第337話「倉庫の先客は真紅の魔女……今日は朝から大変だ」


「大丈夫ですよ?僕のは使用制限があり『僕以外は使えない』ですから。そもそもマジックバッグと大差ないですからね?マジックバッグの方が時間制限が無い分、実は勝手が良いんです」



 王妃と王様は『ほう?』と言う顔で僕の言葉を聞いていたが、大切なのは此処からだ。



「実はその時間制限のマジックバッグに『謁見』で置いておくべき『装備や道具』をしまったのですが……制限時間が切れたので取り出せないんです……なので先程の戦闘は魔法だけで戦った次第なんですよ……」



 そうすると、特殊な条件に納得した王様と王妃は二人で何やら話をしてから



「ふむ!それであれば、御主の宝物を開けられる様に儂が指示をしておく。明日王家の馬車が風の9刻に迎えに行く故、出かける用意するが良い。王都のギルドで開ける様に儂から申し伝えておこう!」


 そういうと、王は近くにいる側近を呼ぶ。


「明日この者を王都の冒険者ギルドへ案内せよ!それと今からギルドへ行き、宝箱を開ける予約を風の9刻過ぎに入れておくのだ!箱のランクは『A+』以上の箱とちゃんと伝える様にな!」


 僕は水精霊のダンジョンで箱を開けて貰った事を思い出して、今同行して居るメンバーが開けられるかも知れない……と思い出したが今更だった。


 費用の件が気になるが……王都だけに物価はジェムズマインの街に比べて高いのだろうか……


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 晩餐会は無の21刻(21:00)まで続いた。


「早いものだな……既に無の21刻か……久々に娘を伴っての晩餐会は楽しかった。これも全て秘薬を無事持ってきてくれたザムド伯爵はとウィンディア男爵にヒロ男爵そしてテイラー男爵のお陰だ!礼を言う!」


 慣れない呼ばれ方に背筋がゾワゾワする……だが目に前にはポラリス王妃に第一王女のシリウスそして例の第二王女のカノープスがいる。


 カノープスは先ほど話した時に、またアリン子に乗せてくれとせがんで居たが王妃に『はしたないですよ!』と怒られていた。


 多分アレックスを利用して脱走してくる気がする……怒られてからアレックスを探し回っていたから多分そうだろう……



「有り難き幸せ!このザムド皆と共により王国の繁栄に貢献していく所存で御座います!………………」


 ザムド伯爵の言葉が途中から耳に入らなくなっていた。


 朝から王都で、罠に嵌りダンジョン攻略させられて、王宮に戻ったら悪辣貴族と腐敗貴族退治……その最中に元ターブ伯爵は人間辞めてしまい、ケイオスサハギンに転化してそれとバトル……そして今夜の晩餐会だ。


 やっと宿に着き全てから解放されたのは無の22刻半(22:30)だった………



 僕は昨日と同じ様に宿の使用人にお湯を貰い、身体を軽く洗いさっぱりしてから替えの服に着替える。



 この世界は湯船という概念がほぼ無い。


 陶磁器製の湯船はあるが基本的に貴族様で、庶子民など桶に水を張って拭く位である。


 だからお湯が貰えるこの宿はかなりマシだ。



 しかし流石に桶とタライでやるのは、狭いとしか感じられない。


 何とかしたい案件だ……それも早急に!!



 僕は厩舎の中で待たせて居るアリン子に夜食を持っていく。


 王様に言って貰った晩餐会の残り物だ。



 晩餐会で余物のご飯を貰う時に周りの貴族は笑って居たが、アリン子の分と言うとザムド伯爵とウィンディア男爵は納得して


「貴公達はわからぬよな?彼……いやヒロ男爵はトンネルアント亜種をテイムしておる。その餌を与えてこそより深い繋がりが保てるのだ!」


「その様な規格外の領主だから、騎士など頼らずあの様な化け物を自分で軽くあしらえるのだ!」



 ザムド伯爵がそう言ったあと、ハラグロ男爵も便乗して、



「無駄な偽物宝石に身を固めるその方達では、これらは残飯としか捉えられず持って帰る意味も分かるまい?まぁお前らと違って、彼が持つ財宝は全て本物だからな!『残飯』が最終的に宝石を齎すなんて分かる筈も無いか!!」


