第323話「兵士の自白とドクリンゴの反撃」


 そう思っていると兵士が話し出す。


「私は15階層で樹皮ムカデの唾液毒を採取する様に言われた、ドクリンゴ女公爵様の私兵部隊でございます。……まさか皇女様暗殺に使用する物とは思いもせず……」


「経緯について自白いたします故、何卒家族だけは……家族だけはお目溢しを………」



 兵士はその場で跪き、家族の許しを乞うと……王も口を開く。



「事の次第にもよる……確約は出来ぬが全て包み隠さず申すが良い!お前の家族については、なるべくだが善処する!」



 その言葉を聞いた兵士は口から弱々しく声を出そうと試みる……


 兵士の男はなんとか自分の思いを声に出して、今までの事実を話して家族だけは救おうと、必死さが伝わってくる。



「我々は先日まで、この城の地下にあるダンジョンにて『樹皮ムカデの唾液毒』を採取して参りました。時には仲間がほぼ壊滅する事もありましたが、決して王への反逆ではありません……我が家族を守る為でございました」



「ある時、15階層の通り道に巨大蜘蛛の巣が張られた為に、その事をドクリンゴ女公爵様に申し上げたら『邪魔なら燃やせ』と……それで我々はその巣に火を放ちました……ですが其処は通常の蜘蛛による巣などでは無かったのです……」



「その結果、私以外は全員……複数の兵士は一瞬で粉々になりました。そして巣を焼き払った事で、此処にいらっしゃるアラーネア様の怒りを買う事となってしまいました……アラーネア様は現時点では少女の格好ですが……元は大型の蜘蛛の魔物で御座います」



「我々は樹皮ムカデの唾液毒を集めるために地下のダンジョンに行きましたが、決してこの様な王族への事件に加担するためでは御座いませんでした!全てドクリンゴ女公爵様の指示の元で、魔物の採集や特殊素材採取の為で御座います!」



「他の仲間は第一層で魔物を生きたまま捕獲していました……私も最初はそこで捕獲する任に当たって居ましたので、現時点でも生捕は行われております……夕刻には1〜3匹の魔物を生捕にして裏薬剤室へ連れて行くはずです」



「もし我々が集めたそれが、本当に第一皇女の命を脅かす事に使われたので有れば……我が命にて償いをさせていただきます故!何卒!家族だけは!何卒!」


 その言葉を大人しく聴いたドクリンゴ女公爵は


「先程から黙って聴いておれば……わたくしが首謀者との口ぶりを……あの少年の魔道具とて声真似でしかないではないですか!」


「声が似た者を探し出しただけではありませぬか!それを魔道具に収めただけで御座いましょう!」


「兄上……いえ王様!わたくしは皆の者が何と言おうと、幾度と無く王の見方をした事をお忘れですか?」


「それに貴様……よもや我が私兵と嘯くとは!……どうせ、金目当てのそこの坊主と同じだろう!結託して、わたしの立場を危うくしたいのだな?」


「どうせザムド伯爵か、ウィンディア男爵の差金だろう?わたくしのした王妃の輿入れ反対を、未だに根に持って居るだけであろう!」


「王様!!身内のわたくしを疑うなら、まず向こう側を疑うべきでしょう!?皇女様を陥れて何になりましょう?」



「わたしには兄が2人おるのですよ?暗殺の様な口ぶりでしたが、上手くいくはずがないでしょう!?」



「あと貴様は、そもそも私の私兵と言いおったよな?わたくしは貴様の事など見た事もないぞ!?誰の部下か言ってみよ!さすれば今すぐに執事に兵士名簿を持ってこさせよう!王の御前で直に確認して頂こうではないか!」



 どうやらドクリンゴ女公爵はこの様なことがあってもいい様に、二重帳簿のような物を多岐に渡り作っているようだ。


 王は妹であるドクリンゴ女公爵の言葉を静かに聞くと、生捕が行われている現状が続いているのか再度確認する……



「確かに今でも生捕は行われているのだな?ならばそこの騎士達と兵士達よ二手に分かれて任務にあたれ!片方は王宮地下層の任務にあたれ!出て来たドクリンゴ女公爵の私兵は全員捕縛せよ!」



「もう片方は直ちに裏薬剤室と呼ばれる場所へ行き、証拠の物と働く者全てを捕縛せよ!裏薬剤師は複数有るやもしれん!薬師全員を締め上げ、その場所全て吐かせよ!」



 王は騎士達へそう申しつけると、目の前の兵士に申し伝える。



「其方の言い分は分かった……其方の勇気に免じて家族は、事件の関与を聞いた後放免その後は王都より退去とする。お主は我が娘達を傷付けた罪で、投獄の後斬首とするが遺体は丁重に葬ることを約束しよう!」



 王が兵士の家族のついて安全を保証すると、兵士はその場にへたり込む……家族だけは守れたと安心して力が入らなくなった様だ。


 しかし、アラーネアから待ったがかかる………



「国王よ暫し待つのじゃ!どうせ殺すなら其方の面子等より、我が屋敷の罪を償わせる方が優先じゃろう?この王国など妾が少し力を奮ったならば3刻で国中火の海じゃ!妾を甘く見るなよ?国王陛下殿?……うん?」



