第363話「悪魔の使役と世界の破滅」


 アナベルは大笑いをしているが、あの世界の人は笑い事では済まされない。


「ごめんごめん!完全に記憶喪失どころか穢れが全く無い状態じゃ無いか!どうしてこうなったのかは私だって分からんが、一つ言えるのは今の彼女に世界を破壊する力はない」


 アナベルは馬鹿にして笑ってるとかではなく、この見たことのない現象に楽しくてたまらないのだろう。


 出来れば今すぐ飛んでいって如何してこうなったのか調べたい位なのが、笑い声からも伝わってくる。



「まぁ言い換えると、固体戦力で言えば脅威ではあるが、穢れがないから悪魔特有の超常現象は使え無いね!そして何より……楽しそうじゃ無いか?記憶がない事で人間の欲望を集めたり、穢れを多く集めるために人間を利用したりの考えが『全くない状態』だよ」



 そう言われて悪魔っ子をみる。


 楽しそうに、肉を分け合いその反面野菜を取り合ったりしてすごく楽しそうだ。



「まぁあの孤児院じゃ穢れがないからどうしようも無いし、穢れがあっても記憶喪失で吸収の方法が分からんから儘ならん……そして穢れより美味いものを見つけたって顔してるからね……悪魔は本来『物を食べない』んだよ。だがあんな風に『皆で』食っちまったから……今はその楽しさが優っちまってるだろうね」



 僕はそのセリフに返す。



「ではこのまま僕が引き取る事になっても大丈夫ですか?例えばジェムズマインに帰ったとして、豹変するとか……」



 街に脅威があっても困るので、僕は聞く必要がある……


 街に連れて行って万が一暴れてから違いましたでは済まないからだ。



 最低限の予防策を考えねばならない。


 アラーネアだったら、世界壊したらもう食べれないよ?『おにぎり要らないんだ?』で済むが……



「まぁ……無いとは言い切れんが……あんなのは初めて見るからね?でも今すぐどうこうにはならないし、そもそも出来ない筈さ、少なくとも数百年は穢れを集めないと最低限の力も使えんだろう……悪魔の力に身体が耐えられんだろうからね……ゴリ押し再生と多積層魔術結界がアイツ達の専売特許だから、それを使えない今記憶が有っても逃げるしかないしね!」



 どうやらガス欠で何もできないし、そもそも記憶が無いのでは力の行使方法も分からないだろうと言っている。


 自分の名前も分からないのに、使えるはずが無いかも……と思い話すと、



「悪魔は自分の名前を言うことはないよ!記憶喪失なのはそれも大きく意味しているかもだね!忘れてしまったのでは無く教えないために記憶が封印状態である可能性も無いわけじゃないよ?悪魔は自分の真名を教えた者には絶対服従なのさ!それが悪魔契約だ。だから名前を聞き出せば、暴れても辞めさせられる……逆に好き放題もできる……だがそれが出来れば苦労はしないって奴だね!!」



 何気なくすごい言葉が混じっていたが、対処法は『名前』だ。


 そう思っていると、徐に何かを作業する準備をする魔導師アナベル。



「でも形見のロングソードのお礼が少なくとも出来そうだ!ちょっと待ってな!まぁこれで生涯かけて探し続けた物のお礼をって言うには、虫がいいからおまけ程度だね!」



 そう言ってアナベルは魔法を唱えると、目に前にブラックホールの様なものができる


 それをこねくり回すアナベル……そして呪文を詠唱すると、掌にすっぽり収まるキューブ状の置物が出来上がる。



「良いかい?コレは穢れを浄化する『セノバイト・キューブ』と言う物でね、これがあればあの悪魔っ子の穢れが常に無くすことができるよ」



 つい僕はその言葉に『それがあったら世界中の穢れも、そもそも封印しなくてもどうにかなりるんじゃ?』などと言ってしまう。



「言うと思ったよ!まずこれは一度使ったらその専用の固体にしか使えず、その上領域には効果がない。であればこれ一個でこの場合は悪魔っ子にしか効果がないってことはわかるね?誰かを指定したらそいつにしか効果がないからって事さ。」



