第361話「一難去ってまた一難……如何してこうなるの?」


 あの笑う奇妙な化け物は元『魔導人形』で悪魔の穢れを分離した後、内包した為に『変質・変異』したのだろう。



 理由は分からず想像の域だが、女の子を吐き出した後に側にいた男を食べたのは『穢れを纏っていた』からだろう……悪意で魔境を破って『ざまぁみろ』と言っていたのだ。


 当然その様な者に反応してもおかしくない。



「ヒロ男爵様……如何なのでしょうか!化け物は……おお!!もう既に!」



 ひしゃげて崩れている巨大な魔導人形を前に、騎士が大きな歓声をあげる。



「ああ!いやコレは僕では無いです……」



 全ては言わないが安心させる言葉を言っておく、ひとまず何があるか分からないから、王様を速やかに王宮へ連れ帰る様に言っておく。


 王は『名目上の視察』を切り上げて、王宮へ帰っていった。


 当然、事の次第はギルドマスターから聴くことになるのだが……王は悩みが尽きないだろう……今夜ちゃんと寝られると良いんだが……


 僕は串肉を焼いている売店のおねぇさんに金貨を数枚渡して、あるだけ焼いて貰う。


 この場でずっと子供達が食べているのもそれはそれで問題だ……と言うか朝市で食い物は買った筈だが……凄い食欲だ。


 持たせたお肉は、夕飯に出して貰う様に院長に言っておく。



「串焼肉は今日はおしまいだよー!魔物みたいなちびっ子の全部食われて!串焼肉は全部しまいだよー!!」



 その販売員の声で大爆笑が起きる。


 今までギルド内で起きた惨事で、雰囲気が若干悪かっただけに冒険者は売店に行ってはエールを注文する。


 そしてその帰りに孤児達に、エールのお釣りをあげる様な流れになる。



「俺も孤児院の出だ!頑張れよ!諦めなければ銀級冒険者も夢じゃ無いからな!」



 一人の銀級冒険者の言葉で、孤児達は『お肉いっぱい食べて頑張るー!!』と言っている。



「それ!焼き終わったよ!しめて串肉を追加で40本!!毎度あり!いやぁちびっこのお陰で大儲けだ!!ありがとうね!院長さん今日はお腹いっぱいだね?ちびっ子魔獣達は!」



 そう言われ院長は涙ぐんでいる。



 孤児は全員腹一杯食べれて大喜び、お店は在庫を抱えず済み大助かり……僕はプライスレスの笑顔だけで大損だが……まぁ仕方ない……。


 僕もエクシアさんに救われた身だ、幸せの連鎖は続けるべきだ。



 机の上の肉を食い切った孤児院のちびっことアーチは、院長先生の号令で立って僕にお礼を言う。


 何故か悪魔っ子も僕へお礼を言って、一緒に出て孤児院に行こうとする。



「ちょ!何処行くの?」



 僕は名前も知らない悪魔っ子に普通に質問をする……彼女も名前がわからないので呼び方もわからない。


 すると、『寧ろ何で?』と言う顔をする。



「え?何処って……?マリンが『今日は一緒に寝ようって!』言ってたの。だから一緒に行こうと思って……今日はこの子の横でお話しするの!明日は……仕方ないから帰る……」



