第364話「燃える孤児院と腐敗貴族に怒り浸透」


 宿の食堂には孤児院のそこそこ年齢が高めの孤児達が居た。


 話を聞くと彼等は仕事を終えて帰ってきたら、孤児院が燃えていたらしい。


 孤児院の院長は詳しくその時の状況を話す。



「夕飯を終えて、あの子のお泊まりの準備をしていたんです……そろそろ上の子達が仕事から帰ってくる頃だったので、外でたくさんの湯を沸かし、寝る前のお湯の準備をしてたのですが……そこに突然あのアーコム子爵と新たにアーク伯爵と呼ばれるかたが来たのです」



 院長が話をしているところに、ザムド伯爵とウィンディア男爵にテイラーが帰ってくる……王宮でテイラーを男爵として招く食事会をしたらしい。


 そのせいで帰りが遅くなり、今ようやく戻ってきたらこの状況ですぐに飛んできた様だ。


 ザムド伯爵は院長に話を続ける様に言う。



「そ……それで『冒険者ギルドの一件を手の者に聴いた、今すぐ悪魔の子を出せば他の子は見逃す』と言ってきたので『例え悪魔の子でも渡せない』と言ったのです……そしたら湯のためにつけていた薪を孤児院に投げ入れたのです!!」



 院長は叫ぶ様に言うと、周りで見ていた貴族達の表情も強張ってくる……その貴族の馬鹿さ加減に許せない感情が込み上げている様だ。



「私とアーチは慌てて子供達を助けに行きました。私達は取り残されている子は居ないか探すのに必死で……そうしたら出した側から子供達全員を縛り、荷馬車で何処かに連れて行ってしまったのです……アーチは必死に立ち向かったのですが……多くのゴロツキと兵士がいて……どうにも……」



 そう言われたのでアーチを見ると、腕に刀傷が残っていた。


 僕は慌ててポーションを取り出して腕にかけると、傷が綺麗に塞がった。



「こ!こんな……奇跡なの?え?これポーション!?ちょっと!代金なんか私払えないよー!!」



 そう言うアーチにザムド伯爵は



「大丈夫だ!後で奴等に数百倍支払わせる!安心せよ!……馬鹿な貴族が多くてすまんな………」



 そしてアラーネアが食堂入り口から入ってくる。


「妾が話を先に聞いておったので、ちゃんと行き先を調べておいたぞ!ヒロでかしたであろう?礼はオニギリと味噌汁の夕飯でいいぞ?」


 そう言ってくれたアラーネアも実は子供達を心配して奔走したのだろう、スカートの裾が歪に破けている。


 大蜘蛛になって探し回ったのは一目でわかった。


 問題は外が大騒ぎになってないかだ……



「アラーネアさん……大蜘蛛形態に?誰かに見られました?」



 僕は念の為にそう聞くと、大笑いするアラーネア。



「ハン!妾を見縊るでない!人間なんぞに妾が本気で動けば目で追えるわけがなかろう?それに走り回るなど愚の骨頂!王宮の屋根の上から『千里眼』のスキルで探したに決まっておろう?そういえば王には見つかったがな?ザムドお前は気がつかなんだな?そんなんでは王は死ぬぞ?何時でも用心を忘れるな!」



 そんな事が出来るのは、アラーネア位だと突っ込みたかったが、今は急がないといけない。



「それで……そいつらは今何処に?アラーネアさん?」



「北西に数キロって所じゃな……古い貴族の廃墟がある場所じゃ」



 そのアラーネアの言葉に、院長が反応する。



「そこは亡くなられたウータム元子爵様のお屋敷でございます……家臣に裏切られて盗賊に殺されたと言う話でございます。外見は巨大な屋敷で珍しい建て方をしたために今でも残っています。地下の牢があると以前聞いた事が……もしやそこに子供達を……」



 院長の話に激しく動揺をするアーチは、僕を見て急ぐ様に身振り手振りをして事情を話す……



「寄りによってウ?ウータムの幽鬼屋敷??い!急がないと!あそこは夜になると幽鬼の棲家になると有名な場所だよ!なんでそんな場所に!」



 僕はざっくりした位置をアラーネアに聞いてから、自分の部屋に戻り既にスライム家がわりになっているリュックを持ち、ザムド伯爵へ声をかける。



「すいません!ザムド伯爵……同郷の仲間をやられて黙ってられないので『100倍返しでやり返します!』王が僕の行動に問題があると言ったら『そんな爵位は今すぐ返す』と言っていたと伝えてください!相手が伯爵だろうが叩き潰します!」



