第334話「王族への献上品と安定したタバサ」


「なんと?今……なんと申した?この巨大な魔物素材の『取得権を放棄』して、我が王家に『献上品』として出す者が居たのか?その者は正気なのか?」


「これは『魔獣』ジュエルイーターの巨大素材なのだぞ?これだけ有れば専用の武器を作ることも出来よう?金にしたら幾らになるかなど想像もつかぬぞ?それに豪商の多い帝国であれば我が国より高く買う物など尽きんのだ……何と言う事だ……」


「一体何処の貴族だ?申してみよ?ザムド伯お前か?もしやウィンディア男爵か?」



 興奮のあまり玉座から歩き、宝箱の前まで躍り出る王様……



 ザムド伯爵とウィンディア男爵へあげた物なので、何方かが持ってこれる分量を箱に詰めたのだろう。


 そもそも箱の蓋が閉まり切らないくらい、中身が大きかったので開ける前から何となく何かは分かっていたが……



 ザムド伯爵は、周りの貴族へ自慢とばかりに説明を始める。



「王様!コレは全て一人の冒険者による戦闘結果が齎した物です!『切断』した討伐部位は、その冒険者の物と言う冒険者規約があります!それは貴族と言えども蔑ろには出来ませぬ!」



「ですがその者は『貴族』へ献上すると申しました!それこそがここに居る冒険者ヒロで御座います!!」



 ザムド伯爵のその言葉で、チャックとユイにモア、スゥまでが白目を剥く……チャイは現実逃避を始めている。



『ちょっと!リーダー!何意味わかんないことしてんのよ!?トレンチのダンジョンとか一人でどうにでもなるじゃ無いの!!』



 即座に小声でモアからツッコミが入るが、一人では終わらないらしい。



『ヒロの旦那!ロズさんとエクシアさんの知り合いって時点でおかしいと思ったんだ!駆け出し冒険者なんて嘘じゃ無いっすか!何すかあの素材!俺にもくださいよ!魔力付きの武器にしたいっす!!』



 いや……あんた達そこに王様居るから近い分間違いなく割と聞こえてるから……



『ユイ魔法の杖の魔力を強化したいです!骨下さい!骨!!』



 ユイに関しては完全に首を僕へ向け話し小声で始める。



「リーダー私も装備を魔力強化したいから骨下さい!骨!後逆鱗も下さい!タリスマン作りたいです!」



 ビックリした事に王様が側にいるのに、普通に話し始めるスゥは意外と天然だ。



 その様にビックリしたのはザムド伯爵で即座に謝罪を入れる。


「も!申し訳ございません!この者達はトレンチのダンジョンで簡易パーティーを組んだ者達であり、鉱山連合討伐戦の事情を知りません。何卒発言のご容赦を!王様!」


 すると王様は……笑いながら話す


「スゥと申したな!この逆鱗から『タリスマン』が出来るとは本当か?それであれば、許すも何も我等が知らぬ情報だ!感謝以外の何物でも無い!」



「そもそも許すも何もこの者達が『秘薬』を見つけなければシリウスは治らなかった!後1天でも遅ければ手足の末端部は崩壊を起こしていたであろう……感謝こそあれ不敬などあるはずも無いだろう!」



