第390話「遠征班と防御班」


「陛下!王都お抱えの『専用冒険者枠』を設立をお願います。今回持ち帰った『リザードマン種』の素材を使った専用装備の上級探索班と『トンネルアント種と亜種』の素材を使った中級探索班を!」



 僕の発言で、書き留めている臣下を一時止めさせる王様……



「うん?どう言う事だね?ヒロ男爵……あのリザードマンとトンネルアント亜種の素材で造った装備を冒険者へ渡すだと?持ち逃げされぬか?」



「そうですね陛下……確かにその心配はあります。その為に魔法契約などの専用契約は必須かもしれませんね。例えば『国王権限』で出来る何かを用意するとかはどうですか?そうすれば逃げ無いかな?とか思うんですが……まぁ王様の特権って何が出来るか分からないので、その内容はお任せですが……」



「ふむ……専用の宿舎や高待遇は用意できるし、騎士団への推薦もできよう……それで続きは?」



「今回持ち帰ったリザードマン種とトンネルアント種の素材で作った、装備をダンジョン攻略班へ貸与するんです。リザードマン種の装備は『銀級』トンネルアント種の装備は『銅級』などでどうですか?そうすれば彼等は今より安全にダンジョンへ潜れますよね?」


 今王国に必要なのは装備ではなく、スタンピードを起こさない『この地帯の安全』だ……と言う事を告げてから目的を話す。



「下層の敵を倒せば、もっと良い装備も手に入りますし……低ランク冒険者に梃入れをする事で、ダンジョンの地図を人海戦術で仕上げるんです。」



 その話に王様だけでなく、周りの貴族も口を挟む……



「冒険者だけなのか?例えば我が騎士団はどうなのだ?先程見たが、ハイリザードのハードスケイル等もあったのだ!あれであれば騎士団も相当強くなると思うのだが?我々騎士団も国王陛下の役には立てるはずだぞ?」



「確かにそうですね!騎士はタンクとして持ってこいですし、拠点確保と維持には欠かせないかもしれません。拠点さえ出来れば、その後の攻略は楽になります。……皆が安全に過ごせる『キャンプ』の設営をしておけば、安全に資材をバケツリレーするのも出来ますしね!」



 攻略の前線基地をこまめに設営する事で、出来るだけ長く潜っていられる環境をダンジョンの内部に作れば、地図も良いものが出来るだろう。


 しかしそれを聞いた王様は……


「だが……既にかなりのトンネルアントの素材が出回っておるぞ?余が知っている限り、数人でアントをギルドまで運んでいたからな?リザードマン装備は分かるが、トンネルアントに価値はあるのか?」



「陛下!数人で持って行ったって事は、その数人で分ける必要がありますよね?装備の費用だって……それに今回アントの素材を手に入れても特別待遇の『王国特権』は手に入りませんし。それにキャンプなどは『遠征組の登録者』に対しての『攻略前線基地』にすればいいのでは?」



 王はその話を暫く考えて、結果を出した様だ。


 すぐに、近くでなにやら必死に書き込んでいる家臣を呼びつける。



「今までのは書き控えたか?ならばそれで通達を出せ!『ダンジョン攻略』の為の『遠征班』には、特殊装備の貸与と『特殊権限』の付与、それに……ダンジョン攻略後、希望者に対しては騎士団への『入団試験免除』の扱いとする。あとスタンピードに備えて王都の『防衛班』には『特殊権限』の付与を与えて、追加の褒賞は歩合制にする」



 その『歩合制』の言葉に、貴族から不満が上がる……



「そもそも儂が口を挟まぬからと言って、手を抜いたのはお主達であろう?冒険者だけ『防衛』に宛てて、『やりました感』を出されても後々困るのだ!」



 貴族達はそれを言われると何も言え無い。


 怠慢である事は確かだ……



「後は……今回の特別任務参加の冒険者への宿舎も用意させろ!地上に上がった冒険者は少しでも疲れを取らねば、次回潜行に差し障りが出るからな!」



 臣下は書き留めたものを持ち、急いで扉を開けて出ていく……それと同時に王が会議の終わりを宣言する。



 反王権派は納得いかないものの、『防衛案』を認められたので仕方無く渋々王へ頭を下げて出ていく。


 出てからは結構な速さで走っていく足音が聞こえるので、妨害工作の為に冒険者を多く確保する為と『防衛』参加者の貴族集めだろう。



 残されたのは3人の王権派貴族と、ザムド伯爵にウィンディア伯爵とテイラー男爵に僕だ。


 王様は、この場に残った各貴族を紹介してくれた。


 王都1番地区土地管理者のリガルド・ウルフェン侯爵、王都2番地区土地管理者シャッセ・ベルカトール伯爵、王都10番地区土地管理者のゼンク・ロナルド子爵が、それぞれ自己紹介をしてくれた。