「アーチ達に責任を問う場合は王国と戦争でもなんでもするんで!よろしく!こんな貴族ばかりいる国だったら『僕は要りません!!』



 僕がそう言うと、アラーネアは『ヒロがやるなら敵にはなれん……むぅ……でも確かに要らんな!こんな腐り切った貴族どもは……我が取り巻きを残して後は……皆殺しでも良いか!』などと言い、ザムド伯爵はその言葉に嘘が無いとわかり青ざめ始める。



「馬鹿どものせいで王国最大の危機である!!今すぐ王へ謁見に行くぞ!皆の者!悪辣貴族の排除を即刻する様に訴えに行くぞ!」



 ザムドの声に賛同した貴族は共に出て行く……王宮へ謁見許可を願いに出た様だ。



 そして僕は、孤児院のおねぇさん的存在のアーチにお約束を言う。



「アーチ、行くぞ!やられたら!?」



「100倍返しだね!?」



 その言葉で一緒に外に出る……僕とアーチはその後すぐに厩舎に向かう。



「アリン子出番だよ!悪い奴をとっちめる!悪いけど背中に乗せて!アーチもお願い!」



 3メートルクラスの巨大な蟻を見て逃げようとするアーチだが、僕がそういうとアリン子は逃げるより素早く僕達を鉤爪で引っ掛けて、器用に背中に放り投げる。


 アーチは昆虫が苦手な様だ……ちなみに僕だってそうだが、このアリン子はいい子だから平気だ。



 僕はアリン子に方向を指示すしてその場所へ向かう……


 街を出てからアリン子の全速力だと振り落とされてしまうので、スライムにお願いして下半身を固定してもらう。



「こ……これスライムだよね?消化されたりしないんだよね?」



 アーチは、下半身がスライムに纏わりつかれている様を見て、恐怖しかない様だ。



 宿を出てからは街中を3メートルある蟻の魔物が爆走するので、悲鳴があちこちで上がる。



 銅級冒険者もでてくるが、僕らが乗っているアリン子を見てすぐに動きを止めて反転して逃げ始める。



 すると、銅級冒険者の話を聞いた銀級冒険者が飛び出てきて道を塞いだので僕は、



「孤児院が燃えてます!アーコム子爵とか言う奴と、アーク伯爵とか言うクソ貴族の所為です!消火を手伝ってあげてください!子供達が攫われたので僕達は救出へ向かいます!ちなみに今の僕らを邪魔するなら!銀級冒険者でも力尽くで排除します!」



 そう言って巨大な水槍を精製すると、



「キミは昼間の少年か!あの孤児院の火事の原因はそいつらだな?分かった!仲間を集めて貴族の屋敷を包囲しておく!お前ら人数を今すぐ集めろ!アーコムとアークの屋敷を取り囲んで誰も出すな!いいな!手の空いたやつは王都にいる冒険者全員を集めろ!直ちにかかれ!」



「「「うぉぉぉぉ!!」」」



 どうやら昼間話した、孤児院出身の銀級冒険者だった様で、悪辣貴族のやらかした事に完全にキレた様だ。


 仲間に檄を飛ばして、一斉に貴族の屋敷に向かって行く。



「子供達を頼んだぞ!こっちは任せておけ!責任を取らせるまで絶対に解放などさせん!!」



 僕達は、彼等に送り出されて王都の北門へ向かう。


 夕方はとっくに過ぎているが、未だに入る人と出る人でごった返していて、待っていたらとてもではないが間に合わない。



 アリン子と門へ行けば皆怖がって退くはずだと思うが、アリン子は何故か方向を変えて壁に向かう……うっかりしていたがアリン子には城壁など関係なく、スイスイと登ってしまう。


 だから、わざわざ門を通る必要などなかった……そして外に出たらアリン子の本領発揮である……爆走に耐える様に前屈みになる。



 アーチはたまらず僕の背中にしがみつく。


 ちなみにリュックは抱える様にしているので、しがみつく邪魔にはなっていない。



 ごく僅かアリン子が本気で走っただけで、その廃墟が見えてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る