第329話「見事に引っかかる悪辣貴族とザムド伯爵の意地悪」

こうやって得点稼ぎをするのだな……貴族は……と思うと、1人の貴族を伴い王に前に歩み出て『黒箱』を掲げる。



「王様!これはつまらない物ですが……シリウス様のお助けになればとご用意致しました。この中身で『シリウス』様も助かりましょう!」



「ヤクタ討伐は我々連合討伐隊にお任せを!我が友チック男爵と共に兵を出す故必ずヤクタを捕らえて見せましょう!既に我が暗部が帝国領に潜入しております故、ご安心を!」


 そう紹介されたチックと言う男は爵位持ちだったらしく、持たされていた黒箱をターブ伯爵の指示で王様の近くまで持っていく。


 チック男爵は黒箱を廷臣の1人に渡すと、ターブ伯爵と呼ばれる貴族の横に跪く。



「そうか!ターブでかしたぞ……行動が早いな。それでこの黒箱はなんだ?シリウスが助かる方法は『秘薬』以外は無いぞ?ドクリンゴ女公爵の作っていた薬は、真っ赤な偽物だと結論は出たからな!」



「はい!その『秘薬』で御座います……我がルートフ家が管理するダンジョンでは残念ですが手に入れる事はできませんでしたが……手に入れる手段は『ダンジョン』だけでは御座いません!オークションも一つの手段にて御座います!」



「オークションに出ていた……と、ある筋から手に入れた物ですが、効果は間違いはございませぬ!しかと中身も確認した故『コッズ伯爵』の様な無様な事はございません!」



「これは開催されていたオークションに出回っていたものでございます。偶然手に入れられたのですが鑑定結果も『間違いなく』秘薬でございます。金額は当然莫大な物になりましたが、我々の共同資産にて支払い手に入れました!」



 そう言って廷臣が掲げる『黒箱』を指さすターブ伯爵。


 初めて見る貴族だけに僕は、意外と秘薬を手に入れる方法あるんだな程度にしか考えてなかった。



「でかしたぞ!ターブ。箱を此方へ!」


 王はそう言って箱を持って来させるが、既に『シリウス様』は回復しているので何かあった時の予備だろうか?


