はユイの魔法で一目瞭然だ。



 僕はエクシアと反対の敵に突っ込んでいく。



「野党のクソどもが!お前等みたいなのが人襲うのだけでも苛つくのに『魔物』なんぞ使いやがって!アタイは『お仕置き』ですませる気はないよ!その命ここに捨てて行きな!!」



「な!?ラミア?炎に包まれた??人語を話すぞ!こんなやつ無理だ!逃げろ!」



「馬鹿かお前等!なんで人間の商団に『魔物』が混じってるんだ!幻影魔法の間違いだ!冷静に対処………」



『ギィィヤァァァァァ!!!熱い燃える!ダレガダズゲデ!!』



「………なんで燃えるんだ!げ……幻影の筈だろう!!人の商団に何故魔物が?さっきまで人だったじゃないか!!」



「誰が魔物だって!?精霊使いのことを知ら無いのかい?なら冥土の土産に良いもの見れたね!じゃあな、あばよ!とっとと燃えな!!」



「辞めて!助けて………がぁぁぁ!!」



 野盗たちの叫び声が岩場に木霊する……



 僕はエクシアの向かった方とは逆に行こうとしたら、アリン子が岩場から降りてくる……降り際にゴブリンが邪魔だったのかアリン子の大顎がゴブリンの頭を噛み潰す。


 前までは食べたであろうゴブリンの頭を『ぷっ』と吐き出すアリン子は『グルメ』になった様だ。



「ねぇ!お兄ちゃん……この人達何人か捕まえたけどどうしよう?」



 そう言ったのはアリン子の上で『のほほん』としている悪魔っ子だ……そして2人程アリン子の背中に乗せられているが手足が在らぬ方向に曲がっていて、何やらブツブツと呟いている……。



「人間じゃない!少女じゃない!悪魔だ!絶対に悪魔だ!グレートアックスを素手でひん曲げるなんて……腕の感覚ももう無い……どうなってるんだ……俺の腕……」



「脚が……俺の脚が……うごかねぇよ……コイツ少女じゃない!悪魔だ!絶対悪魔だ!!なんで魔物に乗れんだよ!?」



 アリン子が馬車に着いたので周りの状況確認をするが当然、相手側は全滅だ。



 こっちは被害ゼロそして向こうは大怪我の生存2名でゴブリン13匹で、人間は18人が死亡人間の半分は黒焦げで全く性別も分からない。



「エクシアさんやり過ぎです!せめて回収出来るもの位は………」



 僕がそう言うと、胸を張って……



「金があればこんな事しないだろう?『素寒貧』だから此処を根城にしたんだって!」



 言われれば確かにそうだけど………



 なんか腑に落ちない……そうこうしていると伯爵一行が僕たちに追いついた。



 状況説明を済ませた後周りを念の為探索する……隠し財産は『空間感知』には反応しないからだ。



 しかし見つかったのは『檻』と『大型荷馬車』だけだった。



 僕はゴブリンの入ってた檻を、ウォーターで綺麗にしてからマジックグローブで収容する。


 近くには野盗が使ったと思われる大型荷馬車が数台止まっていた……当然檻を運んで来たのだろう結構大きいので、それもせっかくなので馬を外してからウォーターで洗って乾燥して回収する。


 ウォーターでわざわざ洗うのは『ゴブリン』が閉じ込められていたのでかなり汚いのが理由の一つで、マジックグローブに仕舞うのも『汚いとなんか嫌だ』と思ったからだ。



「馬が結構手に入りました……大型荷馬車もかなりあったのですが……分配どうしましょう?」



「そんな物……誰が欲しいんだ?そもそもそんな大きい物使っていたら邪魔じゃないか?商団でもこのサイズなのだぞ?」



 結局誰も欲しがらないので、僕が収納をしたままにする。



 馬は飼育費が嵩むので貴族の二人が引き取ると言っていたので僕とテイラーも勧められたので一頭ずつ貰うことになった……これから領持ちになるので必要になる……との事だった。



「ではこの者たちをノーマット村のギルドまで連行しよう……『男爵が共にいた商団』を襲ったとあれば……此奴は縛り首は決定だがな……」



 男爵一行と聞いた野盗の二人は『知らなかった』と言っているが、知っていようがいまいが『犯罪』には変わりない。


 半刻程でノーマット村に到着する。



 村では既に王都のスタンピードの話題が持ち上がり、この後行く先を考えていた商団が結構集まっていた。


 宿泊は伯爵の持つ遠征用の別邸で、今回はマッコリーニ達3商団も特別に宿泊を許されていた。



 理由については、行きは秘薬配送で王都へ向かうザムド伯爵だったが、当初と予定が大きく変わり『王都の貴族』になったから『専売商人枠』で王都に来た時のすり合わせの為だ。



 その間暇だった僕達は、村の酒場に向かう事にした。


 行きはまともに村を見学もできなかったので、チャックの誘いもあり折角だし行く事にした。



「なぁチャック?実は聞きたいことあってさ『祝福系の宝箱』ってさ珍しいって言ってたじゃん?特定条件で落ちるとか何か決まりはあるのかな?それと『祝福』って複数あるのかな?」



「なんすか?唐突に……あ!まさか……蟻の巣ですか?また手に入れたんですか?特定条件は多分あるでしょうね?『運良く』と言う話をしている輩は、拾得率がやけに高かったりするし……」



 勘のいいチャックは僕が手に入れた事を察した様だが、『Sランク箱』と伝えると『それは開けられる人が限られる』と残念がっていた。

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