第327話「ハズレ箱を引いた往生際の悪い貴族達」


 それから、少しの間コマイ男爵とコッズ伯爵のマジックバッグ探索が始まる。


 両手は既に『馬のフン』塗れだが……なぜ気が付かないんだろう?ハズレだと……



「そんな筈はない!この中にあるんだ!秘薬は……何故だ!?」



「コマイ……そっちはないか?手に当たるものは?」



 両手が汚いのにマジックバッグを触る物だから、外まで物凄い汚さになっている。


 マジックバッグの使い方を知らないのだろうか?




「マジックバッグなら、ひっくり返して出したいもの願えば出ますよ?王様指示していいですか?」



 僕はそう言って王様に許可を貰う……もう臭いのでやめて欲しいからだ。


 ちなみに、兵士によって玉座の広間の天窓は既に全開だ。



「うむ!許可する!はよう何とかせい!」



 僕は馬の糞まみれのバックなど触りたくも無いので、2人に指示をする。


 ひっくり返してから『秘薬よでろ』と言うと出ますと伝えると、やってみるが一向に出る気配はない。



「やって出ないなら中には秘薬は無いんですよ……馬のフンですよね?その手についてるの?」



 僕は余計なことを言ってしまった……。



「馬のフンでろ!!」



『どさどさどさどさどさ……………………』



「コマイ男爵!!馬鹿かお前は!?………何故それを此処で出した!!」



 僕は余計なことを言ってしまった……そのせいでコマイ男爵は馬のフンを試しに出した様だ……それを見たコッズ伯爵は当然叱りつけるが今更だ。



 王も王妃も目を背けているし、ザムド伯爵はまさかの光景に口が閉まらない……僕だったら絶対にあんなに口は開けない……今の空気を口になど入れたく無い。



 それはもう阿鼻叫喚の地獄絵図だった……まさか此処まで馬鹿な貴族が居たのは計画外だ!!!



