第336話「同系統のユニークスキルを持つ王様」


 僕は応接間を確認して晩餐会が行われているホールへ向かう。


「おお!王様に秘薬を献上した冒険者のヒロでは無いか!あ!いやヒロ男爵と申した方がいいかな?」


 向かう途中で声をかけられたのは『ハラグロ男爵』と呼ばれた貴族だった。


「ああ!ハラグロ男爵様!どうなさったのですか?こんな所で?」


 ホールからかなり歩いた場所だったので、何故いるのか聴いた所飲み過ぎでトイレに行った帰りだった様だ。


 ハラグロ男爵の指す方向を見ると確かに豪勢な来客用トイレがあった。



「凄いな!全ての悪巧みを跳ね除けて王に秘薬を渡すとは、それも悪辣貴族や腐敗貴族達に同時にかなりの経済的ダメージを与えるなど……末恐ろしい!」



 ハラグロ男爵はわざと戯けて見せるが、ハラグロ男爵はザムド伯爵とウィンディア男爵と同じ派閥で、かなり仲が良いのは既に把握済みだ。


 名前とは正反対の『正義感』溢れる人なのだ。



「実はこんな事を言って申し訳ないのですが……僕のいた村では『ハラグロ』の意味はあまり良い意味では無いので、名前とのギャップでつい笑いそうになるんですよ!」



 そういうと、その言葉の由来を聞かれたので教えると、ハラグロ男爵は大爆笑していた。



「そうなのか!我は誰よりも悪辣だぞ!がははははは!」


 そう話していると、晩餐会会場へ着く。


 人数が多いので立食会場だったが、多くの席が用意され座って食べれる様にもなっている。


「おお!来おったわ!遅いで無いか?何をしていた?うん?ハラグロ男爵も一緒か?もう意気投合したのか?ハラグロよ?」


 話しかけてきたのは王様だ。


 その横にはザムド伯爵にウィンディア男爵を伴っているがアレックスは騎士団長なので王宮の警護に当たっているので居ない様だ。



「ヒロ様!!お助け頂き有難う御座います!お礼が遅くなり申し訳ありません!第一王女シリウスと申します。貴方様が居なければ全快したのに毒殺される所でした……本当に何から何まで有難うございます!」



 そう挨拶してきたのは、王様の長女シリウスだ。


「儂からも礼を言う!有難う!娘が死んだら生きて居る事など出来ないからな……本当にありがとう!」


 王は娘に並びお礼を言う。


 周りはその姿を見て、ビックリして僕と王様を繰り返し見て居るが普通のお礼だろう……


 よく考えれば一国の王が、冒険者に目の前で礼を言い頭を下げればそうなるかもしれない。


「そうですね!『シリウスちゃーん今行くよー』って言ってましたものね!仲のいい家族で素晴らしいと思います!」


 僕はさっきの『男爵位の件』の意趣返しに意地悪返しをしたが、オロオロし始めたのは娘の方だった。


「お!お父様!そう言うことは、ちゃんと誰も居ない所でしなければ困るのは私でございます!」


 と恥ずかしがって居るが、王様は『構わぬでは無いか?仲が良くて何が悪いのだ?』と皆の目があるのに娘に言う程、親バカだった。



「所で話は変わるがの……あの蜘蛛の魔物の件だが、妹がすまぬ事をした……まさかあのダンジョンを使用するなど思っても居なくてな……」


 それはドクリンゴ女公爵の事だった。


 王様は当然僕が王都地下のダンジョンに放り込まれた事など知らないのだ……『秘薬』を持ってきた物を死地へ放り込むなど知れ渡れば完全にアウトだ。


 それも実行犯が自分の妹だとすれば、申し開き等全く出来ない……王とすれば謝るのは当然だ。


 でも、以前その存在を聞いていた僕には、何とか落ちるのを食い止められれば、魔法があるので生き残るのに若干可能性はある。


 まさか蜘蛛の巣と、あの様な元王族の魔物がいるとは予想外だったが……


「あのダンジョンは王家秘蔵のダンジョンですよね?何となく『噂』は聴いております。秘蔵の理由も、あのアラーネアさんと話して理解できたので……それに妹さんの件は王様が指示したわけでは無いですよね?それならば気にしないでください」


