第321話「謁見時間に遅刻……最終手段を使うしか無い僕」


「火の16刻の時間に来れないなど……」



 ドクリンゴ女公爵がこれ見よがしに講釈を垂れている時に、玉座の広間の外が俄かに騒がしくなる………理由は『僕』だ。



 ここまでの僕の状況を説明すると……


 僕は転移陣を使わずに『ユニークスキル』を使用して『応接間』に直接入ってきた。


 王都のダンジョン地下10層で既に遅れている為に『最終手段』を使った。



 エクシアとロズが凄く慌てていたが今はそれどころじゃ無い……色々下準備をやらねばならないからだ。



 この最終手段を使った経緯はというと………



 ドクリンゴ女公爵の私兵は、転移陣を使って転移先を確認に行った……


 行き先は第1層のゲートらしいのだが、彼1人を行かせるのはそのまま逃げられる危険があった……だが彼は、裏切らずにすぐに戻ってきた。



 『この先は既に手が回っていて、兵士が周辺を警備していた』……と言うのだ。



 ご苦労な事に、僕が何か特殊な事をして生きて帰ってきたら、再度『穴蔵に放り込め』とその兵達はドクリンゴ女公爵に指示を受けていたらしい。


 彼はわざわざ、その事を伝えに戻ってきた。



 彼自身は仲間の警備兵に、皆の死でやっとの思いで手に入れた転移陣の往復起動の再チェックだ!と話したらしい。


 生き残りは自分だけだ……と話した所、仲間は『絶対に無事に帰ってこい』と言って送り出したそうだ……



 仲間の全てが壊滅したと言われれば、行きたくないのは当然だ。


 それに彼自身が……



『行き先は10層の階層主の部屋近くだ……仲間が全滅した場所で間違いなく危険が伴うがくるか?』



 などと聞いたらしい……誰も行きたがらないのは当然だ。


 その上、本当に複数のパーティーを細切れにして畑の肥料用に全滅させた『アラーネア』が此処に居るのだ……間違いなく危険なのは本当だ。



 僕は帰ってきた彼に、玉座の広間まで来る様に説得をした。



 彼と此処で離れれば間違いなく、ドクリンゴ女公爵の悪だくみの証人に逃げられる可能性がでかい。


 もし僕の願い通りに王に本当の事を話した場合は、彼自身は第一皇女に害を成した実行犯とされ、決して無事では済まない。



 しかし、これ以上遅くなれば悪辣貴族壊滅の手順に狂いが出るだろう……パーティーリーダーの僕が居ない為だ。



 入手したわけでは無いラビリンス・イーターのパーティーが王宮に呼ばれて居ない今、手に入れた時の状況を詳細に話せるのは僕くらいなのだ。



 説得して話している途中に『俺は自分の信念に従う……王の玉座まで行こう!』……と、彼が了承してくれた。



 僕は急いでユニークスキルを使い倉庫を出して中に入り、スライムとモンブランの為に作っていた『出口』から直接応接間へ戻ったのだ。



 この時点で王宮側の『出口』がなくなる……



 僕は続けて作業へ移る……応接間に倉庫の『入り口扉』を設置する……これでダンジョン側に一つと王宮の応接間に一つ入り口が出来た。



 そして応接間側出口を倉庫内部にまた作り、緊急用の応接間行きの予備扉を作る。



 万が一兵士が来なかった場合は、今度はアラーネアに無理を言う予定だ……



 彼女を使役させて貰い、一時的に王宮まで来て証言をして貰う……魔物の証言だが、彼女の実力を知れば誰も嘘だとは言えない。


 彼女が嘘をつく意味がまず無い……それに彼女を疑えば最後、この国は巨大蜘蛛アラーネアの怒りを買い、間違いなく滅ぶからだ……



 そうなれば彼女をダンジョンからここに連れてきた僕は、間違いなく『魔王』とか呼ばれるだろう。



 僕が止めたくても、使役しても彼女との実力差で辞めて!と言っても、間違いなく命令なんぞ聞くはずがないだろう。



 因みにうまく行った場合は、再度ダンジョンに戻ってお礼として異世界産の宝箱を、数個は探して歩く予定だ。


 それがあれば彼女は、快適なダンジョンライフを暫くは過ごせるだろう。



 そして僕の願いをアラーネアが断り難い理由もある。