「今妾の家を破壊した関係者は、そこの指示を下した女とこの兵士なのじゃぞ?ならばコイツは妾の晩飯じゃ!異論などはさせぬ!異論があるなら騎士団を持って妾を排して見せよ?国王よ!」



 そう言うと、アラーネアは靴を脱ぎ片手で持ち脚を合わせると、膝から下の容積がみるみると膨れ上がり『巨大蜘蛛』の形になる。


 俗に言う『アラクネ』と言う魔物だ。


 アラクネの個体を彼女以外見た事がないが、まず間違いないだろう。


 鑑定をしてみたいが、彼女の不興を買えば僕の命はない。



 周りにいた貴族は慌てふためき、エクシアとロズそれとテイラーは、すぐ様ザムド伯爵とウィンディア男爵のカバーに回る。


 アラーネアはドクリンゴ女公爵を糸で絡めて、首だけ出た繭状にする。



「国王陛下よ……この女は聴いたところ、お主の家族である上に家族を傷付けた張本人であるが故、其方に譲る事は条件次第ではしてやろう……其方の好きに裁けよう?」


「そうじゃな……うーむ………妾がこの王国の街を『人型で歩く許可』と、物を買う許可……それと王宮の地下にあるダンジョンへの門を使い、妾の自宅に帰る事を許されよ!……当然他言は無しじゃ!色々と周りに怖れられれば妾が面倒じゃからな!」



「ついでに……そこの少年が生きている間は、妾はこの王国に危害は加えぬ。妾とすれば、つまらぬお前らよりもその少年の方が遥かに楽しめる存在だ……妾を全く恐れぬからな!!……それにこの国の人間を飯として食うのは、我が屋敷を害したこの者だけとしよう」



「但し当然じゃが……妾を排そうとすれば、その限りではないぞ?どうじゃ?破格であろう?」



「すでに分かっているとは思うが……妾ならば勝手に出歩く事も出来て、街で暴れ回る事もできるが……わざわざ『しない』と言ってやっておるのじゃ!その上、罪人まで引き渡すと言っておる……」



「因みにじゃがな……この女は妾に喧嘩を吹っかけた。なんの危害も加えてないのにじゃ!!それも長い間をかけて妾の糸で作った屋敷を破壊したのじゃ!」



「ならば……妾もこの王国を破壊する権利はあるのじゃぞ?やられたらやり返すのが『戦争』じゃからな?人間がよくやる事じゃ!意味はわかるじゃろう?」



「国王陛下!!お主の国民は、既に魔物に喧嘩を売ったのじゃ……本来会話などなく、どちらかの殲滅が有るだけじゃ!」



「この者が何処の誰かなど、妾には関係ない。家が貴族だろうと王族だろうと関係はない……『人間』が突然破壊活動に来たのじゃ!妾の元へな?ならば妾とて家も国も関係など無い……理由は人間だからと等しく排除するだけじゃ……」



「いかが致す?国王陛下殿……呑むか反るか……如何に?」



 王は頭を抱えて考える……魔物の条件など飲めば王として威厳を失う可能性はデカい………


 だからと言って、条件を突っぱねれば間違いなく3刻待たずに王国は滅ぶ。


 何故か兵士と僕をチラチラと見る王様……


 意味を悟った兵士は発言許可を取らずに話し出す。



「国王陛下!我は既に罪人であります!家族だけお目溢しいただければ!この命など惜しくは有りませぬ!そもそも王族へ弓引く気など毛頭有りませぬ!」



「我が王族の私兵になったのは、家族の安定した生活が見込める為と我が名声の為で有ります!この様な結果になり残念では有りますが……最後は王族のために……王国のためになれば……構いませぬ!!」



 兵士がそう言った途端アラーネアは彼を繭状にして天井に放り上げる。



「この者が認めたので、此方は『決まり』じゃな?国王陛下……よかったの?国が火の海にならず……それでもう片方の許可は?如何致す?」



 アラーネアは何がしたいのか……王様を追い詰める……僕を見ながらニタニタと笑うが、それに釣られて王も僕を見る。




「はぁ…………もし僕で良ければ、アラーネアさんのお目付役にはなりますよ……でも、外に出る時は『僕が王国にいる時』に限らせてください……あれこれ王都に呼ばれれば何も出来なくなりますから!!それだけは守ってくださいね国王陛下とアラーネアさん!!」



 それを聞いた悪辣貴族は口々に不平不満を口にする。



「何も出来ないのに……ぶつぶつとやかましい貴族共じゃな……!!」



 そう言ってアラーネアは、目にも留まらぬ速さで悪辣貴族に近寄ると、あっという間に数人を繭玉に変えて天井に貼り付ける。



「暫く其処で反省するが良い……『国王陛下』殿が情けで助けてくれる迄な?……良いか?妾にとってお前らなど餌以下だ。」


「此奴と共にいた仲間同様、妾がダンジョンで育てている畑の肥料以外は、お前達の用途はないのじゃ!よく覚えておくがいい!」



 繭玉の中の貴族達には、その声が聞こえているのか僕は不思議だった……。

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