「自力でダンジョンから回収出来る腕前の、今までに居ない男爵なのだよ!その一役を買っているのがこの飯を食う『トンネルアント亜種』って事だ!」


 なんて挑発して居た。


 厩舎に着くとアリン子は念話で話してくる。


『スラノケハイガナイ……ドコイッタ?』


「スラ?ああ、スライムのことね!実はね、スキルの倉庫にしまったまでは良いんだけど、トラブルでスキルの制限時間がきちゃってさー倉庫に置いてけぼりになったんだ」



『アルジ……マヌケ……ソレヨリ、イイニオイ。ゴハン?』


「そうだよー待たせてごめんね。遅くなっちゃった」



 どうやらアリン子はあまり心配して居ない様だ……餌を器に入れると美味しそうに食べ始める。



『アルジニツイテキテ……ヨカッタ……イツモナンカイモタベレテ……ゴハンオイシイ……ウレシイ』



 僕は頭を軽く撫でて、厩舎を後にする。



「ちゃんと寝るんだよ〜」


『キョダイナ、マモノノケハイ……アルジキヲツケロ……チカオクフカク、アルジヨリツヨイ』



 ビックリした……アリン子はアラーネアの脅威度を地上の此処から感じ取ったらしい。



「それは多分アラーネアだね!大丈夫だよ友達になったから!」


『アルジ……トモダチ……ナラワタシモ、トモダチ』



 ゆっくり食べれる様にするために、厩舎から出て行く…… 王宮の晩餐会の食事だから美味しいのは確かだ。


 僕は部屋に向かいすぐに布団に潜り込む……流石に疲労困憊でステータスも、異常表示の『疲労』と出ている。


 この様な部分は、異世界はわかりやすくて良い。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌朝は風の6刻に、5人の次女の一人ビスケットが起こしに来た。


「ヒロ様朝です!起きてください〜。食堂で食事の用意が出来てます。起きてください〜」


 少し慣れてきたのか、ビスケットはマフィンと比べて語尾を伸ばす癖がある様だ。


 僕は倉庫の件があるので、食堂に行くのが遅れるとビスケットに伝えて、僕はすぐに倉庫のスキルを使い扉を作り中に入る。


 そこに居たのは、スライムとモンブランと真紅の魔女だった。


「お?やっと来たね!」


 かなり雑に朝の挨拶をするモンブラン……スライムは僕の周りをゴロゴロ転がっている。


「悪いが机の上のフルーツは頂いたよ?このスライムと聖樹が腹減らしてたからね……まぁそういう私もちょとは頂いたがね。」


 そういう真紅の魔女に僕は前回の情報の礼と言う事を伝えておく。


「成る程ね良い心がけだ……それで時間一杯まで使ったって事は、何かトラブルってことかい?」


 僕は真紅の魔女の一言で、昨日あった事の中でターブ伯爵が変異した事と、アラーネアが『人間から魔物』になった事を伝える。



「ふむ……そうかい……アラーネアは地下で今も粘っているんだね……彼女の事は私は言う事が出来ないよ。向こうと干渉することになるからね。……その人間が変異する事は珍しい事じゃ無い『穢れを自ら摂取』すれば当然だろうよ?」


 僕は『穢れを摂取?』と聞くと、彼女は簡単に説明をしてくれた。


「いいかい?魔物は穢れを摂取した『生物』が変異した場合と、その穢れから『生まれる』場合があるのさ。その男は穢れが具現化した魔物を食ったんだ、少量だろうが当然魔物になるさ」



「取り込んだのが血液の場合、肉体が変異して結晶になって砕け、周りに穢れをばら撒く……それを解決する手段は、お前さんがやった『秘薬』だが……副作用がある。何かといえば欲望に忠実になる事さね……直後に何か欲しがってなかったかい?」



 僕は宝を献上した後、中に入っていた宝箱を非常に欲しがった事を伝えると、少し考えたあと言葉にして教えてくれる。


「まぁ、それぐらいなら普通の女の子だろうね?よほど欲がない娘だったんだろうよ……その程度の物欲しがるなんてね!」


 僕はシリウスの事を思い出すと、その様から彼女のイメージは『確かにポーッとしてる子』と思った。


 そして真紅の魔女に、新しく作ったゲートの事も聞くことにした。


「その横の扉が新しい奴ですか?コレでどのくらい持つんです?」


 そうすると、真紅の魔女は振り返って不思議な顔をする……


「何だい扉って?わたしゃまだ設置してないよ?術式を壁に刻む必要があるからね?」


 僕は意味が分からない……何故ならば、今真紅の魔女が向いて居る目の前に扉があるのだ……彼女には見えていないのだろうか?と思った瞬間……



「まいどぉ!やっと居ましたな!こんな場所に設置して管理人が居ないもんだから焦りやした!ほな!注文聞きましょか?」


 入ってきたのは作業服に身を包んだ『二足歩行の白猫』だった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る