第333話「怒ったり驚いたり喜んだり非常に大変な王様の一日」

王の配慮も考えずにチック男爵は願望だけを口に出す



「そ!そんな!食糧生産だけが私の生き甲斐なのです!!せめて領地だけは!何卒!何卒!」



 しかし、当然チック男爵は文句を言い始める……その事に流石に激怒する王様。



「ならぬ!今でも自分がやった事が判らぬか?この大馬鹿者が!お主はこの国の未来を支える娘達の為に、秘薬を献上したこの冒険者を騙したのだぞ!」


「万が一、お主達が秘薬を手に入れる事に成功したとして、ターブ伯爵が気変わりしその秘薬を金目当てに処分していたら、この国はどうなった?」


「お主は、食を与えて幸せになる世がと申したな?腐敗貴族がやる事など、たかが知れておるわ!其方が汗水垂らしながら生産したその食材など、国民に行き渡らず金に変わるに決まっておろう!現にウィンクロウ伯爵は腐敗貴族の起こした悪事の犠牲者であろう!」


「この国と国民を思い、真っ先に行動していたウィンクロウは我が友にして最大の功労者ぞ!不作の領に何処の誰よりも早く食料を届けていたのは彼だ!馬鹿共が共謀しなければ今も健在であろう!ダンジョンで命を落とさずに済んだはずだ!」


「だからこそお前は、彼の残したクリスタルレイク領でその全てを知るべきなのだ!爵位がなくとも、やれる事など山ほど有ると奴は死ぬ前に我に説教をしたのだ!生産した物を有効活用できず利用されるだけの大馬鹿者が大口を垂れるな!」



 王様はそう言うと、騎士に命じてチック夫妻と、先程判決を出したコマイ男爵夫妻も牢獄へ連れていく様に命じる。


 取調べが残っているからだろう。


 コッズ伯爵は未だに罪を認めない以上『秘薬』を持ち込むまでは罪に問わないのだろう……多分泳がせておいて、関連する貴族を一網打尽にするつもりかも知れない。


 騎士はコッズ夫妻を直ちに玉座の広間から放り出し、持っていると言う『秘薬』を取りに屋敷に帰させる。



「それでは……これで秘薬に絡む謁見は終わりで問題ないか?誰か『秘薬』を我が娘に齎せる者はおらんのだな?」



 王は王笏を強く床に打ち付けてそう言う。



「嘆かわしい……こんな多くの配下が居るのに……お前の事を考えてくれるのは、ザムド伯爵とウィンディア男爵にそこに控える冒険者達だけとはな……」



「そう思わんか?シリウス?」



「はい!お父様……悪辣貴族の策を全て跳ね除けて、妹を助けただけでなく私の危険まで跳ね除けてくださいました……叔父様達とその冒険者には感謝しかありません!」


 突然の病気で伏せっている、第一皇女のシリウスが登場した事で周りは騒然とする。


 それもその筈だ。


 その皇女を救うための秘薬を渡すための謁見なのだから、周りの貴族は皆騙されたと思う他無い。



 しかし僕は、叔父様『達』?と言うシリウスの言葉で不思議に思って、チラリとザムド伯爵を見る……すると目があった伯爵は小さい声で説明してくれた。



『王とは腹違いの兄弟だ……隠すつもりは無いが、胸を張って言えんのでな……我が命と引き換えに母は『王位継承権』を辞退した』



『我が祖父が『騎士爵』だった為に我が母との『婚姻』を反対されたのだ……ここに居る貴族共の両親にな……それから我はあいつらの様にはならんと決めておる!』



 非常に小さい声だったのだが、これでよく王様がザムド伯爵まで伴っているのがわかった。


 当然兄弟だったなら、姫は『姪』だ……心配も当然だし、今までの力の入れようは当然だ。



 その王様の皮肉は、歩けるまでに回復したシリウスを見てさらに拍車がかかる。



「汝等が悪事を考えているのは既に周知の上で『罠』を張っていたのだ!ザムド伯爵とウィンディア男爵はな!皇女に害をなす者を一掃する手筈だったのだ!だからこそ偽物を用意して、我が家臣に秘密裡に伝えて『シリウス』へ無事『秘薬』を届けたのだ!」