 そして一時謁見は中断され、涙目でそれを片付けるメイド達……


 僕はメイドに言って、スッパダマの表皮が腐ったものが無いか聞くと、多分あるとの事なので調理場から持ってきてもらう……


 当然、周りの腐った部分を剥いてもらってからだが。



 僕はそれを魔力容器に放り込み粉砕して液状にした後、残渣を取り除き中に氷を浮かべてから、レモップルジュースを作りザムド伯爵とウィンディア男爵へ振る舞う。



 しかし2人は、それをすぐにメイドへ持たせて、王様と王妃様へ届けさせる。



 数分後………



「王様及び王妃様のお越しに御座います!皆様方お席を立ちお待ちください!!」



 王の側近が先に部屋に入って来てそう言うと、凄い勢いで応接間のドアが開けられる。



「ウィン!!これは何ですの!?この飲み物はどこで?」



 僕はザムド伯爵とウィンディア男爵様にまた作っていたのだが、賞味期限ギリギリのレモップルしかなかったので作れる量は500MMペットボトル位の量が積の山だった。


 ちなみに出来たものは、ピッチャーに入れてある。



 しかし、それをめざとく見つけた王妃様は………



「コレですのね!?これを見つけて来たのはどなた?ウィンでは無いでしょう?貴方がこんな気の利いたもの手に入れるはずがない!」


 僕は仕方なく小さく手をあげると、



「これを下さいまし!!シリウスとカノープスにもに飲ませたいのです!素晴らしく美味しいので……」



 僕は言葉に詰まり、どうぞどうぞの手振りしかできなかった……



 王妃の帰り際に、『飲める制限時間は1時間です!持って行ったら今すぐ飲んでくださいね!』とドアから顔を出して言うと、側近に物凄く睨まれた……


 酷いもんだ……消費期限守らないと毒になるんだから……注意したのに……



 半刻程時間が過ぎた辺りで、ようやく謁見は再開された。


 床は綺麗に磨かれていて、水魔法で洗ってから乾燥させたようだ。


 部屋の匂いは、風魔法で常に外に向けて出していたのだろう。



 先程の悪臭は無い……柑橘系と思われる果物が部屋の中に置かれていて、臭い消しに使われている様だ。



 コッズ伯爵とコマイ男爵は流石に来れないと思ったが、綺麗に身支度を整えて来ていた。



 短期間に素晴らしいものだ……と思う。



「コッズ伯爵とコマイ男爵……よく短期間に着替えが間に合ったな?……それで?」


「はい……王宮御用達の縫製職人に今ある物を……」



 どうやら専門職が居てその人にお願いした様だ。


 偶然にしては………と思ったがよく考えればその人達にとって今日は書き入れ時だ。


 多くの貴族が来て王様とライバルの前だ財布の紐が緩むのだろう……更にコッズ伯爵やコマイ男爵の様なイレギュラーの買い込みもあるだろう。


 ライバルにドレスを汚された……などは特にありそうだ。


 よく見れば今着ている物も、若干サイズが合ってない様だ。



「そんな事はどうでも良い!して……『秘薬はどこだ』と聞いておる!!!『ダンジョン』から手に入れたと申したでは無いか!」



「何故、中身が『馬のフン』なのだ?所詮我が娘は『馬のフン』と言うことか!!申してみろ!その口で!コッズ伯爵にコマイ男爵!!」



 王が2人に対して激怒する……当然2人は言い訳をしなければならないが、どう繕っても無理が出る。


 ダンジョンで秘薬が出たと、この場で発言してしまった。


 黒箱に入れる必要性がある以上、誰かに任せたなどとても言えない。


 入れたのは2人だ、そして黒箱は閉めたら最後開けられない……使用方法を知らないでは済まない。



 コッズ伯爵がいい訳を考えていると、コマイ男爵は圧力に負けて言い訳を適当にしてしまう。



「違います!確かにこの『黒箱』には秘薬がある筈なのです!」



 そう言ったコマイ男爵は何故か僕達を見る……チャックも僕も王の方を見て目を合わせない様にすると、何か身振り手振りをしてくる。


 何故僕達が彼等を助けると思うのだろうか?脳神経の束が死んでいるのだろうか?


 それにしても言い方が非常に不味い……絶対に突っ込まれるのは間違いない。


「ある『筈』とは、どう言うことだ?お主ら………自分たちの用意した『黒箱』だろう!!いれた筈の秘薬が開けたら『馬のフン』になりましたで済むか!」


「それに先程から何故、背後を気にしておる!コマイ男爵!?よもや『奪った物』と申すつもりではあるまいな?先程は浅はかな策だと申したでは無いか!?」


「申してみよ!『奪った物』か?それとも意図して『馬のフン』を入れたのか!」



 王様に責め立てられて、これ以上は何も言えなくなった彼等に助け舟など出す気はないが、もうひと組は絶対に『黒箱』の中身に警戒するので、それ用の罠を張る準備をする……



「王様……発言の許可を……」



「王様の質問中であるぞ!控えぬか!」



 側近が僕を一括するが、王様は怒った顔のまま僕に



「なんだ!!ヒロと申したな……言ってみるが良い!」



 ヤベェ……こええ……折角『腐敗貴族』一掃の手助けしようとしたのに……こええよ



「我々が奪われた『黒箱』なのですが、奪われた時の事を考えて当然『ハズレ』を用意したのです……襲撃を考えた手段でしたが。勿論、コッズ伯爵及びコマイ男爵の箱がそれだと言っている訳ではありません……」



「ですが、コマイ男爵はこの王都に入る時に僕達一行と顔を合わせているのです……『もしも』ですが……『ザムド伯爵を陥れるために』何方かが奪ったとすれば……と、思ったのです」



「その際に僕の用意した『ハズレ』と、自分達で用意した『秘薬入りの黒箱』を間抜けにも取り違えたとすれば……中身が『それ』だった可能性も……」



「ですので……御二方が秘薬を手に入れたと言っている以上、王様とすれば結果的に秘薬は手に入る事になるので、コッズ伯爵様とコマイ男爵様には『後日提出』でも宜しいかと……もし『秘薬』を本当に持っているのであればですが……」



「もし可能でありましたら、数日中に再提出の為の謁見を用意されて宜しいのでは無いかと……」



 これで、どちらかが保身の為に相方を裏切ったならば片方から真相が漏れる。


 そして秘薬を持っているのが前提だから、王に提出する迄は結果逃げられない……ついでに期間は短めだ!

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