第362話「悪魔っ子の取説……困った時はアナベルさん!」


 僕等は王が用意してくれた馬車に載って宿へ帰る……クロークからスマホを出して現在の時間を確認すると既に15:23になっていた。


 当然乗り込むのはアラーネアも一緒だ……街の様子と僕が止まっている宿が気になるらしい。


 アラーネアを誘ったのは宿に居るエルフの紹介が目的だ。


 来る時に寄り道はしたが、結果的にはあの開封部屋含めて5時間近くを既に過ごした計算になる。



 行きの時には荷馬車が横転していたが、流石に既に退けられて馬車が通れる様にまでなっている。


 貴族のいく手を阻んだとか言われるのだろうから、荷馬車を倒した持ち主は必死に退かすのは当然だ。



 帰り際に馬車の窓から外を眺めていると、マッコリーニを発見した。


「いらっしゃい!いらっしゃい!此方は何とジェムズマインの虹色鉱石だ!良いかい?これを加工するとあら不思議!虹色の宝石になるんだ!これを横に居る細工しにお願いするだけで奥さんとの仲は最高になるよ!彼女に告白を?だったらこれが一番だ!ジェムズマインでもそうそう売りに出されないからね!!買うなら今だよ!個数限定だ!!」


 と言って売っている……捲し立て売る戦法だが、凄い客が群がっているので『催事』は大成功だろう。


 横にはフラッペさんにハリスコさんがいて同じく大繁盛な様だ。


 僕は馬車を止めて話をしたかったが、王宮の馬車という事もあり大人しく帰る事にした。


 場所はわかっているので、問題が片付いたらまたくれば良いだけの話だ。



 当然問題は、『鏡から出てきた悪魔っ子』の件に『爵位の件』だが、どちらも元の世界に帰るときに問題になる事は間違いない。


 片方は世界を滅ぼし、片方は領内の住民の不幸をもたらす。


 頭の痛い問題だ。



 ひとまず、宿に帰ったら久々のステータスチェックでレベルを上げよう!


 ステータスに割と依存するこの世界ではレベル上げは重要だ。


 ヘタレな僕でも、少しは生きながらえる事ができる様になる。



 宿に戻ったのは15:51分だった……


 乗ってた感じを思い出すと、これは……院長に聞いたように、馬車に乗らず直線距離を歩いたほうが幾らか早いと感じる距離だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 馬車にはスワンさんが同行して、王様の馬車には例のメンターさんが乗って行った。


 アラーネアは宿に着いた途端マッコリーニのやっていた催事場所へすっ飛んで行ってしまった……『エルフに紹介をー』と言う言葉が虚しかった


 見兼ねたスワンさんが『自由人は仕方ないですね…』と言ってくれた……


 なので、宿へ帰ってから一緒に食堂でお茶をしてから帰ってもらったが、その時の会話の内容は当然悪魔っ子と爵位についてだ。


「爵位ですが……どうにかなりませんかね?スワンさん………」



「……それを私に言われても……それとなく王妃様とカノープス様には申し上げられますが……もっと上をお望みですか?実際にはどの位を?」



「いやいや逆です!僕は『要らない』んですよ……面倒なだけじゃ無いですか?」



「それは……私にそんなことを王妃様に言わせたら……私は一生牢獄とお友達になっちゃいますよ!それに『爵位を要らない』と言う人は王宮に勤めてから、今の今までヒロ様ぐらいですよ?それも『面倒』と言う理由など……変わって欲しいくらいです!」



「!良いですね!スワンさん!あげましょうか?どうすれば譲れるんですかね?」



「ちょっと!嘘です!辞めてください!貴族に目をつけられて、良い様に利用されちゃいます!私は何の取り柄も無い一般市民が、王宮勤めしているだけなんですから!それに王様の耳に入ったら……『貴様如きが何て取り入った!?』と怒られそうです!」



 そんな話をして、無理を聞いてもらおうとしたが失敗した。


 スワンとしても、今日起きたことを誰かと話したかった様だが、目立つ内容が多かったので王宮では侍女とはとても話せない。



 その為、僕といろいろ話している間に、ついつい話し込んでしまった。


 長話になったので、とりあえずココアをご馳走したら物凄く気に入った様なので、数杯分を小分けにしてプレゼントしたら凄く喜んでいた。


 王宮に戻ったらカノープスと、こっそり飲むらしい。


 スプーンで測る量を教えておき『あまり多いと溶けないし、少ないと薄い』と言っておく。


 何事も適量だ……だから僕は爵位はいらないのだ!僕に相応しく無い!