「その上で、この様な場を設ける準備を直談判しおった!お陰で『全部』とはいかないが、幾らかの腐敗貴族は決着がついた!悩みの種が無くなった今、以前から我等が調べていた国の法を悪用する貴族も、例外なく裁ける様になるからな!彼等冒険者のお陰だな!」


「娘のシリウスは回復しただけでなく、今日など毒殺されそうになった際にもそこの冒険者に助けられた!何故我が家臣にこの様な者が居ないのか不思議でならんがな……誰も気が付かねばシリウスは今日既に死んでいた!」



 王様が今回の裏話をする。


 ここで明かす理由は、第一皇女のシリウスが回復した事でこれからは見て見ぬふりをせずに、遠慮なく処罰して行くと言う事だろう。


 王が娘の回復方法に奔走する間に、この国での問題は大きくなっているのだろう。


 王都で暮らしていない僕には細かい事など判らない事だが、王がこの国の現状で何かを気にしている事に間違いはない。


 そしてそれは、王国の運営を周りに任せる事で起こる弊害だろう。



「因みに先日帝国のオークションにて『秘薬』が売りに出されて、手を尽くした結果それを手に入れたのは『王都の貴族』と調べがついたが、非常に残念だ!てっきり我が娘のためと思うておったが……」



「言葉だけの貴族とは思わなんだ!期待できると感じたのは思い過ごしだったな……婿に迎えるには『その様な貴族』はふさわしくないと言う事だな!今までで一番有力だと考えていたが新たに探すしかあるまいて……すまぬなシリウス!」



「だが、結果的にお主は恵まれておるのだぞ?『秘薬』などは、そう簡単に手に入るはずはないのだ……だがそれを其方は手に入れた。もし相手が持ってながらも出さずに『様子見』をしている貴族だったならば、数年で下手をすれば死んでいたからな!」



「お主を救う様な者が我が王国の『貴族』で有ったならば、我も安心して隠居出来て居たのだがな……眼鏡にかなう勇ましき者程、思い通りにいかぬものよな……」


 突然話が変わってしまい、僕は貴族同士の力関係のことだろうなぁ……と思っていたが、変な方向に話が繋がっていくとは、僕は思いもしなかった。


 黙って皆が王様の話を聞いているが、ザムド伯爵は突然声を上げる……



「王様!実はご報告が御座います。発言の許可を!!」



「む?なんだ?ザムド伯、発言を許可する。」



「鉱山の一件についてですが、『討滅』された事をご報告させて頂きます!王様に我が連合討伐隊より贈り物が御座います!お持ちしてもよろしいでしょうか?」



 ザムド伯爵の発言内容は例の『鉱山』の一件だった。



「くるしゅう無い!持って来るが良い!」



 ザムド伯爵と王の一言で王のお叱りタイムの空気が一変される。


 王の許可を得たので、外に控えていた自分の騎士に持って来る様に命ずる


「王様!私ザムドは王命に従い、多くの友の力を用い見事に鉱山のジュエルイーターを討伐しました!ウィンディア男爵にハラグロ男爵、ストーム男爵、コリー男爵の騎士団達に、多数の冒険者の協力があり討伐に成功致しました!」



 ザムド伯爵が献上品の持ち込みを指示した後、騎士が持ち込む間に参加者の説明を簡潔にする。


 説明が終わる事を見計らい騎士達数名で大きな宝箱3つを王の広間へ持ち込むと、ザムド伯爵は王の許可を貰い宝箱の一つを開けてから、説明をする。



「砕けた爪に魔力骨、甲羅の一部と逆鱗(特大)で御座います!此方の品々は全て一人の者の取り分の一部として、魔獣から獲られた物で御座います!その者は此方の取得権を放棄し『王様』へ献上すると申したのでお持ち致しました!」



 その素材を見て多くの貴族から歓声が上がる。


 そして当然、王様もビックリして声を出す。

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