 王様の支持でなく勝手に家族がやった事の『責任』を言われても正直家族とすれば困る。


 どうしようもない人間は少なからず必ず居るものだ。


 僕は王様をフォローするために言うと、まさかの回答が返ってくる……


「む?あそこは違うぞ?あそこは封印の地だと言っておくが……因みに王家のダンジョンは別の場所にあるぞ?あそこのダンジョンは得体が知れんでな……だが、スタンピードが起きる可能性が有るのなら急いで手を打たねばならんがな……」


 どうやらこの王国には最低でも2個ダンジョンがあるらしい……


 一つは王家秘蔵のダンジョンと、王都の地下ダンジョンの二つだ。


 王は自分の妹がしでかした問題の謝罪も済ませてから、僕にこれ以上迷惑をかけない様に状況の報告をしてくれた。


「それと、妹の件はそう言ってもらえると助かる……ちゃんと妹のドクリンゴがやった事の罪の重さは王国として彼女自身に問うから安心せよ、もう貴族として二度と手が出せない様に、全ての権限を消滅させたからな。もう妹の件で煩わせる事は無いだろう」


 確かに天井に張り付いて居るドクリンゴ元女公爵は、これ以上は物理的にも手出しのしようがない。


 罪が確定した後は文字通り何も持たないので『何もできない』だろう……何故ならば既に彼女は離宮とやらに行かないとならない身だ……


 そんな話をしていたら、僕はダンジョンで手に入れた宝箱がクロークに入れっぱなしだ……と言う事を忘れていた。


 後で王都で宝箱を開けてもらえる場所を聴こうと思ったら、王は僕の機微を逃がさない。



「何ぞ気になることがあるのか?今申しておけば儂が責任を持って対処しておくぞ?」


 王の言葉にシリウスお姫様も激しく頷いて『その通りです!命の恩人ですから!』と言う。


「実はですね………宝箱を開けられる場所を探してまして……箱にはランクがあってそれを開けられる『マジカルキー』が無いのです……僕が開けられるアイテムは『ランクがA』までの箱なので……」



 僕はクロークの中に箱の情報を言う……ギルドで開けられると聞いたが、王都のギルドの場所もわからないし予約が必要かも判らない。



「何と!?其方あれだけ宝を献上して、まだ『宝箱』を持っていると言うのか?何処に有るのだ?宿か?」


 凄い食いつきだ……やはり未開封の宝箱は王様でも気になるものなのだろう。


 しかしスキルで作った『倉庫』にクローク事置いて居る説明をせねばだが……



 その上、スキル使用時間制限で倉庫が開けられない説明もしなければならない……ユニークスキルと知られれば面倒だし……


 まぁ濁して説明せざるを得ないだろう……何故なら僕の腕を掴んで離さないシリウス様……意外と力が強いのだ……



「実は僕はちょっとしたスキルを持っていて、マジックバッグの能力に制限時間をつけた様な物なのです。その能力は明日じゃ無いと使えないので、今直ぐに宝箱を出すことができないのです……」



 その適当な説明で王様はすぐに理解した様だ……王様の持つスキルも多分『同じ系統』なのだろう。


「何と!そうであるか……ならば確かに今は無理で有るな。御主もアレを持っておるのか!だがな儂も似たスキルを持っておる!!儂は『時間』ではなく『個数』だがな!!」



 同じ様なスキルを持って居る事に嬉しくなった王様は、かなり大きな声でそう言ったが王妃様が止めに入る。



「陛下!!いけませぬ!重要な事は、考えて発言してくださいまし……」



 僕を見て悪気はないと言う顔をする王妃は、言葉を選んで再度言い直す。



「この者が男爵の爵位を与えられても、陛下のスキル詳細を知らぬ者は多いのです。それに『スキルは知られていい物』ではありませんよ!冒険者ならば特に周りに黙っている物なのです!亡き父の受け売りですが……」



 その言葉に自分の誤ちに気がついた王は、気まずそうにしている。


 王のスキルに話を持って行ったが、王妃は僕のスキルが『ユニークスキル』と気がついた様だ。

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