第389話「相手の発案を認めた上で、全部ひっくるめて利用する!!」


 一回層から5階層まで降りた時の話を、エルフ達に聞いたザムド伯爵は少し大袈裟に伝える。


 ギガント・ミノタウロスが3体同時に襲いかかって来たと若干脚色して話していたが、高度な知能を持つ2匹が居たとなれば、意見が『防衛』に回りかねないからだろう。


 まぁギガント・ミノタウロスで十分脅威だが。


 5階層は光も届かぬ暗闇と言っていたが、割と光苔が点在してて見やすかった。


 問題は『ライト』を唱えなければ、その効果も見込めない……そういう意味では暗闇なのは間違いがない。


 上の階層に戻る時が一番大変だったので、各階層の階段周辺の地図作りを行わなければ、階下にはとてもじゃ無いが降りれない事を伝えると、先程まで敵対心を見せていた何組かの貴族は王様側に乗り換えた様だ。



「しかし、スタンピードが王都へ来なかったとしても、我が所領に向かうのは『決まった事』ではないだろう?お主が言った通り、何処に行くかは分からんでは無いか!仮に方向が私の領だったとして、別の貴族の所領に進路を帰る可能性だってあり得る!可能性の問題なら何とでも言えるだろう!」



 クーロン侯爵がそう言うと、周りが白い目で見る。


 自分の所領だったらそれこそ問題だが、他の所領が襲われる事など知るか……と言う発言に他ならないからだが……


 僕にしてみれば今の彼等の関係を壊すには、ちょうど良い発言なので利用させて貰う……



「仮にそうだとして、周りが困っていようが助けない側の貴方に周りは『肩入れする意味』はあるんですか?……今この場で見捨てられましたよね?貴方に従う方とすれば、利点はもう無いじゃないですか?」



 ハッ!としてクーロン侯爵を見る面々……


 そしてさらに一押しする……危険を回避したい貴族へ救済のお断りだ。



「そんな時に王様に『助けてくれ』と言っても遅いですよ?僕は『王様のお願いでも』仲間以外は助けません!!蟻の餌にでもなって貴方達全員が居なくなってくれれば御の字ですから!」



「そ!それは同じ王国の貴族としてあるまじき発言では無いのかね?ヒロ男爵?」



「何故貴方は、この状況で僕たちに助けを見込めると思ったんですかね?今まで僕を馬鹿にしていましたよね?ならば全て自分で解決できる『最終手段』があったのでしょう?ならばそれをやればいい!!僕に頼らずとも『御三方で』何とかできる目算があるのでしょう?」


 助けて貰いないことが明確になったフューリー子爵は、なぜか僕を『王国の貴族』として扱い始める……


 僕は突っぱねた後に、王様にちょっとした立案をする。



「陛下!因みにこんな方法があります。この件には2通りの手段が出ました。それは『遠征組』と『防衛組』です……ならばその各々が競えばいいのです。」



 僕は皆の前で説明をする。


 王の『遠征組』が結果を出せたらなら、円卓貴族の見直しを王の『王権派』が力を増し、逆に『防衛組』が各所を防衛し続けて、王都や他の所領への被害が出なければ、王が誤ちを認め『反王権派』が力を増す。



 そして、それを選ぶのは円卓12貴族とそれ以外の各貴族で、好きな方の派閥へ入る。


 結果は今後の進捗報告でわかるので問題はない。


 スタンピードが起きない限りは、防衛組は出動しないから被害はないので無傷だ……しかし遠征組は費用が嵩むので防衛組の標的にされるのは間違いない。



「どうですか?最終的にダンジョンは破壊する目標であるのは変わらない事実なんですよね?防衛組も周りの貴族を取り込む口実で良いのでは?結果的に『防衛』したい貴族には防衛を選ばせて、『遠征』したい貴族には遠征させれば?」



