第393話「僕らにとって曰く付きの場所」
「此処からあと3日と少しほど行けば行きで通ったノーマット村だ、廃村になったフェイガス村の様にしない為にも、様子を確認してから出る事にする。ウィン一緒に視察を……次からは君がやる事になるからな!」
「分かったよ!ザム!」
お互いを愛称で呼ぶ二人は爵位も同じになったので、もう気兼ねなく人前で話せる様にもなった様だ。
そこから3日は行きとは異なり魔物との連戦が続いた。
騎士団の対魔物戦闘の経験を積む為に『チャーム』の使用をしなかった。
マッコリーニにもその事を話して、出さない様に指示をしておいた。
エルフの3集団は、騎士団と冒険者に食事の持てなしの御礼として、剣の扱いや弓の扱いを教えてくれていた。
盾の扱いはロズがメインでやっていたので言わなかったが、太陽エルフ達は接近戦特化な種族なのかロングスピアの扱いが神がかっていたので皆一生懸命に覚えていた。
僕はと言えば、接近戦にあまり適性が無いのかイマイチ上達しているのか微妙だったが、生活魔法の『ライト』『着火』『風起こし』を半日で全て完璧にマスターした。
「ねぇ!あそこに何か見えるけど村?あとこのまま進んだ岩場に馬車があって、武器持った人がいっぱいいるけど何かあるの?またダンジョンで悪いアリンコ大発生?」
悪魔っ子がアリン子の上で器用に背伸びをしながら、指さす方向には何も見えなかったが行きに通って来た道なので、多分ノーマット村だろう。
この距離で村を言い当てる悪魔っ子の視力は、一体どんな数値を出すのか凄い気になるが……それにしても武器を持って集まっていると言うことは『野盗』の類だろう……僕はザムド伯爵に許可を貰い一団を止める。
「すいませんこの先に『野盗』の集まりがあるみたいなので、罠を掛けたいのですが……フラッペさん協力お願い出来ます?」
「ふへ?は……はい?野党の討伐に?私が?……で……出来ることならば協力しますが……多分『囮役』ですよね?」
突然矛先が自分に向いたせいで、変な返事になったフラッペだったが……内容は説明するまでも無く理解して貰える部分が『頭がよく回る』証拠だ。
この世界では、テレビもアニメも小説もない……娯楽は吟遊詩人の歌やら収穫祭りやら、まれに来る旅の一座の催し物位だろう。
経験と想像力が異世界人程豊かでは無い以上、詳しい説明も必要だ……しかしながらフラッペは説明要らずでその点で合格だ。
「荷物が多くて『襲いやすそう』なので……積荷的にもフラッペさんみたいな人が良いかと。食料と貴重品それに特産品と豊富ですし。」
そう言いつつ僕は皆に説明をする。
フラッペ商団は個人で冒険者を雇っていない……共同出資で冒険者を雇っているのだ。
だからそのパーティーを入れ替える。
護衛でつくのは、彼女が雇った2パーティーに僕達のトレンチのダンジョン出会い組……要は銅級班で全部を固めるが中にはエクシアも混じってもらう。
3パーティでお金を節約して王都から来た商団を装う罠だ……僕は御者席横の冒険者扱いで乗る。
アリン子がいたら絶対襲い掛からないだろうからだ。
戦闘が始まったら当然、アリン子に『猪突猛進撃』(通り過ぎて鉤爪で『ズバッ!!』とやるアレ)をお見舞いして貰う予定だ。
ちなみに技の命名はエクシアだ。
「良いじゃないか!アタイは荷台で酒飲みながら出番待ってるよ。いやー其奴等は良いところに来たね!人間相手の実戦は騎士団には譲らないよ?って言うかさ?物凄く暇だったんだよ。騎士団員が増えたのと実戦稼ぎで魔物狩ってしまうから……アタイは手持ち無沙汰でね!」
「それにしてもこの距離で分かるとは……向かう所敵無しではないかヒロ男爵は!その『野盗』を仕留めた場合は、ジェムズマイン領主になるウィンの初仕事になるな!だが……野盗を前に相変わらずだな……エクシア殿は!はっはっは!」
ザムド伯爵は悪魔っ子の一連を知っている……彼女の能力と言えば尚更怖がられる可能性があったので、そこはうまく誤魔化す事にした……こんな時にミクのクルッポーが居ると言い訳が楽なのだが……