 そう思っていると、ザムド伯爵はニタニタし始める。


 僕にしか聞こえない声量で……




『多分あれだ……箱の底面に傷を入れてあるからな……面白い事になるぞ』



 もうビックリするしかない……伯爵は自分で仕組んだ罠に目印を入れていた……自然に出来た傷を装った物で底面にバッテン傷が入っている……。


 輸送の際傷ついたと見える目印だった。


 僕も今の状況を整理して小声でザムド伯爵に話す。



『ですがズルいですね……あのターブ伯爵は『万が一』を考えて保険かけましたね……』



『保険とな?それはなんだ?』



『出兵ですよ!あれで王様には貸しが1つです……勘違いして箱を献上したのでしょうが……結果的には王の為にヤクタ討伐隊を編成した形になります』



『最低限評価はせねばならんですよ……アレがなければなぁ……』




 そう話していると、王様は黒箱を白箱に変えてターブ伯爵へ王家の紋章入り銀トレーと共にマジックバックを渡す。


 ターブは先程のやり取りを見ているので、マジックバックへ手を入れずに言葉でだそうとする。



「王の為の秘薬を此処へ!!」



「秘薬よ!」



「秘薬よ!!」


 叫べども出ないマジックバッグ当然中身は『馬のフン』だ……出るはずも無い……。



 僕とザムド伯爵を睨むターブ伯爵と、非常に青褪めていくチック男爵。



 2人とも意味がわかった様だ『ハズレ箱』だと………


 そこでザムド伯爵がけしかける



「どうなさったので?ターブ伯爵……秘薬は?その箱はもしやすれば、『ヤクタ討伐隊』に向かわせる予定だったあなたの兵が探す予定の私の『偽箱』ではないですかな?」



 ナイス切り返しだ!まさかの方法で路線変更させたザムド伯爵。


 それが偽箱と言ってしまえばなんて事はない。


 王様には既に本物を渡してあるのだ、欺く為の出兵だからすぐに取り消せる。


 そして、『偽箱』とわかれば、ターブ伯爵の『出兵も無くなる』のだ。



「王の箱を奪取せんとしたのであれば残念だな……中に手を入れんのか?さぁ探してみるがいい!」



「陛下、勝手な発言をして申し訳ありません。彼等が持ち込んだ箱は『我が黒箱』の可能性が有ります。当然中身はこの冒険者が用意したものと同じで御座います」



「彼等が『奪取』を認めぬのならば彼等には『中を探してもらう』他ありますまい……」




「ターブ伯爵!チック男爵如何なのじゃ?それは『奪取』したものか?それとも『オークション』で得たものか?この場でハッキリせよ!」



「言えぬのであれば、手を入れて確認せよ!王命だ!!」



 しかし先程の貴族たちとは違い、チック男爵は呆気なく罪を認める……ターブ伯爵はそれを止める暇さえなかった。



「このチック罪を認め自白いたします!何卒!何卒!所領没収だけは……何卒!!我が所領は王国の胃袋と自負しております!この度の謀略は、我が治める自領を増やしもっと王国へ食料を届け、そして我が美食を得る為でございます!」



「ザムド伯爵には恨みなどありませんし、所持する所領に興味はありません!岩など食べれませんし、宝石とて食べれません。我にとっては畑を耕せる所領を増やしたいのです!」



「この国の自給率を陛下はご存知ですか?民が飢えない国を作ることが幸せでは無いでしょうか!私はより美味いもの作り食べる事に生涯を捧げております!その為には手段を選ぶつもりはありません!」



「姫の『秘薬』を奪取した罪は受けます故!領土の没収だけは!何卒!何卒!貴族の爵位などで良ければお返しいたします故!生産拠点だけは何卒!」




 さらっと欲望を織り交ぜるあたり……遠慮がないが憎めない存在だと思った。


 どれだけ食べ物に執着しているのか……僕が思っていると同じように王様も思ったようだ。



「其方は……悪気が無いのかそれとも悪いと思ってなお言っているのか……甚だ理解に苦しむが、罪を認めるのだな?では、詳細をこの場にて全て白状せよ!ターブ伯と共に何をしたのか包み隠さずに言うのだ!」



「私は命じられるまま動いただけに御座います!黒手会と言う暗殺集団と手を組んで『夢魔の魔香』と言うマジックアイテムを手に入れて実行した迄は把握しております」



「実行犯は我が私兵で御座います。『夢魔の魔香』の効果は指定範囲の生き物全てを昏睡にすることがききる効果であります。」


「それを使い騎士達を眠らせてから奪いましたが、他の持ち物には一切手をつけていません!気になる食材があったので味見をしてみたいとは思いましたが、手はつけていません!」


「全ては、秘薬を提出した時の褒美で生産拠点を増やしたいが為に行った事であります!王都の食糧事情を知ってこその悪事に御座います!これから冬を迎えます……今のうちに備蓄と翌天の畑の準備をせねばならぬのです!」



「周りの貴族共は食が何かも知りませぬ!放っておけば実るものでは無いのです!!陛下!!」



「馬鹿な事を申すで無い!何故いつもそうなのだ!お前はそうも飯如きで簡単になぜ裏切れるのだ!黒手……か…い……ぐぅ?……がは!………ぐあああああああ……ぐガ……グゲゲ……ゴゲ」



 チック男爵が洗いざらい話すと、突然苦しみ出すターブ伯爵。



 目の前で皮膚が変色し始め、慌てて僕は感知を使うと彼の人間を示す表示が『敵性表示』に変化していく。



「騎士団の皆さん!陛下と王妃を!」


 僕はすぐさま叫んでザムド伯爵とウィンディア男爵を遠ざける。



 いつものようにクロークから武器を出そうにも、それができ無い。


 残念ながら僕はクロークを装備していないのだ。


 王との謁見の最初の休憩時に、脱いでから他の荷物と倉庫に収めて来たのだ。

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