第355話「絶句!父が手塩に掛けたギルドが…あゝ無惨」


「おおお………すまぬ!まさか2枚に割れるとは!こ……これはどうしたものか……」



「ではこうしましょう!片方を陛下に差し上げ、片方は私が持っています。なのでお互いが『成り済ました偽物』じゃないか確認する時の『割符』でいかがでしょう?」



「な!なんと!こっち側を儂にくれるのか?これは少なくとも仕掛け金貨だから片方だけで物凄く高いぞ?」



 遠慮がちに言っているが、返す気は多分ない……だからそのまま『表面のコイン』を持っていてもらう事にする……ついでに僕が使わないサークレットも処分だ。


 宝玉がサークレットについている分、不恰好にも程がある。


「こっちの宝玉のサークレットは王妃様に如何ですか?飾り用にしか多分ならないでしょうけど……僕的には装備優先だし、仲間も同じですから」



 そう言って王様に渡す……困った時に何か助けてくれるだろう……物でつる作戦だ……と思ったらそのまま言われた……



「ずるいの!其方は……これは妻のポラリスが喜びそうだ……すまぬな。ならば遠慮なく!なんか物で釣られているな!!まぁ悪い気はせんがな」



 王様はそう言うと、臣下に何かを言う。



「すまぬな!あの様なものを貰えるとは思っても見なかったから、持ち運び用のケースを直ちに取りに行かせた!」



 その説明に納得する。


 僕みたいにマジックバッグに放り込む的な、適当ではない様だ。


 そして僕達はやっと3番目の箱を開けにかかる、ランクSの『階層主の特殊宝箱』ダブルアラームだ。


 特殊アラーム効果はダンジョンでないと効果がわからないが、此処ではアラームの意味がない……だから他の罠に比べて安心して開けられるのはとても助かる。


「3箱目じゃな!これはアラームと特殊なアラームか!ふむまた何か来たら楽しいの!さて開けるか!」


 そう言って王様は箱の上蓋に手をかけると……



『ギリギリギリギリギリギリギリギリ』



 黒板を爪で引っ掻く様な嫌な音が鳴り響く……非常にとめたいが止まらない。



「これは!鳥肌が立つほど嫌な音だな!ダンジョンで鳴ったら下手をすれば武器を落とすかもしれんな!?」



 僕は王の一言で、ダンジョンの悪質さを思い知った。


 音というのはダンジョンでは大切だ。



 魔物の足音、飛来する生き物が立てる翼の音、全て戦う時に必要だ……個体別に独特なリズムがあるのだ。


 それを耳で聴くが、この罠があるとまず間違いなく相手の『強襲』から始まるだろう。



 こっちが怯んでいる間の攻撃だ。



「そうですね!これはここで開けて正解です……ダブルアラームなんで魔物も下手すれば多く来ますからね!巨大なのが来たら瀕死も覚悟しないとです……」



 余りにも酷い音だったので、つい王様とフレンドリーに話すが、臣下には聞こえてない様だ。


 両手で耳を塞いでいたからだ。


 音が鳴り止んでしばらく落ち着いた後、皆で中身を覗き込むと………



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 煌びやかな祭器(呪)


 湧き出る水瓶


 ヒクイドリの短剣


 月影のクローク


 魔法のランタン


 マジックバッグ(中)


 三つ目骸骨(呪)


 錬金の書(初級・第9巻)


 水の旧魔導書(初級・第8巻)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「なんと!呪物が2個もあるでは無いか!S級の箱なのに……なんという事だ!これが呪いなしだったらどれだけ良かったか……」



 王様にモノクルを渡して中身を見てもらったが、悶絶している。



 祭器などは王国に欲しいし、三つ目骸骨も王様は欲しがっていた。


 どうやら三つ目の骸骨は、素材の様でそれを元に兜の素材にできる様だ……王様の説明では恐怖の効果を打ち消す装備の様だ。



 僕的には錬金の書と旧魔導書と言う珍しいものが嬉しい。


 この旧魔導書も王宮には数冊しか無いものの様で、僕の使う水魔法である事はすごく嬉しい。



 これもシャインに祝福で呪物を消し去ってもらう。



 王は旧魔導書を手に取り開いて中を読む。



 パラパラと捲る様子はないので、どうやらしっかり読み込んでいる様だ。



「ふむ……どうやら初級魔導書が我には関の山の様だ……読めて中級だな。旧魔導書などは書いてある事の半分くらいしか理解できん」



 そう言って僕に水の旧魔導書を渡して来たので、表紙から数ページ目を開いて見るとそこに書いてあるのは『ウォーター・トルネード』の呪文と書いてあり、範囲系の魔法だった。