 スワンさんを見送った後、一人自室に戻り時間を確認すると17:00位だったので、どうやら1時間は話した様だ。



 しかしながら、夕食にはまだ早いからステータスチェックをする。



『おお〜!!レベルが上がった!10レベルも上がってるじゃ無いか………』



 (◆※複数の方にキャラステータスや魔物ステータスは、文字数稼ぎで不評と言われたのでステータス表記は、この話以降今後省略します。希望があれば修正及び各種ステータスの閑話を用意しますので言ってくださいヾ(≧▽≦*)o手探り中なのですいません。◆)



 僕はそう独り言を呟く。


 スライムも充分条件を満たしてレベルは18に上がり、更にレベルは10上げられるだけの経験値が溜まっていたので、それを消化して28にあげる。


 僕自身は26レベルから経験値が溜まり+10レベルの上積みがあるが、これはレベルを上げるのに8時間以上の休息が必要だった。


 水っ子のレベルを上げるのは水っ子自身に任せていたので、これといってチェックはしない。


 見ようとすると、水鉄砲に水を詰めて撃ってくるのでやらない事にしている。


 アリン子は残念ながら、厩舎で寝ていたのでそっとしておいた……どうやら誰かにお昼を貰い満腹で寝ている様だ……食って寝て牛になって存在進化の結果、牛鬼にならないことを祈ろう……


 今の冗談は形から入ったが、万が一にもそっちに存在深化したら、どの街にも入れてくれそうに無いのでマジで辞めて欲しい。


 僕は倉庫を開けて、とある人が来ていないかを確認する。


 当然その人は魔導師アナベルだ。


 ふとクロークにある武器を思い出す……アナベルといえばあの縁起の悪い人形だったが、それに絡んで武器のネーミングで渡さなかったロングソードがあった。


 どうせだったら『悪魔っ子情報』と一緒に聞いてみよう……鑑定をして渡し難くなる位ならこのまま何もせずに質問しよう。


 そう思って中に入り待っていると……


「おや!もう来ていたのかい?その顔は聞きたいことがあるって顔だね?」


 入ってきて早々に、そう言われる


 僕は忘れる前に名前と同一の物を見せる。



「アナベルさんコレは貴女に関係する物ですかね?」



 僕は鑑定ができたが、あえて鑑定せずにそう聞いた。



「ほう?コレは……私が遥か昔に探し求めていた物をアンタが持っているとはね……それは剣聖アナベルのロングソードと言ってね……私の夫が持っていた剣だよ……」



 聴いたのは僕だが『やらかした』と思ったので、すぐに言い訳をする。


「鑑定出来たのですが、何か調べてから渡すのとそうじゃ無いのでは違いがある様に感じて、だから先に直接聞こうかなーーって……何かすいません……」



 僕は素直に謝ると、何故か大笑いをするアナベル。



「はっはっは!何で謝るんだい?人間はいつか死ぬ!彼がダンジョンで死んだ後、私はそれをダンジョンから取り返そうと躍起になった……だが見つからなかった……その結果、私は魔術の頂点を極めてあの世界で類を見ない魔術師になった……私のアナベルの名前は……その頃の名残りさ……」



「もし良ければこれを……ちょっと使うことがあったのですが……手入れとか詳しくなくて……すいません」



 そう言って剣を渡すとアナベルは



「すまないね!何か気を遣わせちまった様だ!この礼はいつか必ず返すよ!何が良いか見繕わないとね!この武器は他に変えることの出来ないそれは大切な形見なんだ……有難うね!」



 じゃあせっかくなので悪魔のことについて、何か教えてもらおうと思い口に出す。



「魔鏡に封印された悪魔のことで何か相談に乗って貰えると助かるんですけど………」



 と言って、出てきてしまった悪魔っ子と記憶喪失の話をする。



「ははははははははは!悪魔が記憶喪失?それの真偽は置いといて……アンタ達は相当馬鹿な事をしたね!あの悪魔を解放したのかい?まぁ馬鹿な冒険者も居たもんだ!魔鏡といえば物語にも出てくる有名な物じゃ無いか?まぁ破っちまったもんは仕方ない……どれ見てみるかな?」



 アナベルはそう言って何か魔法を唱える。


 すると何故かモノリスプレートが反応して壁に映写機の様に何かが映し出される。



「こりゃ便利だね!呪文を唱えるだけでMP消費なしで調べられるのかい!どれどれ!」



 そう言って調べ始めると、野菜炒めと串肉を食べて笑顔で話している悪魔っ子と孤児院の子が映し出される。



「こりゃ驚いた!本当に記憶喪失かい!?それも……笑ってるじゃ無いか!?普通の子供みたいに!!」



 アナベルのその言葉は絶対に何かを知っている言葉だった。

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