第322話「録音された証拠と訪れる証言者」
僕はスマートフォンの音量を最大にした後、録音したものを再生する。
「♪〜♬〜♫〜♪〜♬〜♫〜♬〜♫〜♪〜♬〜」
「ふもうごかいにそむいて〜」
「まちいくさきはじごくか〜」
「あかいつき〜がそっと!さ!さ!や〜くー」
反対を向けた拍子に音楽再生をしてしまい、爆音で僕が大好きな音楽が流れる………
僕は慌てて音楽を止めようとするが、別の曲がかかってしまう。
ランダム再生の次曲ボタンだ。
「あ!あ!!す……すいません……間違えて音楽流してしまいました………」
僕の説明を聞いて、大笑いするエクシア……
「お……おま……ここまでの雰囲気作って音楽って……でも今のは結構すごかったな!アンタの村で吟遊詩人はそんな風にリュートを弾くのか……今の後で聞かせろよ?」
……エクシアは気に入った様だが、今までの空気は台無しだ。
「ちゃんと再生させてから向けますね!」
僕はそう一言述べてから、ボイスメモのアプリから再生ボタンを押す。
すると途端に玉座の広間が騒がしくなる……声の主は現在玉座の広間でよく聞く声だからだ……
ざわめく周りを黙らせる王様……
「声の主などもう解っただろう!皆の者内容が聴こえぬぞ!黙らんか!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まだ意識があるのね!流石アレックスが見込んだ冒険者ね……でも安心なさい……どうせ意識があろうとなかろうと、お前はもう地上へは絶対に戻れないからね!」
「冥土の土産に教えてあげるわ!この犯人を使いに出したのは私よ?」
「トンネルアントフェロモンを染み込ませた装備が、全て無駄になったじゃ無い!あのまま平原に放置すれば、実行犯含めてカノープスも纏めて全員一緒に蟻の餌だったのに!全く……こっちの計画を潰してくれて……目障りにも程がある!」
「シリウスにずっと飲ませていた、邪血も無駄にして……折角もう少しで魔結症も最終段階に入り、全身魔硝石化で御陀仏だったのに!ムカつくわ!コイツ!」
「魔物を生捕にする苦労が水の泡じゃ無い!!」
「まぁ良いわ……手段は別にあるから……アンタが見つけてきて飲ませた『秘薬』を利用させて貰うわ!一時的に治ったシリウスは『アンタが瓶に仕込んだ毒薬』で死ぬことになった……って言う筋書きよ!」
「王が自ら飲ませたんだから、願ったり叶ったりよ!どうせ後で毒を飲ませても『死人に口なし』ですからね、貴方はダンジョンで魔物の餌、そしてシリウスは毒であの世行き!カノープスは葬儀で不慮の事故に遭って谷底に!」
「後は迷惑なあの第6継承権のクソ兄を始末すれば終わりよ!それで私の王政が始まる!あのバカ兄にはまたダンジョンへ向かわせてそこで始末でいいわね」
「折角なので『秘薬』探しに行ってもらおうかしら?貴方の見つけた『トレンチのダンジョン』にでもね!」
「コイツは地下の迷宮へ放り込んできなさい!良い?今度はヘマすることのない様に充分気をつけなさい!荷物も全て放り込むのよ!?下手な欲だして証拠が出たらお終いなんだから!」
「今度ヘマしたら、お前の家族を全員切り刻んで間の森に遺棄するからね!そうすれば大切な家族は全員仲良く魔物堕ちよ!そうしたくなければ……貴方は良く覚えてらっしゃい!」
「いい?良く聞きなさい!入り口に放置じゃ無いわよ?柵を外して縦穴から放り込むのよ?そうすれば地面に叩きつけられて間違いなく死ぬわ!」
「この王宮の地下にあるダンジョンの縦穴は騎士団の話では第15層までの吹き抜けよ……飛行系魔物が出ないように柵がしてあるから、これがその鍵よ!決して見られてはいけないわ!」
「巡回は既に私の手のもの達がやっているから問題はないけど、『王宮』の中で目につくのは不味いの!だからこのワゴンを用意したわ」
「ここにコイツを寝かせて上から布を被せて持っていきなさい。これですれ違う奴らは何とかなるはずよ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕はドクリンゴ女公爵の会話が終わったところで終了ボタンを押す。
アプリで集音したスマホの説明をするよりも早く、王様はドクリンゴ女公爵への質問を開始してくれた。
お陰でで、このスマホの説明はダンジョン由来の魔道具で終われそうだ。
「どう言うことだ……妹よ……実の叔母が我が娘達の命を脅かしていたとは………」
「それに……邪血だと?あの液体は『治療薬』と言っていたではないか!……お前が莫大な給金で雇った薬師達に作らせていたのは『毒』だと申すか!!」
「騎士達よ!今すぐドクリンゴ女公爵配下の薬師全員を地下牢へ幽閉し、直ちに真実を語らせよ!」
王はそう言うと、部屋に待機していた騎士達が勢い良く扉を開けて部屋から出ていく。
「まだ終わりではないな……其方は『悪虐非道をする者の罠に嵌められた』と言ったな……一体何があったのだ?すぐに申せ!」
王が僕にそう言うと同時に、玉座の広間の扉が激しく破壊される。
「あれ?壊れてしもうた……軽く押したんじゃがな……壊れておったのか?まさか妾が壊した訳では………あるまいな!?」
「いや……アラーネアさん……その扉は『引扉』で『押扉』じゃないですよ……」
王の間に踏み込んで来たのは当然アラーネアと側で話をしているのは兵士の男だ。
「すまぬな……取り込み中に。妾も混ぜておくれ?これでも一応は妾も被害者であるからな!」
「それで?この妾の家を燃やせと指示を出したのは……お主か?この国の王よ!?」
物凄い威圧がアラーネアから発せられる。
凄い音を立てて玉座の広間のドアを破壊されたために、兵士と騎士団が山の様に押し掛けるが、アラーネアの威圧にびびって部屋に入って来れなくなる。
「ちょっと!辞めてください!!アラーネアさん違いますって!私の主人はあそこの女主人で、ドクリンゴ女公爵と申します……王様はこの国を治める聖君と言うか……領民思いのいい人なので駄目ですって!」
かなりの間蜘蛛の巣で恐怖に晒されていたため、彼はすでにアラーネアの威圧は克服していた。
ダンジョンで一緒に行動中、彼の簡易ステータスに現れた『魔物への耐性(強)』が消える事なく常に表示されているのは、この効果なのだろう……アラーネアの側にいたことで、彼は新しい『特性』を得たらしい。
確かに地下階層では、生きたまま食べられないかを只ひたすら心配していただけだったのだ……一緒に行動して話しかけるなど、大きな進歩だステータスに変化が出てもおかしくは無い。
「アラーネアさん此処は私に任せて下さいよ……言いたい事が有れば、その後で追加して言ってください!」
そう言って兵士は話を続ける。
「国王陛下!発言の許可を頂けますでしょうか!私はドクリンゴ女公爵様の私兵であります」
「う?……うむ!許可する……」
若干だが王もびびっている様だ……たしかに凄まじい威圧だったので、何をしでかすのか僕も若干焦った。
でも威圧で言うならば、水精霊のダンジョンに居た穢れた存在の威圧の方が本当にヤバかった……。
この世界の桁外れの危険生物で、それも寄生した様な魔物は初見だったからこそ印象深い記憶とは思うが……。
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