第395話「王都帰路の危険な魔物との遭遇戦」


 チャックはカウンターで、お酒のおかわりを受け取って戻ってきて話を続ける……



「でも何で『王都』で開けなかったんで?あそこなら間違いなくS箱でも開けられますぜ?」



「だって……また王様が来る可能性もあるじゃんか?大変だったんだよ!」



 チャックはその状況を察したのか『なるほど』と小さく頷いた後に『Sランク鍵買うしか無いっすね!』そう言って苦笑いしていた。



「そう言えばチャック……王様にはもう拠点は貰った?どの辺りになるの?」



「ああ!貰いましたよ!でも王都に拠点があっても、すぐにそっちには行かないんすよ……だからギルドに貸出する事にしました。そうすれば定期的に金が入るんで。ギルドの個室扱いでスイートルームになるみたいですよ?」



「『みたいですよ?』って……ずいぶん適当だね?まぁ管理もできないしね……貸出できるなら良いよね!それに比べて……伯爵邸なんか要らないんだよなぁ……まぁ爵位敵に男爵邸になるんだけどさ」



「そうっすよ!俺の事より益々日どう状況一直線ですからね?リーダー……それに『ヤクタ男爵』を自領にしたんですよね?あそこは前から酷いばかりで立て直しは大変ですよ?確か……」



 お互い貰ったが使い予定のないもの過ぎて、対処に困るとしか言えなかった……



 チャックは話の途中だったが、今はヤクタ元男爵領の情報を思い出そうと考え込んでいる……アルコールが入っているせいで思い出すのに時間がかかる様だ。


 僕はお酒がのめないのでと言ったので、水になりそうだったが、カウンターの脇にレモップルが捨てられていたので、目ざとく見つけてそれを使ってジュースを作って飲んでいた。


 知らない人は本当にビックリするが事情とレシピを説明すると、即座に感謝に変わるのは気持ちがいい。



「そうそう!『水鏡村』と『香木の森』あと『薔薇の村で通称ローズヴィレッジ』がありますよ?ファイアフォックスメンバーの故郷だって話ですね!せっかくメンバーの故郷の領主になったんですから……はちゃめちゃにしないで下さいね?なんか……ヤクタ男爵の時よりひどい目に遭いそうで……良い意味ですけどね?」



「おう兄ちゃん!さっきのレシピのお礼だ、飯作ったから食っていけ!お仲間さんにも全員渡しといたぜ〜ありがとうな!酒が飲めない客はレモップルジュースが大人気だ!消費期限だっけな?腐ってその日の数時間は脚が短いが、棄てるだけよりマシだからな!あとレモンティーも大人気だぜ!また食いたいものあったら言ってくれ!今日は店からの奢りだ!」



 話の途中で大量のツマミや飯や肉が持ち込まれる。


 レモップルの扱い方を知らない商団のリーダーは店主になんとか聞き出そうとするが『コレは教えられん!』と言って誤魔化している……確かに利益だけを狙えば食中毒で『バッドステータス』のおまけが付くので、守れそうにない人には教えるべきでは無い。



 チャックが大量のご飯を前に酒をどんどん追加するので、あっという間に酔っ払った彼を伯爵邸に連れて行く僕達は大変だった。


 翌朝ノーマット村から出るときにノーマット村冒険者ギルドのギルドマスターが野盗グループの素性を報告しに来た。


 どうやら王都近辺のスタンピードを聞きつけて、この犯行を思い付いた様だ……


 リーダーは既にエクシアに対処されたので居ないが、人の不幸を利用した犯行だから弁解の余地などない……この世界のルールに従って自分で責任をとって貰うだけだ。



「ウィンディア伯爵様、今後ともノーマット村をよろしくお願い致します。この村は王都との中間に位置しますが、巨石群がある所為で最近では、襲撃の危険を避けるために大回りさえする事も見受けられます……自警団だけではどうにもならない場合も有りますのでザムド伯爵の様にお助けを!!」


 その言葉にウィンディア伯爵は、快く応えて安心させていた。


 聴く限りは、ウィンディア伯爵とこの村長にギルマスは良い関係性を続けていけそうだ。



 此処まで王都から4日順調に過ごして来た。


 休憩中は、エルフの特訓やら騎士団の特訓やらロズの盾使い講習やらで、それぞれが足りない部分を補い合っていた。



 充実して居たのはエルフ達も変わらない。


 長い年月で食糧事情が偏っていたが、ヒロとの出会いで物の見方に偏見がなくなって、多くの事を柔軟に受け入れていける様になっていた。


 しかしこの事が、後々問題になってくるとは思ってもないエルフの一行だった……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「銅級冒険者は全員防御を固め!動くんじゃ無いよ。あんた達にはアイツには敵わない!テイラー!使えそうな奴を使って防御を!」



「エクシア、分かった!銀級タンクは前衛立ち位置前に前進。シャイン、タンク全員に加護魔法を!」



 テイラーは既に男爵位であるが、エクシアはテイラーに指示を飛ばす……皆にとって最早爵位などそんな事はどうでも良い。


 状況はひっ迫していた……エクシアは既にチャンティコの形態に変化して戦闘中だ



「ベロニカさんとチャックは威嚇射撃を密に!荷馬車へ寄せないで……伯爵達は騎士団員の真ん中に、エルフの皆さん射撃対応お願いします!アーチはスゥ達と此処で待機!アリン子すぐにこっちへ僕を背中に乗せて!」



「ヒロ!!何処行くんだい?ジャイアント・マンティスの群れなんだ!無茶すんな!」



 僕達は村を出てから2日は安定した帰路を進んでいたが、残り1日で状況は豹変した。



 周りには魔の森と岩場が点在した場所で、穢れも多いその所為で異常繁殖した『ジャイアント・マンティス』の群れが街道沿いに出て来て居た。


 既にジェムズマインから出て来たと思われる、連合3商団が襲われて居た。


 なんとか銅級冒険者が頑張って居たが、既に半数は護衛として、使い物にならない程の手傷を負った所に僕達が到着した。



 当然この件を発見したのは『悪魔っ子』で、距離があったのでアリン子と騎士団で救出の為に先行したが、商団に銅級冒険者を残してザムド伯爵達まで来てしまった。



 そしてその後を今度は3商団が追いかけて来た……僕に解る様にマッコリーニはチャームを掲げながら来たので、防衛に人を割かなくて良くはなったが、後々の事を考えたら離れた位置でこっそり出して居て欲しかった。


 僕は悪魔っ子にチャームが効果を及ぼす可能性があるかも……と思いつつも、リュックにチャームをくくりつけてからチャイに持たせて怪我人の応急処置をさせている。



 少なくとも魔物は追い立てられる様に離れて行ったが、進行方向がジェムズマインに向かって居たので、今度はジャイアント・マンティスを追いかける羽目になった。



 その結果現在の状況に至る……



「エクシアさん!範囲呪文を唱えるので皆に回避の指示を!!」



『アイス・フィールド!!!』



「なんてこったい!全員ヒロの立ち位置から前に絶対行くな!巻き添い喰らうよ!!」



『ウォーター・トルネード!!』



 アイスフィールドで凍結状態を構築した上で、ウォータートルネードを唱えたので水竜巻の表面が凍りつき、内側のねじれる水圧で氷結状態の表面が割れて、周りに氷片が凄い勢いでばら撒かれる。



 ジャイアント・マンティスは全部で4個体と5個体の2グループは、氷結状態になり動きが緩慢になる。



 僕は魔法効果を強制停止して討滅指示を皆に出した……『今です!距離感を維持して全員攻撃を!』

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