 その説明だけで理解できた。


 領域には使えないからセノバイト・キューブがあの世界にあっても、その場所全部が『はい綺麗です!』とは行かない。そして必要数で言えば人の分だけでなく亜人種も含み、極端に言えば魔物の分までだ。



 聴く限り万能では無い……まぁそんな便利な物があれば、穢れが除去できて誰も苦しまないだろう。


 そして使う相手を選んだら動かすことはできず、内包量も無限では無い様だ。


 そして問題はそれだけでは無かった……



「そして悪魔が本来持つ穢れは、この箱には収まりきらない。今はあの悪魔っ子の穢れが皆無だから出来ることで、本来悪魔が穢れ無しなどは発生上の理由から天と地がひっくり返ってもあり得ない。だが、それが起きちまった……イレギュラーにも程があるだろう?」


 ……汚れの密度と大きさも関係する様だし、そもそも汚れの世界で産まれた存在だけに、今までそれをできた存在がいなかった様だ。


 そもそも封印して、穢れを吸収する何かがなければならない。


 条件は複雑であり、それを可能にする状況も必要だ……


 今回は、『封印』に『吸収と転換』そして『隠し部屋』と『年月』それがうまく噛み合った結果、こんな状況になったのだ……それが上手くいく状況を作り出せて初めて『悪魔』を穢れがたまる間だけ無力化出来るのだ。


 割りに合っているかは、別問題だ。



「どうだい?理解できたかい?まぁこれは剣の御礼には程遠いからオマケみたいなもんだよ!」



 アナベルはそう言うと、考え込んでいた僕にそれを放り投げた。



「ちなみに………その箱は決して破壊しようとするんじゃ無いよ?アンタはその穢れを吸収して『良くて魔物』で『悪くて悪魔』になるからね?」



 それは良くも悪くも最悪です……



「おっと悪いね!誰か私の領域に来た様だ!多分どっかで大量に死んだんだね……はぁ煩わしい!!さっさと自分で好きな場所に飛んでくれれば良いんだよ……全く!これじゃ、ゆっくり話もできないねぇ!じゃあ、また今度話そうじゃ無いか!あ、この間のウィスキーっての有難うよ!あれは美味いねぇ!」



 そう大問題的発言を残して、アナベルは剣を持って足速に自分の仕事場に帰って行った。



 アナベルは死んだ人間の輪廻転生を本当に24時間やっている様だ……面倒だ!で済まされる仕事じゃ無い気がする。



 僕は倉庫を閉じて、時間を確認すると倉庫の外は19:58になっていた……時間が早いがお湯をもらってさっぱりして一足先にゆっくりしようとか思っていると……



『コンコン……』


「ヒロ男爵様、失礼いたします!孤児院の院長がお見えです……如何致しましょう?」


 ドアの外から受付嬢に声がする。


 孤児院の院長?と聞いて、僕は『あの悪魔っ子何かやりおったなー!』と思い部屋から飛び出る……



「きゃ!……あ!い……如何致し………」


 受付嬢は僕が飛び出てきたのでビックリしていたが、それどころではない『今すぐ会います。案内を!』と僕は言って場所に案内される。


 小部屋の待合室に院長とアーチがいたが、洋服が煤けている……絶対に何かあっておかしく無い状況だ。



「……如何してそんな格好に……あの子が何かやらかしたんですか?……」



 僕が聴き始めると、泣き崩れる院長と唇を噛み締めるアーチ……



「助けて下さい……ヒロ男爵様!またあの子爵と!更に見たことのない貴族が……孤児院の子を連れて行ってしまったんです!『悪魔の子』を引き渡せ!と言って!!」



 クソ野郎どもまたやらかしたな……もういいか……そこまでやらかすって事は遠慮はいらないってことだな?……この後に僕はアリン子を呼んで街の中を爆走することになる……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る