「王都へ秘薬を届けに来たのがこの時期で本当によかった!!我が代でこの様な規模のスタンピードを経験するとは……本当にダンジョンをナメていたよ。共にあのダンジョンを滅ぼしたいと思うが……何時迄も遠くの貴族達に甘えて居れば王都貴族の名折れだからな……それにザムドもウィンディアもいい加減自領の管理もあるからな……」



 リガルド侯爵が代表して話をしているが、話の最中に家臣が飛び込んでくる……



「失礼致します!国王陛下、大変でございます!ジェムズマインの鉱山内部にてダンジョン活性化の兆候有りと、ザムド伯爵あてに騎士が来て居ます。すぐにザムド伯爵へお知らせを!」



 一緒にいたザムド伯爵は、聞き間違いかと思い再度聞きただす……



「なんだと?どう言うことだ?鉱山にあるダンジョンが活性化だと!?昨日王都のダンジョンがスタンピードを起こしたばかりなんだぞ!?どう言う事だ?一体何があった!?」



 家臣は扉の前で待機していた、ザムド伯爵家の騎士を呼び入れて事情の説明をさせる。



「申し訳ございません!!伯爵様が王都へ向かわれたその日にダンジョンに入った騎士一団が、階層主との戦闘に敗北し……敗走いたしました!!その直後からダンジョン各所に変異体を数体確認。そして……5階層にも『階層主の間』が新たに出現しその下階層には進めておりません…」



 スタンピードの直後にこの事件が続き、ザムド伯爵は頭を抱え込む……しかし王様は、帰る準備をする様に直ぐに指示を出す。


 ジェムズマインは王都の貴重な収入源なので、問題を放置になど王とすれば出来ない。



 彼を街へ戻して、他の貴族にダンジョン探索の任命をすれば済む事だし、そもそも王都からジェムズマインの街までは離れすぎいているので、様子見をして万が一悪化してしまった場合、手の内用がなくなる。


 それに王都では、貴族の怠慢でダンジョンが巨大化したばかりだ……同じ轍を踏ませる訳にはいかない。



「国王陛下……王都がこの様な状況下でありながら……申し訳ありません。責務を全うする為に一度ジェムズマインへ戻ります……」



「うむ!ヤクタの騎士団は既に事情聴取をした、全員素直に知っている事を話したそうなのでな……奴等の処遇は其方に任せるので自領にて裁くが良い……と言っても、もう決まっておったな!奴等も馬鹿ではあるまい、これ以上裏切れば一族郎党は『魔の森で斬首』になるからな!」



「有難う御座います!国王陛下。ちなみにヒロ男爵とテイラー男爵も『例の件』で、共に帰らねばなりませぬ……陛下……この際ですので、この場でおっしゃっては如何でしょうか?」



「うむ!そうだな……スタンピードが無ければ帰り際の謁見で話すつもりであったが……ヒロ男爵……其方には『ヤクタ元男爵』が納めていた所領を授ける故、領の治安と財政の立て直しを頼みたい……彼奴は領民を苦しめ続けたらしく今領内は荒れ果てておるのだ。このままでは冬は多くの餓死者が出よう」



「色々碌でもないことを普通にしでかす其方しか、この難局を乗り切れるとは思えんし、他に思い当たる人材がおらんのだ!」



 部屋に中に残った周りの貴族は、もう既に全員知っていたのか拍手で答えてくれているが、絶対に僕の顔は『笑って無かった』だろう……


 しかし、そんな僕の顔を見て、より一層王様は上機嫌になった様だ……しかしまだ伝えることがある様で、テイラーに向き直る。



「テイラー男爵は『ウィンディア伯爵』の所領を与える事になった……バタバタと引き継ぎで大変なことになるだろうが……其方も領民をしっかり管理する様に!」



「え?私がウィンディア男爵……いえ……『伯爵様』の所領と言う事は『ウィンディア伯爵様は何処へ行かれる』のでしょうか?」



 王様は『はっはっは』と笑いながら、僕とテイラーが驚いているのを愉快そうに見て……



「ウィンディア伯爵は『爵位を元の位に戻した』だけなのでな!前の所領であったジェムズマインを任せる事にしたのだ!ザムド伯爵は元居た王都へ戻らせる予定でな!彼は空席になる『王都4番地区』の管理と、王都近場に所領を与える予定だ!」



 ウィンディア伯爵は、驚かせる為に『伯爵になった』のを黙っていた様で、ザムド伯爵もそれに乗っていた様だ……まぁメイドさんに聞き齧ったから僕は分かってはいたけど……テイラーは如何なのだろう?


 そう王様が言った後に、ウィンディア伯爵は『すまんな!ビックリさせたいと陛下が仰ったのでな!はははは!』などと笑っていて、ザムド伯爵は……



「そう言う事なのだ!私は騎士団と共に王都に凱旋を果たすことになった……だが、まさかこんなスタンピード等でヤクタの騎士たちが役に立つとは……『命は使い様』そのままだったな!まぁ凱旋自体は『鉱山のダンジョン』を探索した後になるだろうがな……」



 その説明を受けて、僕達は翌日王都を急遽出発する事になる…………

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