 効果は立ち登る渦巻く水柱に閉じ込めて、上空高く舞い上げて落下させる魔法らしい。


 問題は水柱の数で、最低5本からの様だ。これもアイスフィールド同様、敵味方を関係なく巻き込むタイプの魔法だ。



「それを読んで分かるのか?ヒロは?」



 興味深く僕の目線を追っていたらしく、読めるのが分かったようだ。


 なので読んだままに説明する。



「ここに書いてあるのはウォーター・トルネードですね……範囲魔法で区別なく巻き込む範囲タイプです。空に舞上げ落下させる魔法で、当然水圧で揉まれるので水柱内は錐揉み状態の様です」



 ひとまず書いてある魔法形状を説明して、実際の詠唱の言葉を教える。



「魔法術式はウォーターからの派生ですね。魔術語の詠唱は………『暗き海の王、荒れ狂う水柱を立て………』」



「ま!待つのだ!唱えたら天井どころか王都が!!そんな魔法は敵が居たとしても、無闇に王国内で使って欲しくないぞ?………」



 そう言って僕の魔法詠唱をとめる王様。



 僕の前には小さな水柱が『バシャバシャ!!』と渦を巻いたかと思うと、形を維持出来ずに床に流れる……うっかり唱えたので、非常に危なかった!!



 僕は生活魔法の乾燥を数回に分けて唱えて水を消す。



 僕が乾燥をかけている間、王はチラチラと入り口の方を見ていたので、僕もそっちを見ると徐に……



「残念だな……アラームが鳴ったがギルド職員や開封部屋の係員は来ないな?さっきのはまぐれか……」



 王はアラームが鳴ったのに来ないことが、とても残念だったようだ。


 どれ程アラームに期待してたのだろうか……



 しかし3箱もまだ開けねばならないのだから、残念がっている暇は無い。



「王様!まだ3箱も残ってますので、残念がっている暇は無いですよ?次の箱は鍵士が………」



『コンコン』



「ヒロ様はいらっしゃいますか?孤児院の院長と孤児たちがお礼を言いたいと……その出来ましたら、今すぐ子供達を止めていただけると……」



 アラーム効果だ絶対!!……今度は僕だった………孤児院の院長だけで無くオマケも来た。


 それも大漁だ!チビッ魚じゃ無かった……ちびっ子が所狭しとばかりにギルド内を縦横無尽に走り回ってそれはもう……非常に楽しそうだ。



 冒険者の串肉を欲しがりあちこちと貰い歩く子供に、面倒見の良い冒険者に肩車を強請ったり、2枚目の冒険者に擦り寄ったり……それはもう忙しそうなので、院長と話して用事を済ませたら、すぐに開封部屋に行き内側から鍵を閉めよう!



 いや!……こうなったらもう……放っておこう!!お礼は後で聞けば良い……元からの僕の知り合いでは無いし……アーチの知り……ってアーチも来ていた。



 その状態を見た王様は、



「うむ……私でなくてよかっ……」



 そう言いかけた時、裏ボ………王妃が現れた!!!



「陛下……ポラリス妃殿下が到着されました。『陛下が申された物を直にお持ちした』と、お伝えする様にと申されました。今ギルド入り口前までお越しでございます。お止めしたのですが、何が何でも自分で行くと……」



騎士数人に護られながら態々、王宮から来た王妃は宝欲しさに即断即決で来たようだ。



 王は慌てふためき入り口に向かうと、既に出てくるのを待っていた王妃は、



「陛下!わざわざ私の為に冒険者ギルドに出向くなど……それでこの台座を持ってこさせたのは『そう言う事』でございますよね?ヒロ男爵は………」



 子供が王妃自慢の王都の冒険者ギルドで大暴れする様を見た王妃は、立ちくらみを起こす。



「私は何も見ていません……な……亡き父の血と涙の結晶である威厳あるギルドが……この地区を命をかけて盛り立てた父の……子供の遊び場になど……私は何も見てません!!」



 王妃がそう言うと、子供たちに見つからないように、そっと裏門から王は王妃を連れて開封部屋に向かう。

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