 見かけは子供なので1日くらいなら……と、孤児院の院長は許可した様だ。



 そして院長は、『さっきのは何かの見間違いだ……此処は冒険者ギルドだから、誰かがそんな力を持っていてもおかしくは無い』と思っていた。


 何より周りには、普段話などすることもできそうに無い『銀級冒険者』も数多くいて、初めて会った子供達にお小遣いさえあげている。



 良い冒険者程大口は叩かないし、冒険者は自分の持つスキルをそうそう明かさないと聞いている……


 よりにもよって、此処は王都の冒険者ギルドで、時間は夕方に向かっている……人が増える時間なのだから、あの時何をしたとしても商売敵の前で言うはずも無い。



 そんな情報が積もり積もって『この子は危険では無い』と勝手に思い込んでいた。


 孤児院の院長をしているだけあって、子供に優しいのが影響した事は言うまでも無い。



 僕は念の為に空間感知で確認する。


 それが一番手っ取り早い手段だ。



 見るとアラーネアの巨大な青に正体不明の悪魔っ子の超巨大な赤が混じって、交わった場所の表示が目の錯覚で紫になっている。



 院長にとても言いにくいが……この子は絶対に『人間』では無い。


 周りにいる冒険者で、同じ様なスキル持ちは決して近づかない様にしているので、多分間違いはない。


 此処で魔物だ何だと騒がない理由は『死にたく無い』からだろう。



 人語を話す程、知能がある魔物は討伐等級が跳ね上がるからだ。


 それも先程『悪魔が出ます』と言ったし、現に化け物が吐き出した子だ。



 吐き出されたのにも関わらず、見たところ粘液や涎で汚れていない。


 それどころか吐き出されて、ギルドを転がった時に服が汚れたくらいだ……だがそれも説明がつかない位、不可思議な状況だ。



「夜の街は危ないので失礼しますね!今日は本当に有難うございます。ひとまず今日はこの子をお預かりしますので、明日宿の方までお連れしますのでご安心ください、ヒロ男爵様」



 その言葉に思ったのは、寧ろ危険なのは『襲う方』だろう……まずは生きて帰れないから……


 そして何故か院長には、保護者が僕の様に言われているし……名前もわからない悪魔っ子は『行ってきまーす!』と元気に手を振っているので、手をふり返す……



「どうするんじゃ?ヒロ?お主は呑気に『気をつけるんだよー!』とか言っておったが、もう感知を使ったのであろう?アレは妾と同等じゃぞ?まさかあんな者を封印していたとか……封印を施したのは馬鹿なのか?」



 アラーネアでさえも、そう言う始末……


「まぁ戦って、勝てぬわけでは無いがな。悪魔である以上完全に掃滅など出来ん……1000年ほどで元通りじゃろう。……ああ!……成程そう言う理由から『封印』か……そして何処かのダンジョンに封印したのじゃな……考えた物じゃな」


 僕はその言葉に、疑問を感じた。


 『何処かのダンジョン』に封印したのに、何故王都の真下のダンジョンで『発見』されたのか……率直に聞いてみると、



「何を言っておる?ダンジョンは固有のものでは無いぞ?どのダンジョンも根では繋がっておる。でないと様々な属性違いの魔物が関連のない場所に湧く訳あるまい。まぁそれでもダンジョンによって魔物は棲み分けしておるがな……」



 アラーネアの説明ではダンジョンは「全にして個、個にして全」であるらしい。


 ダンジョンそのものは個として存在するが、その中の穢れは大きな意味で共有している上に、全てのダンジョンはその穢れを使い個別に深化していく。


 ダンジョンコアという心臓部にこそ個体差があるだけで、中で死んだ冒険者や失って吸収されたアイテムなどは、何処に行くかなどはダンジョンの問題では無い様だ。


 ダンジョンに飲まれて行方不明になる理由はそこにある様で、亡くなった場所の遥か北の未開のダンジョンに放置されれば、まず見つからない。


 人の入りが多いダンジョンに移動されたとしても、その死んだ冒険者が『誰か』等はそこに住む者に判る筈も無い……そしてダンジョンにして見れば何の意味もない情報だ。


 そしてアンデッドになって徘徊しても、その場所が同じダンジョンとは誰も言っていない……そもそもダンジョンは話さないが。


 ダンジョンは別々の場所にあるがそれ自体の大元は一つの繋がりを形成している……その様な摩訶不思議なのがダンジョンだと言っている。


 でも此処で僕は不思議に思った。


「では何で『隠し部屋』に入れて、更にあんな箱に入れたんですかね?」


「妾に分かるはずがなかろう?大方記憶障害を起こしているとダンジョン側は分かったのだろう?あの悪魔っ子を利用すれば世界とて自由に収められよう?敵うものなど妾程度だからな?しかしあの娘が記憶を取り戻した時点で、利用した者は命も魂も無くなるだろうがな?そして娘はその後に幾らでも自由に世界を蹂躙できよう?」


 此処でもダンジョンの狡賢い策が際立っていた。


 誰かが欲望に任せて解放すれば、確かに全てを手に入れていただろう。


 そのかわり、記憶を取り戻したあの子はこの世界を糧に、もっと醜悪な存在に変わり果てるだろう……解放した者の犠牲が最初なのはいうまでも無い。

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