 そう言った王様は他の宝箱に目を移し話をする。



「この箱全てが魔獣素材となれば……我が王国騎士団の武器も素晴らしい物が出来よう!」



 そう言った王様は、開いていない宝箱の一つに手をかけて開けた瞬間………完全停止する。



「ど……どうなさいました?王様?王様??どうなさいました!!」



 急に動かなくなった王様の様子に不思議を感じた王妃は、立ち上がり急いで階段を降りて近寄ると、王の手前で箱の中身が目に入り首が90度そっちを向く。



「な!?なんですの?この財宝は?王様の言っていた魔物の素材では無いですよね?」



 王様の心配をして近寄った王妃だったが、今は宝箱に縋り付く様に中を見ている。



「この二箱は、トレンチのダンジョンから出た特殊な財宝に御座います!今までその階層で宝箱は何度も得られてますが、この様な一品は初めてでありまして……」



「これらも王様と王妃様への献上品で御座います!今開けられている箱を手に入れた者達のリーダーは、タバサと言いまして玉座の広間の前に待機して……」



「ザムド伯爵!すぐにお呼びなさい!私から礼を申します!」


 ザムド伯爵の言葉を遮りそう言った王妃の手は、外箱の『散りばめられた大粒宝石箱』をウットリ眺めながら、両手にはルビーとサファイアを持っている。



 ザムド伯爵は『は!!た……直ちに!』と言うと騎士達に指示を出す。


 タバサはキグシャクした感じで歩きながら僕の横に来て、



「わ……ワテクシはタバサと申しましゅ!田舎から出てきて冒険者になりましゅた!あ!今日はお日柄も良く!王様と王妃様は……」



「貴女がタバサさんね?この様な素晴らしい物を有り難う!この宝箱はイミテーションかと思ったら……本物の宝石の箱の様ね?なんて素晴らしい物を……我が王家は、貴女の様な素晴らしい冒険者がこの様なとても素晴らしい物を献上された事に、心より感謝します!」



 王妃がタバサの良くわからない挨拶を止めてお礼を言うと、タバサは一際バタバタしてから土下座で『有難う御座います』と言っていた。


 怒られて居ないのに土下座をした事で、笑いながら『土下座なんてしないで良いのですよ?』と言って王妃が立たせた後、土下座で汚れたタバサの膝小僧の汚れをハンカチで落とす。



 流石に放っておくと、延々とタバサが暴走する可能性があると察したザムド伯爵は、すぐに説明を開始する。



「此方の箱は『タバサのパーティー』が持ち帰り献上した物ですが、3箱目の宝は『ヒロのパーティー』がダンジョンから持ち帰った物で御座います!」



「タバサのパーティーはこの護衛任務に参加しておりませんが、タバサはヒロの本来のパーティーメンバーである故、この旅に同行しております。」



「よってタバサのパーティーメンバー全員がこの王宮には揃って居ませんが、全員一致にてこれらの品を王様お呼び王妃様へ献上を申し出ております」



 ザムド伯爵は手に入れたパーティーと、ここに居ないメンバーの説明をした後、この宝箱の中身を記したスクロールを手渡そうとするが、既に王妃は残りの宝箱を開けて完全停止している。



 そこに今度はシリウスが近寄り、母のポラリスに声をかける。


「お母様!幾ら何でもいけませんわ!ザムド伯爵のお話をちゃんと聴いて、お礼の言葉を…………」



 そう言ったシリウスは母越しに箱の中身を見てから、声をかける事なく箱へ向かい『宝石が散りばめられた円型の化粧箱』を取り出して……



「お父様!シリウスはこれが欲しいです!!妹のカノープスと一緒に仲良く使うので、私たち姉妹に下さいませ!!」



 とねだり始めた……


 ザムド伯爵は『目録のスクロール』をどうして良いかわからぬまま立ち尽くして居たが、気を利かせた側近が『そっと』受け取って居た………。


 そのあと側近にそっと耳打ちされた王様は、目録を受け取り………じっくり目を通す。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 『献上品目録』


 冒険者 タバサ以下5名


 精霊の短剣、宝石の宝冠、生命のワンド、宝玉、ルビー、サファイア、


 散りばめられた大粒宝石箱(外箱)



 冒険者 ヒロ以下5名


 精霊のロングソード、宝石の錫杖、深紅の宝玉、特大パールリング、


 万能薬2個、宝石が散りばめられた円型の化粧箱(小型)


『黒箱献上品』


 秘薬


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そして宝箱の中にある宝石の錫杖と宝石の宝冠を取り出して、そそくさと身につけると、突然大きな声を出す。



「我が悲願である『秘薬』だけでなく魔獣の討伐部位を献上し、この様な素晴らしい宝を持って来たザムド伯爵!そして、これら全てを惜しみ無く献上した冒険者に心より感謝を伝えよう。大義である!!」


 王様は高い位置から全員に向けてお礼を言うと、貴族の中から拍手が起こる……王権派の貴族だろう。


 そして王妃様と第一皇女のシリウスも、僕達に向けて礼を言い拍手をする。


 その後王は、僕を見て何かを言おうとしている……嫌な予感がする……

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