第328話「悪辣貴族の仲間割れと次の罠にかかる奴」

僕はコマイ男爵を見ると、何故か王様に『奪った事』を伝えようとして、それをコッズ伯爵に止められている様だ……秘薬が自分たちの手に無いのは既に彼らにも分かっている。



 奪ったと自白すれば、コマイ男爵は王に叱責されるだろう……だが『馬のフン』を王へ献上した『事実』の言い訳はできる。


 当然それなりの処分は免れないし、自分から言い出さなかったコッズ伯爵はもっと酷い目に遭う。



「ほう……ならば『馬のフン』を用意したのは其方の案と言うことか?……では今まで其方は『黒箱』奪った者がわからぬ為に、中身を言わなかったのだな?……そんな重要な事を何故ザムド伯がそれを申さん?黒箱を一介の冒険者に託して良いものとでも思ったか?」



 当然ザムド伯爵に、そう王様から言われるのは分かりきっている。


 僕はザムド伯爵は当然、上手くやってくれると信じているし、無理なら僕が辻褄合わせに何か適当に言えば済む……


 ザムド伯爵は空気を察してくれた様だ。



「王様……浅はかな策で申し訳ありません……。王都への持ち込みは『マッコリーニ商団』を利用して、無事に持ち込みができました。」



「ですが、王都へ入った際に策が上手くいき無事に持ち込みができたので、宿で我が騎士団で持ち込みに備えて管理したのですが……全員が眠らされており……『黒箱』を奪われた次第で御座います……」



 其処で僕もオマケを付け加える……勝手に自滅を装ってみる。



「ヤクタ男爵の襲撃犯は『マジックアイテム』を多数持ていました。此方の護衛を無力化する準備を確実にしていたのです。冒険者はマジックアイテムの有用性は誰よりも熟知しているつもりです。」



「魔物に対して僕達冒険者は頻繁に使うので、その重要性と危険性を知っていて当然なのです。片方の黒箱の襲撃は、ヤクタ男爵で間違い無いかと……ザムド伯爵の追っ手が無くなり、そのザムド伯爵が王都へ入ったと知れば、おかしいと気がつき再度襲撃もありましょう」



「この為に、既に王都へ自分の私兵を紛れ込ませていても、おかしくは無いのです!……僕であればマジックアイテムを用意する以上、多くの手を用意しておきます。僕でもやる事を、貴族がやらないのはおかしいですので…」



「それに当然その手引きをした者が王宮内に居たと思われます……それは天井に貼り付いている方で間違い無いでしょう。そして言い辛いのですが、秘薬は既に王都を出ているものと思われます」



「お互いの利点を考えれば……答えが出るかと……ヤクタ男爵は秘薬を使い帝国で有力貴族に、そしてドクリンゴ女公爵は王位へ一歩近づきます……」


 これでもう一箱の行方は、此方の勝手な勘違いで『ヤクタ男爵』へ押し付けた。


 もう片方は気兼ねなく言いだせるだろう……まぁその前にコマイ男爵とコッズ伯爵の尋問が始まるだろうけど……


 王様は僕達の説明を聞いた後、ため息を吐き一気に話し出す。



「それで如何なのだ?わざわざ自分から罪を名乗り出たぞ!其処の冒険者は!」



「お前たちは、自分で『秘薬を用意』したのか『奪ったのか』明確にする必要があるな!秘薬を本当に持っているならば、いつ迄に献上するかをこの場で申せ!」



「余とすれば無理に『秘薬』を取り立てはせん!娘の為に……と言うつもりで『持ってきて』くれたと信じたいからな……」



「だが、疑われたから今更渡しませんでは道理は通らんからな?『それなりの覚悟』をしておけよ?『馬のフン』を我が前に出した責任は、用意した冒険者ではなく『貴様等』にあるのだからな!少なくともお前たちが認めぬ限りはそれを『用意したのはお前達』だからな?」



