第324話「王宮地下は危険がいっぱい?アラーネアの忠告」
折角纏まりかけた所だったが、悪辣貴族の馬鹿さ加減に王は繭玉になったその様を見て言葉を失う……
「く……仕方あるまい……だが国民に危害を加えないのは本当であろうな?」
「大丈夫じゃ。妾とて暇じゃ無いのじゃ!」
「それはそうと……国王陛下よ。時にはお主の足元のダンジョンの清掃もせねば『スタンピード』するぞ?妾が下層域は少し減らしてやっているがな……ちゃんと主等も上層の個体を減らさねば深化していき、益々手が付けられぬ様になるぞ?」
「ぬぬ……どう言う事だ?魔物が我々の心配だと?」
アラーネアは、今までの会話とは正反対のことを話している……
国を破壊すると脅してみたかと思うと、今度はスタンピードの心配だ……さっきは僕をみてニヤニヤしている事といい、絶対に何かある。
「妾は余り口出しは好まんのじゃ!じゃがな……余りにもお主等は杜撰すぎじゃろう……だから、ちょっとした助言じゃよ。迷宮には『迷宮深化条件』が存在するのじゃ。お主の王の世代には引き継がれなんだのは残念よのう?」
「まぁ折角じゃ……妾が教えてやろう!特定の魔物がある一定数繁殖すると、ダンジョンにその群れに関する階層が出来上がる。ちなみにその階層は最下層に出来るのじゃ!」
「例えを言うならば……5層のオーク共が大繁殖した場合、特定数に達すると本来は『オークキング』が誕生するのじゃがな……ダンジョンは下層に変化が起きる」
「新たな群れの階層が出来るのじゃ……当然最下層に合わせた魔物の群れになるので、上層域より遥かに強い個体が群れでいる事になる訳じゃな!」
「そして『迷宮深化条件』の必要個体数が更新されるのじゃ……それを繰り返すことでダンジョンは深くなり、より危険な場所になるのじゃ!」
「そして階層が『同時に条件を満たした場合』深層に新しい個体の階層が出来上がる上に、魔物がスタンピードを起こすのじゃ!」
「………」
アラーネアの発言に流石に変と思ったのだろう……王は黙り込んでアラーネアが言うままに其れを聞いている。
「それにな……『固有個体発生討伐率』もあるのじゃ!これはな逆に特定の魔物を倒し続けると『自然発生で増える』魔物じゃ……その階層の何処に出るか判らぬが……より強固で危険な奴じゃ……」
「アラーネアと申したな……魔物である其方が、何故そんな情報を敵とも言える『人族』へ齎す?其方には何が得なのだ?どう考えても解んのだがな?」
「決まっておろう?この国がなくなったら『少年』が来なくなる上、妾は『人型』でこの国を遊び歩けなくなるでは無いか?国王と言えども……案外馬鹿なんじゃな?妾にとって一番得なことじゃて!」
「知らぬなら教えてやろう!良いか?この者が持っている『食事』の類はダンジョンでは味わえぬ程『美味』なのじゃ!『焼きオニギリ』に『ミソシル』……妾はそれが食べれなくなるのは嫌なのじゃ!」
まさかの話だ。
アラーネアの話で、鑑定結果で出る魔物鑑定の謎データがわかった。
だが、教えた理由は『食欲』からくる物だった。
エクシアがそれを聞いて大爆笑をする。
「ははははははははは!!お前……また『魔物』に話しかけて飯をやったのか?魔物を見つけると餌付けするその癖を治せよな!やることが大概おかしいんだよアンタは!」
「まぁ、美食レシピが無くなるのはアタイも嫌だ。この国が無くなれば食材調達も大変だからな……その点は大賛成だな!」
大爆笑をしたエクシアに、アラーネアはビックリした顔をする。
「ほう?お前は話がわかるな!そうなのじゃ!魔物の妾に普通に話しかけてくるわ……『ミソシル飲みますか?』などと人間に言われたのは初めてじゃ!誠に笑うしかなかったわ……あの時は……人族の飯など3000天ぶりじゃったからな!」
「それもじゃ……この者はダンジョンの15階層へ続く吹き抜けに、ドクリンゴ女公爵とか言う奴に手先に落とされて来たんじゃが、蜘蛛の巣が嫌いと言う理由だけで我が屋敷を凍結させおったんだ!」