「それでは我々が不利では無いか!結果防衛だけさせて美味いところだけ取りたいだけでは無いか!」



「何を言っているんですか?防衛だけをしててもダンジョンは120%無くなりませんよ?誰かが中に入らねばならないでしょう?」



「だからそれを王へ申し上げているではないか!危険な真似は金にガメツイ冒険者がやれば良いと言っておる!我々騎士団は王国を守る為に存在するのだ!」



「ならば貴方が『冒険者をさらに雇って』両得すれば良いだけなのでは?王国にしてみれば、何処の誰がダンジョンを破壊しても助かるんです。貴方の騎士団は防衛で、お抱え冒険者だけを最下層に送り込んでダンジョンのコアを破壊すれば、貴方が1番の功労者になるのですが?」



「そ……そんな事が出来るわけ……防衛組を選んでおいてダンジョンへ遠征もさせるなど!我々の苦労が2倍でおかしいでは無いか!」



「何故ですか?出来ない理由は?お抱え冒険者制度は貴族では割と行われてますよね?それを多めに雇うだけじゃ無いですか?今までと何が変わるので?今までが最下層を目指してなかったのであれば、明確な『目的』ができるだけじゃ無いですか?」



 クーロン侯爵と舌論の一騎打ちだが、負ける気は全くしない……これは屁理屈を言って『勝てば良い』だけの子供の喧嘩なのだから……


 そして屁理屈の極め付けは『ゴーレム』だ!



「それに遠征組が『防衛』してならないのであれば、僕のゴーレムは既に『石』に戻さないとならないんですけど?……僕はダンジョンに遠征するつもりなので?皆さんはそれで良いのですね?ならば……僕の代わりに貴方達が『ゴーレム』を用意してもらえるんですよね?」



 そう言って僕は王様を見る。



「クーロン侯爵どうなのだ?譲歩案を出して、其方がやりたい事を推奨した様だぞ?だが王都が襲われれば我々も『防衛』しないわではない……自分達の国なのだからな?基本行動が『遠征』と言うだけだ。最終的には『防衛』もして、攻め込んでいる我々が『優位』になるのは間違いは無いぞ?理由は簡単だ……儂は国王だからな!」



 王は自分が『勝てる』と挑発をする。


 僕は王の言葉に追加をしておく、勝敗の行方を明確にする為だ。



「だからこそ最初に『遠征組』か『防衛組』を選んで貰うんですよ!最終的にこの国で優位性の勝敗を決めたいんですよね?『貴方』は?……ならば『防衛』を選びダンジョンのコアを貴方の冒険者が破壊すれば、我々は『破壊出来なかった』となり、あなた方に謝る事になります」



 これで彼は『防衛』を選択した上で、お抱え冒険者をダンジョンへ派遣しなければ『碌に何もしなかった貴族』になるのは決まった。


 問題は彼のお抱え冒険者になる、ダンジョン知識の地力がある冒険者がいるかどうかだ……



 他の逃げ道とすれば、スタンピードをまともにやり過ごせる代案を出す事だが、彼には『ゴーレム』の様な手駒はないだろう。



 彼等がやりたい『防衛』の許可を得られた以上、彼等は従うしかない……しかし問題は遠征組にどれだけ貴族が参加するかにもよる。


 腐敗貴族と悪辣貴族がこの王国に多ければ、遠征組への参加者は激減するだろう……



 そのかわり、遠征組へ参加しなかったそれらの駄目貴族は、ダンジョンの攻略終了と同時にお払い箱になる可能性はでかい。



 円卓12貴族に比べて今までの実績も無く、裏のコネも力も無い貴族など立ち回れるはずも無く、王に見限られて当然だ。



「では、採決を取るまでも無いな……クーロン侯爵よ?お互いの『遠征か防衛』の派閥に入る貴族を、それぞれで集めようでは無いか!」


 王はそういうと、臣下を呼びつける。



「誰ぞ!王国中の貴族に全冒険者ギルドへ通達せよ!『ダンジョン攻略』の為の『遠征班』とスタンピードに備えて王都の『防衛班』を設立する!」



 そこで僕は王へ『大切な事』を伝える為に口を挟む……それは『遠征班』を構築する為の手段の一つだ……

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