第335話「王様の心遣いは期待の表れ?要りませんそんな物!!」


「そしてほぼ全ての献上品に名を連ねる冒険者のヒロよ!!其方は我が王国にとって自慢の冒険者として、必ず王国史にその名を残す物とする!!我が一存なれども、ヒロのこの貢献に鑑み『男爵爵位』を此処に授ける物とする!!」



 うっかり僕は条件反射で叫んでしまう……



「要りませーーーーん!!!」



「は?ははははははは!!聴いたか?皆の者?この者は『爵位を要らぬ』と言ったぞ!こういう者が我が王国には必要なのだ!まさに『ウィンクロウ』の再来だな!!あの者に伯爵位を授けた時の『要らぬでござる!』の第一声を思い出すわ!!」



 王様は何故か大爆笑して、王妃様も何故か涙ぐみながら笑っている。



「そうで御座いますね!王様!!父上の言葉を思い出します……そして初めて私が父を叱った事も昨日のことの様に思い出しました……正に今の様に言いましたね!!ではこの後も是非あの日と同じ様に王様!!そうすれば、亡き父もあの世で笑いましょう!」



 王妃様は笑いながらそう言うと、心得ているとばかりに王は王妃と笑い合い、声を大にして言う。



「そうか!ヒロは要らぬか!だが要らぬと言われても今更引っ込める訳には行かぬのだ!王である私が申したからには、王としての威厳があるからな!是が非でも貰ってもらうぞ!この国の王として拒否は許さぬ!」


 そう言うと、王妃は笑いながら拍手をする。


 それに釣られて貴族からも拍手が起きる。


「これは強制になる故、褒美は別に渡すとしよう!所領は空きが幾つか出来るので、後日分配を決定し後日通達する。それまではザムドにウィンディア!其方が王国との連絡役となりヒロを『見失わない』様にするのだぞ!」


 でも僕が一人で背負い込むにはデカい案件だ……そもそもこの国の人間では無い。


 いずれは帰る身だから、此処はまともに取り合うべきでは無い……そう!誰かに擦り付けるべきだ!!



「王様!この功労は私だけの物ではありません!そもそも鉱山での連合戦は、リーダーとして鉄壁を誇る『テイラー』さんが居たから僕は安心して魔法を撃てました。それに冒険者の仲間がいたので、全員で勝利できたのです!それに……」



 僕が鉱山での出来事を話し終えて、別の件を話す前に王の側近が近づいてきたが、鬼の形相になっている。


 元から怖い顔が非常に絵面が悪い顔になっている。



「まだ申すか!王様の前であるぞ!国王の配慮をなんと心得るか……不敬にも程があるぞ!王の求める物を献上したとしても、王様と王妃様の配慮など一介の冒険者には過ぎたるものぞ!」



 それを聴いた王様は『うんうん』と頷くが、キリの良いところで側近を宥める。


「まぁ続きを聴こうでは無いか?確かに言い分には一理あるからな!さぁ申すが良い!」



「えっと……簡単に言うとですね……鉱山戦は総合リーダーの『テイラー』さんの手柄で、討伐部位は全てザムド伯爵とウィンディア男爵へ差し上げた物ですし、ダンジョンの秘薬はパーティー全員の持ち物ですからって事をですね………」



「はっはっは!本当に心底笑えるわ!御主らも見習うが良い!ここまで欲望を捨て去れる『冒険者』など今まで会った事もないわ!」


 そう言って王様はしばらく考え込むと、結論を出して話し出す。


「功労者はテイラーと申したな?その者は『希望の盾』のテイラーであるな?ならば総合リーダーであったテイラーの鉱山戦の褒賞は其方と同じ『男爵位』を授けようでは無いか!所領は今回充分あるからな……馬鹿共の所為で!」