 探しているエルフのアイテムの詳細を、宿泊中のエルフ族に情報を求める予定だ。


 運が良ければエルフの都にあるだろう。



 それを彼女が持っている秘薬と交換すれば、決して悪い交換では無いはずだ。


 山程持っていると言っていたので、何個かエルフに渡しても痛くなどない筈だ。



 そんなこんなで説明をせずに、エクシアとロズに手伝いを申し出る……



 僕が『ドクリンゴ女公爵にしてやられ……ダンジョンに放り込まれた!仕返ししてやる!』と言ったら、2人は笑って……『よし!やろう!』と二つ返事で返してきた。



「お待ちを!お待ちください!………既に謁見はなされています。謁見の時間に遅れるなどあり得ましょうか!」



「やかましい!お前の国の王族が舐めた真似したから、アタシが仕返しすんだよ邪魔してんじゃ無いよ!テメェも燃やすぞ!」


「仲間をダンジョンに放り込むとは……恩も返せないのか!この王宮ぶっ潰すぞ!?ああこのクソッタレが!」



 止める兵士を恫喝して押し通るエクシアとロズ。



「構わん!!!今すぐ入れよ!!!」



 王の一言はすごく威厳がこもっていた……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「其方が秘薬を得た冒険者か?何故『遅れた?』訳を今すぐ申せ!!!」



 王がそう尋ねると、ドクリンゴ女公爵も周りの悪辣貴族も慌ただしくなり、王に……



「直ちに謁見に遅れた事での『不敬罪』で投獄し罪を償わせるべきです!」



 などと口々に言うが……それを聞いた王が一喝する。



「黙れーーーーーーー!!!」



「余が話しておる!お前達に一言たりとも言葉を発する許可を出した覚えはないぞ!口を開くな全員黙っておれ!!」



 威圧が半端なかった……ロズがビックリして若干大人しくなってしまった。


 エクシアはニタニタしていた……これから楽しいことが起きそうだ!と思っているのだろう。


 そこで僕は少しスパイスを加えて話をでっち上げる。



「ヤクタ男爵と手を組んだ、悪虐非道をする者の罠に嵌められました!……ですが僕は無事生還し戻ってきました……悪虐の証拠と一緒に……これからこちらに1人の兵士が来ます。」



「その者も利用されてしまった1人ですが、その者の発言を聞いて下さい!陛下!」



「そしてそに者が来るまで、私が記録したとある『謀反』の発言を聞いて下さい!これが記録の魔道具です!」



 そう言って僕は『スマートフォン』をクロークから取り出す。


 ドクリンゴ女公爵が青褪め、王への進言をしようとするが、王に手で制され話す事を禁じられる。



「記録とな?どう言うものか示すが良い!許可する!」



「王様!危険です!何がなされるかなど万が一呪いの様な物であれば………」



「黙れと申したよな?ドクリンゴ……妹であっても許さぬぞ!」



 王が許可すると、すぐ様制止に走るドクリンゴ女公爵だったが、僕は先手を此処で打つ。



「王様!この記録を示す前にやらねばならぬ事があります!アレックス殿!すぐにシリウス様の容体を確かめてきて下さい!毒を盛られる可能性が御座います!」


「主治医を含めて全員をシリウス様の部屋に誰も入れない様に!そして中の警護もしてください!」



 僕がそう言うと、慌てて王が命じる。



「アレックス!何をしておる!すぐに行き安全を確認せよ!」


「ポラリス!其方はカノープスを伴いシリウスの部屋に行くのだ!急げ!!」



 王は横に座る青ざめている王妃に声をかけて、すぐに娘の元に向かわせる。



「分かりました!陛下!!!此処は頼みます……」



 一言そう言うと、既に泣きそうな顔で小走りに部屋に向かう。



 これで姫さん達の安全が図れた……これからが僕の仕返し開始だ……


 大嫌いな蜘蛛の巣に絡まった恨みを………存分に晴らさせて貰う!!


 覚悟しろ……ドクリンゴ女公爵!!!

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