第313話「3歩進んで3歩戻るのはやめて欲しい……」
結局僕のお願いで出発地点まで戻ってきた。
「いいか?お主がここから出るのには、落ちて来た穴から這い出るか、それとも転移陣を使って戻るかだ。」
「妾はお主達を護りながら、この吹き抜けを登るのは訳がないのだが、そこから出れば当然『おかしい』と誰でも気付くはずじゃ!」
「そこでじゃ!妾はお前達を連れてこの吹き抜けを使い10階層まで上がり、その階層主を倒したあと転移陣にて帰せば入ってきた冒険者が帰ってきた……と思うはずじゃろう?」
その説明を聴いた兵士は、恐れながらも声に出す。
「そ……そこの転移陣はもう使い物になりません……何度も我々は使って見たのですが、起動しないのです!」
それを聴いたアラーネアは、
「お主達はあの10階層の『階層主』を倒したのか?本当に?」
「アラーネアさん、僕はそこを通って居ませんが、質問の意味なら何となくわかります……『階層主』ではない魔物を倒して彼等私兵達は階層を『階段で降りて来た』と言いたいのですよね?」
僕はアラーネアの問いに兵士の代わりに答える。
「なかなか賢いの!あの階層には『偽物』の階層主がおるのじゃ……壁はうまく偽装しておりその奥にいる魔物こそが10階層の主じゃ……お前達兵士はそっちは倒しておるまい?」
アラーネアは階層移動をする前に、宝箱を自分の家となっている場所に置いてくる。
「アラーネアさん……そこに置くと消えたりしないのですかね?ダンジョンは何でも吸収すると聴いたので……」
「ふむ。その点は大丈夫じゃ。この場所は私の縄張りとして『家』を作っておるのでな!ダンジョンとて勝手に回収したりはせん……それよりもあの箱の中身の説明は何時してくれるのじゃ?」
アラーネアたっての願いで、簡潔に説明していく。
まず大蜘蛛の状態で使わない事を前提にした。
間違いなく壊れるからだが……
「……………(説明中略)…………という事です。このソーラーパネルと言うもので充電までは分かりましたね?太陽光を集めて充電するのですが……そう言えば出口があそこだけなんですっけ?」
「何を言っておるんじゃ?出口ならあそこだけではないぞ?既にこのダンジョンは50階層を超えておる出口なぞ1つの筈がなかろう……3000天前にあるのじゃ……それで50階層と言うのが奇跡でもあるのじゃがな……」
「妾が頑張っている証拠だぞ?……まぁそれは良いとして、出口から出て太陽にさらしてから、『接続』とやらをして『充電』とやらをすれば良いのじゃな?」
アラーネアは物覚えが良く、取説を説明するとあっという間に覚えて来れた。
「そうです!まぁ今は少しだけ充電が残っているので使えますよ!試してみては?」
ひとまず使い方を教える為に、蓄電されている分でドライヤーを使ってみて貰う。
開けてみたらクシが梱包されていたので、女性が使う美容系のドライヤーだった様だ。
「何と便利な!!これでくるくるすれば……髪も好きな形にできるのだな!夢の様なアイテムじゃ!まさに異世界のマジックアイテムじゃ!」
後僕は葉っぱの絵がたくさん書いてある缶入り茶葉を説明する。
味が違うが、密封されているので全部いっぺんに開けてしまうと良くない事だけ伝えて、茶器の使い方を説明しようとしたが説明書とにらめっこして既に知識は獲得済みだった。
絵で書いてあるので何となくわかった様だ。
「何と………こんな種類の茶があるのか。異世界はいいのぉ!ゆっくり飲んでから行きたいが……そうも行かぬな!お前達を無事送り届けたらゆっくり茶でも飲んで飴を頂こう……」
「この異世界の飴を600個も貰って本当に良いのか?貰いすぎじゃないかの?」
「そう思ったら、この地下に僕がまた来る事があったら色々手伝ってください!」
「ところで来た時にマジックアイテム探していると言いましたが……何のですか?もし箱から出たら取っておきますけど?」
「ふむ……では、その話は10層についてからにしようではないか……妾のせいで既に説明で時間をかけてしまったのでな……急いだ方がいいじゃろう……王との謁見とやらが終わった後にでもまた来てもいいからな?」
「今宵迄の間は10層に妾はいる事にするでの!時間が間に合わなかったらまた来るが良い!……その時に、昔話でも一緒にしてやろう………さぁ!では行くか!」
そう言った彼女は、説明もなく僕達を糸でぐるぐる巻にするので、若干パニックになる兵士は真横で煩かった。
しかし次の瞬間流石に僕もパニックになる……10層目掛けて勢い良く放り投げたからだ。
、てっきり反対側を使いロープの様に手繰り寄せると思ったが……投げる為の手持ちだったとは思いもしなかった。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
吹き抜けにこだまする僕達の絶叫………壁に衝突する前に10層に張ってある蜘蛛の巣にくっついて止まる。
「どうじゃ?早いじゃろう?なかなか妙案じゃと思わぬか?……この先に『偽門』があり階段がある。して、その奥に偽装された門があり、そこに目当ての魔物がおる!」
「問題は開けるまでは、何が出てくるかわからぬと言う事じゃ……」
そう言いながら、自分は悠々と糸の上を人型で歩いてくる……因みに靴は脱いで手で持っている。
理由は簡単で、靴が蜘蛛の糸にくっついてしまうからだ。
僕と兵士はひとまず巻かれた糸を切ってもらう。
「さぁ座ってないで向かうぞ?良いか?」
糸を登ってきたアラーネアは息一つ切らしてはいないが、楽して上がった僕達は呼吸が上がっていた。
「それみた事か……早よせんから向こうから雑魚が集まって来おった……」
アラーネアが指さす方から、赤い小さな点が無数に揺めきながら無数に集まってくる。
「ガルヂューー!ヂューー!!キー!!ヂューーギャギャギャ!ガルヂューー!」
「ギュア!キー!ヂューー!ガル!ガル!ギャギャギャ!ギュア!」
けたたましく、周りで同じように鳴き声をあげる何か……
その声を聴いた兵士は近くの瓦礫の中から武器になりそうなものを探す。
「くそが!こんなの無理だ!……幾らなんでも死んじまう……ラットマンの群れじゃ無いか!それも3………いや4グループは居やがる!」
僕はクロークから箪笥の肥やし状態の『+5モーニンスター』と『+1バックラー』を兵士に手渡す。
「な!これは修正付きの装備じゃ無いか!……くそう!死ぬ前にこんな良いもの使えて、ラッキーだったと思うしか無いか!」
「ちゃんと後で返してくださいね!『貸すだけ』ですからね!」
勝手に死ぬ気になっている彼には悪いが、死ぬ事などないだろう。
目の前にはラットマンと呼ばれる魔物以上の『魔物』が居るのだ……ここの数時間糸に巻かれては放り投げられた為に、彼女は『魔物』と言う事を忘れたのだろうか?
折角なので群れの数匹を抜き出して『鑑定』する……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。