「そして、お前たちが説明しない以上、この『馬のフン』はお前たちが用意したとしか意味が受け取れぬし、冒険者が用意した『偽箱』はまだ別にある事になる…」



「この場でハッキリ申せ!後日になれば自分の首を絞める事になるぞ?この場で収められぬ事であれば、お前らの家名は『取り潰し』が決定だからな!如何に!!」



 コマイ男爵は『お家のお取り潰し』と聞いて自白を始め、それを頑なに止めようとするコッズ伯爵……


 王の前で無様に喧嘩まで始めていた。



「もう良い!良く分かった!コッズ伯爵……お主は此処まできて認めぬのだな?ならばお主には明日再度機会をやろう!お前の持つ『秘薬入りの黒箱』を持って王宮に来るが良い!」


「コマイ男爵!再度聞く!お主は『黒箱』を奪い『秘薬』はダンジョンで入手などしていない!それで間違いはないか!」


 王はコマイ男爵に圧力をかける。


「はい!私は、王都へ入ってくるマッコリーニ商団の荷物に『黒箱』を見つけました!なのでそれが『本物』と思い奪った次第です……まさか偽箱と入れ替えられているとは思いもせず!」



「自分がやった過ちを認めます!家名のお取りつぶしは何卒!!何卒!」



「ならば、罪を認めたコマイ男爵の所領は没収とする。屋敷と爵位はこの場にて自白した為、現状のままとするが……今後の所領統治は別の者に委ねる。お主はその屋敷で反省して我が王国の為に一から出直すが良い!」



「コマイ男爵の我が娘への薬を奪取せんとした浅はかさ……甚だ遺憾である!だが、罪を認めた故今後に期待する!しかし、コッズ伯爵は未だにその罪を認めん。ならば明日王宮に秘薬を持参する事を命ずる!」



「持参した際は献上するか持ち帰るか選んで構わぬ!しかし『馬のフン』を王宮にばら撒いた罪は別途吟味とするのでそのつもりでおれ!」



「持参を拒むのであれば『領地没収の上、爵位剥奪』とする。あるか判らぬ秘薬とやらを持って帝国領でも何処へでも行くがいい!」



 王様の判断は大甘だったが、所詮コマイ男爵は使いっ走りだと思っていた様だ。


 此処で許しを与えれば、国の為に働くと思っている様だ。


 こう言う貴族は放し飼いではなく、ちゃんと首輪をしたほうがいいだろうけど……


 と思ったら僕の名前も出される……



「冒険者ヒロとザムド伯爵は、用意した『偽箱』については我が娘『シリウス』の事を考えた結果として情状酌量とし、今後より一層王国への貢献を期待する!以上だ!!」



 怒られると思ったら、情状酌量だ……たしかに黒箱に『馬のフン』を詰めたのは僕達だ……怒られて当然だ。



 でも一つ言わせて貰えば、単独空間に入れているだけで、マジックバック内部が全部汚れるわけではない。


 中は間仕切りの様な状態なのだ……うち壁があるわけでもなく『馬のフン』が内側に付着することはない。


 馬のフンとレモップルジュースを同時に入れてもお互いが混ざることなどないのだ……因みにそれを飲む気はしないが……



 中身が個別空間になっているからこそ、手を突っ込んでそれが何か分かるのであって、それを念じて取り出すのが一番早いのだ。



 今回は『馬のフン』しか入ってないのだから、それしか触れないのは当然だ。


 まさか内部を引っ掻き回して、その手でベタベタ触り、中身を外に全部出すとは思っても見なかったが……



 王様は状況に信憑性を持たせる為か、アレックスに指示を出し始める。



「騎士団長アレックス!今すぐヤクタ討伐隊の増援を編成し向かわせよ!位置は帝国領近辺に街道及びその周辺の村に配置せよ!ヤクタを逃すな!生死は問わん!」



「は!このアレックス直ちに編成し向かわせます!」


 アレックスがアラーネアが壊したドアから出ていくが、直後にとある貴族が声を上げる。



「王様ーー!!ルートフ家ターブで御座います!発言の許可を下さい!」



「む?なんだ?ターブ!話してみよ!」



「我がルートフ家にも『ヤクタ男爵討伐の任務』をお与えを!我が所領は帝国と接地しておりますので、向かうのは容易いので是非我等に!我が騎士団と私兵……シリウス様のためにお使い下さい!」



「そうか!ターブ。助かるぞ!」



 黒箱絡みかと思ったら、単純に『出兵』の催促だった様だ。

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