しかしエクシアの適当さが今は助け舟になった。
エクシアをはじめとしてファイアフォックスにメンバーには、王都で起きた一連のことを全部話してある。
ドクリンゴ事件に悪魔っ子の経緯、アリンコスーパーコロニーの事はエクシアがメンバーに話してくれたので、僕から特別何かを話しては居ない。
ダンジョンで珍しく僕が欲しがった『異世界の祝福箱』をエクシアにこっそり聞かれたので、説明をしながら以前手に入れたものの話をしたら……
『異世界人こわーーー!宝が変わってしまうなんて金貨も入ってないんだろう?完全にマイナスじゃ無いか!』
と言われて……『成程』と思った……たしかに金貨や装備が欲しい冒険者には、意味の無い物の場合もある。
「じゃあ皆さん……よろしくお願いします!」
こうして『野盗殲滅戦』が始まった……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
フラッペの商団を護衛しつつ、岩が多くなる巨石群に入る。
「グゲゲゲゲ!!ギャギャ!グガ!」
「ギョーー!ギャギャ!ギャギャ!!」
悪魔っ子の指示した部分に近づくと、襲いかかって来たのは『ゴブリン』だった……
「え?ゴ……ゴブリン?……く!悪魔っ子は二足歩行を区別出来ないのか?……荷馬車を停止!パターンAだ!!2グループは馬車付近で商団員を警護!チャック!頼むぞ!」
「おうよ!!任せとけ!……ゴブリンか……まぁ人間に似てるわな!」
「アーチとスゥ!いいか深追いは禁止だ、商団員の安全優先に!ユイとモアにチャイは援護の準備を怪我人に傷薬を!行くぞ!!」
勢い良く走り込んでくるゴブリンの額に、次々と矢を撃ち込むチャック……エルフ仕込みの矢捌きはかなり上達していた。
僕が知っている限り、暇さえあればチャックはエルフと交流をしていたのだ……上手くなる理由はそこにある。
その矢を木製の盾でうまく避け襲い掛かるゴブリン……
『ザシュ!!』
アーチは両手にメイスを持ち、片手のメイスで器用に武器を弾き、もう片方のメイスをゴブリンに叩き込む。
そしてカバーに入る様にアーチの横から躍り出るスゥ……
「ゴブリン如きが!何匹来ても無駄だって教えてあげるわ!」
スゥは踊る様に斬撃をかわしては、ゴブリンの急所に剣を突き立てる。
「モアちゃん、ユイちゃん時間が勿体無いから手伝って!三人で『アレ』やれば時間短縮できる!」
「いいよ!スゥちゃん!ユイやるよ!」
「うん!分かった!!チャイさん、ごめんなさい。行ってくるので援護任せます!」
ユイとモアが何故か前衛で剣を振るい、ゴブリンの間合いと動きにタイミングを合わせてスゥと立ち位置を変える。
スゥは此処でも踊る様に近づき、最も簡単に後続のゴブリンを切り払い後衛に戻ったモアとユイにアイコンタクトをして、立ち位置を変える。
そのユイとモアは先程と立ち位置が逆転していて、初見では攻撃方法を見分けることなど出来ない。
「風よ鋭き刃となり敵を切り裂け!!ウインドスラッシャー!」
「影よ矢となりて敵を貫け!!シャドウアロー!」
モアは影の矢を生成して撃ち込む……それは敵の影を利用した魔法で、相手の影の中から超至近距離の死角射撃だ。
そしてそれを有効にさせる為に先に放った魔法はユイの魔法で、風を使った鋭利な刃物を飛ばす魔法だった……当然視認できてしまうので注意は其方に持っていかれる。
だからこそ、モアのシャドウアローは完全な死角射撃になり得るので、とても計算された魔法攻撃だ。
それにしても……二人はいつ魔法を覚えたのだろう……何か隠しているのだろうか?
まぁ……あのエルフ弓の火矢の件がある……このパーティーはトレンチのダンジョン用の臨時パーティーでもあるのだ……魔法を隠していたのも当然だろう………
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