「バラバラにしてやろうと思ったんじゃがな……よく見ると目の前にスライムが居てな……ビックリするくらい此奴に懐いとるんじゃ。テイマーとしては使役方法が普通と違うのでな……珍しいと思ってな!話しかけて見たんじゃが……」
「まぁそこからの話は端折るが……此奴は良い奴じゃ。妾の目前で此奴に危害を及ぼす奴が居たならば『魔王種』とて生きていられると思わんほうがいいな。それ程に食事の恨みは怖いからな!!それが久々の美食となれば尚のことじゃ!」
不自然な情報提供の理由を一気に説明したアラーネアは、満足したとばかりに天井に貼り付けた兵士の繭玉に再度糸を絡ませる。
そのあと強引に天井から引き剥がし抱え込む。
代わりに、ドクリンゴ女公爵の首だけ出た繭玉を放り投げて天井に貼り付ける。
「お主がこの少年を吹き抜けから落としたのじゃったな?高い場所は怖いとこの者が言っておったからな……お主も味わうといい。まぁ……所詮この程度の天井だから此奴が味わった落下なんぞ比べ物にはなるまいがな……」
「陛下よ……主の求めた黒幕は天井にくっつけておくぞ?あれでそう簡単には逃げられはしまい……無理に逃げれば落下で死ぬからな。」
「それで……先程からダンマリじゃが?否定されぬと言うことならば、妾の条件は呑むで良いのじゃな?その要件が済めば妾はもうダンジョンへ帰るぞ?」
黒幕のドクリンゴ女公爵を放り投げてから、国王に条件を呑むような若干強要が入っているが国王の騎士達には敵うわけがない。
その上彼女の住処はこの王宮の真下だ……上手く付き合わなければならないお隣さん以外の何者でも無い。
アラーネアはクレーマーなわけでも無い上、問題児を派遣したのは王宮側だ。
それを把握した国王は、結果的に呑むしかない条件と理解する。
「うむ……我が国民に危害を加えないのが条件ならばな……呑むしかあるまい。我々では抑えることなどできない案件だ。騎士団総出でも敵うまい……。唯一其方に無理を言えるとすれば……其処のヒロだけだろうしな」
魔物のアラーネアとの話に妥協点を見出したのか、それともこれ以上酷い条件を呑まないためか……王は国の中でアラーネアが人型で歩く事を了承する。
それに満足したのか、アラーネアは上機嫌なようだ。
「さて、用事も済んだからの……妾は此奴を持って巣に戻るかの……意外と面倒じゃな!」
そう言って抱えた繭玉を放り出して、破ると直ぐに蹴飛ばし兵士を立たせる。
「自分で歩け!餌風情を妾が持つ必要もない……ふん!」
そう言ってアラーネアは人型に戻ると、何食わぬ顔で破壊した玉座の広間の入り口から出て行く。
兵士は僕が貸していた武器を返して来て、
「ありがとう御座います。この武器で最後に冒険者として戦えました!では……お元気で!」
そう言ってアラーネアの後ろを追いかける。
「ありゃ、食う気なんかないね……結局ドクリンゴ女公爵の絡みであのアラーネアって言う魔物は、アンタとあの兵士を手に入れた訳だ……」
「それにしても……あの魔物一体何に使う気なんだ?あの兵士を……そっちが気になるよあたいは……」
エクシアのそのセリフに僕は、アラーネアの話し相手の事を思い出していた……
ここで無駄に死ぬならば、生涯ダンジョンで過ごすのもある意味悪くはない……家族は命を奪われず王都から追放になる訳だし、彼自身の目的は果たした。
更にいつに間にか考えていた、アラーネアの妙案で運良く拾った命だ……ダンジョンで念願の冒険者ごっこが出来るのであれば、その冒険ごっこの末に死んでも本望だろう。
彼がダンジョンの巣に居る間、アラーネアも暫くは話し相手が手に入る……彼には『魔物耐性』の特性が付いていた、会話程度の問題はないだろう。
お互い話も冒険もできるだろう……アラーネアがダンジョン下層で使うことのない武器は集めて居るだろうし、装備面であれば王都の同僚よりは遥かに優秀な装備だ。
しかし彼はいつに間にアラーネアとそんな契約をしたのだろうか………
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