 僕はテイラーを見ると、両手でもうヤメロ!!と言っているのが分かる。



「テイラーも其方も自分の領内でパーティーメンバーに『騎士爵』を与えれば良い!その許可は余が出そう……全員爵位が手に入るであろう?違うか?」



 テイラーは『ヤメロ』の意思表示の手を振るスピードが速くなっている……


 本気でやめてほしい様だが、僕が話す様に仕向けたわけでは無い……最悪な方向に移動中なのだ……



「ちなみに鉱山で戦った冒険者全員に爵位は絶対に無理なのは、其方もわかるであろう?そうなればとばっちりを受けて、褒美を貰えぬテイラーに恨まれるのは其方になるぞ?」



 再度テイラーを見ると、今度は白目を剥いていた……とばっちりでノックアウトした様だ。



「討伐部位をザムド伯爵とウィンディア男爵に渡したのはよく判ったが、そもそも其方の持ち物だった訳だな?ならば鉱山戦でその攻撃力が決め手になったのは誰が見ても明白だ!彼ら二人は馬鹿では無いぞ?」



 そう言われて二人を見ると、既に白目を剥いている………もう辞めてくれ!と顔に出ている……



「彼らが貰った物だから余に献上した功労は見当違いと言いたいのであれば、間違いでは無い!ちゃんと『褒美を用意』しようでは無いか!『其方を連れてきた礼』もあるからな!其方を連れて来なかったら今頃娘達は2人とも死んでいたのだぞ?当然であるしな?」



 ヤベェ……どんどん自分の首が真綿で締められている気がする………


 王様はまだ続ける気だ……流石に僕の目が白目を剥きそうだ……



「秘薬はパーティー全員で得たものだと言ったな?それの礼はちゃんとするぞ?其方達全員には王都に『個別物件住居と拠点』を用意しよう!この王都で冒険をする場合はそこを使うが良い!冒険者であれば一番困るのは拠点だろう?」


 5人は僕を非常にキツイ目で睨んでいる……もうやめて………



「ふむ!これで全部説明は終えたかな?では……『テイラー』及び『ヒロ』へ貢献に鑑み『男爵爵位』を此処に授ける物とする!!異論は無いな?」



 王様は逃げようの僕の無い様に、関係者に最低限の『褒美』を与える形で無理くりまとめてきた……返事するしかなくなっていた僕達は返事を返す。



「「ふぁい」」



 間抜けな返事を僕とテイラーで返したので、側近に不敬だと言われそうだったが王妃はその言葉よりも早く声をかけてきた。



「ふふふふふ……王様はとっても意地悪なんですよ?我が父上も最後は今の貴方達の様に、言い包められて『受けざるを得ない』状況になったのですから!テイラーさんを巻き込んではダメですね?それに返事も父と同じ同じ『ふぁい』でしたわよ?」


 もっと早く言って欲しかった……


 仲間やザムド伯爵にウィンディア男爵に、後で更に酷い目に遭うのは目に見えているからだ……



「では!場を移して晩餐会と致しましょう!皆さん流石にお腹が空きましたでしょう?さぁ娘、シリウスの全快を祝った宴へどうぞ!」



 王妃は上機嫌でそう言って手を掲げるが、その指には献上品の特大パールリングをちゃっかり嵌めていた。



 「お前たち!お客様をご案内を!!」



 王妃にそう言われたメイドは、客人となる貴族たちを案内する。



 僕は白目を剥いている、テイラーのザムド伯爵とウィンディア男爵を再起動させる。


 そして睨んでいる5人は一人も欠ける事なく、僕に小言を言っていく……帝都への個別住居に拠点のお礼は無かった。


 チャック位は『棚ぼたラッキー』程度は言うと思ったのだが、一番小言が多いのはチャックで小言が一番多いと思ったモアは、一番小言が少なかった。


 多分白目を剥いていたからだろう……正気を取り戻した時に側に居るのは辞めとこう。


 交渉の末に報酬を増やしたわけではないので、お礼は流石に言われないとは思ったが……あのチャイまで本気で文句を言う姿は初めてだ。


 僕は応接間に寄って向かうと言い残して、応接間に行ったものの『リュック』は置いてなかった。


 モンブランとスライムは『倉庫の中』の様だ。


 スライムと出られなかったのだろうか……次元収納内部でも無事だと祈るしか無い。

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