第312話「牛の後は大トカゲ……ダンジョンは動物園?」


「では行ってきます!」


 僕は短く言うと部屋に飛び込んで即座に『アイスフィールド』を展開する。


 当然だが相手はリザードマンでありトカゲ種である以上『変温動物』だ……異世界で同じだったらだが……



「ギュワ!ギャッギャ!!」


「ギュイ!ギャワギャギャ!」



 僕を敵視しているのは判るが、数匹のリザードマンがジリジリ後ろに下がると、じきに寒さで動けなくなった。


 因みに今回は氷柱を降らせない。


 ミノタウロスと戦った時に学んだが、アイスフィールドはかなり広い効果範囲がある……しかしこの部屋が狭すぎて、此処では僕自身にも氷柱が当たるからだ。



 動きが鈍くなった為に『よし!』と思った僕は、クロークからフェムトのショートソードを引き抜き構えてから魔法詠唱をやめて走り出す。


 しかし判断は甘かった。


 『リザードマン』には効果的であったが、『リザードマン・ウォーリアー』はそれに耐えうる身体能力が備わっていた様だ。


 黒曜石の槍先を巧みに操り、僕を突き刺しに来る。



「マジか!しくじった……」



「じゃから言っておるであろう!!突っ込む前に魔法で何故射撃せん?撃てば状態異常にかかっているか判る事じゃろう?」



 そう言ってアラーネアは片手を大釜に変えて、黒曜石の槍を斬り払う。


 突然の様にリザードマンウォーリアーは後ろに飛び退くと、仲間の黒曜石の槍を拾い構えて様子を見始める……


 僕も先程まで外に居たはずのアラーネアが、横に居たのでかなり慌てたが、天井を見るとまたもや兵士の姿があったので状態はすぐに理解できた。




「ありがとうございます!助かりました……それと、すいません……蜥蜴なので『寒さ』に弱いかと……」



 僕は助けてくれたアラーネアにお礼と、折角のアドバイスを無駄にした事を謝ると、アラーネアは戦闘訓練とばかりに戦闘中なのに僕に向き直り悠長に説教を始める。



「それは合っておる!じゃがその後の行動に繋がっておらん!……と妾は言っておるのじゃ。」



「いま妾があの槍を斬り払わなかったら、お主とてかなりの怪我していたぞ!あの様な形状を見て、他愛も無い武器だと思っておると思わぬ大怪我をするのじゃ!」



「此処は奴等にとっては『デメリット』しか無い場所だと言ったよの?なのに、この体たらく……水が無い以上奴らの足にある水掻きは活用できん。突進力は無いのじゃ!」



「その上後ろの4匹はもう動けんじゃろう?陸に上がった魚の様なものじゃ!何故その最大の利点を安全に処理せんのじゃ?」



 言われてみればその通りだ。


 何故僕はあの大きなリザードマンと戦いに行ったのか……考えてみると判る……単純に試して見たかっただけだった。


 異世界のスリル的なものを。


 此処は『ゲームの世界』でも『夢の世界』でも無い現実だ……斬られれば血が出るし、当たりどころが悪ければ即死だ。


 その完全に舐めた僕の行動を、アラーネアは諫めてくれた。



「周りから倒せ……と言う事ですね?」



「死にに行くなら止めん。お主が死んだ後に、妾がアイツらを葬ったらお前の荷物から『美味いもの』を回収するまでだ。じゃがな……『生きて元の世界に帰るのが目的』ならばその様な博打は辞めるのじゃ!いいの!?」



「分かったら、さっさと倒してこい!お主には予定があり時間が無いのじゃろう?無駄に接近戦をする時間と意味が何処にあるんじゃ?全く!!」



 僕は寒さの為に動けなくなったリザードマンにウォーリアーバレットを叩き込むと、最後の1匹になったリザードマン・ウォーリアーに五発のウォーリアーバレットを撃ち込む。


 幾ら『水耐性』があっても数多く水弾を喰らえば無事では居られない。


 リザードマンウォーリアーの敗因は、アラーネアが僕の傍に居た事だろう……純粋に僕の実力で勝ったわけでは無い。



「良いか?勝てる時は無駄な手段を取るのは辞めるのじゃ!ライオンとて全力で狩をすると聞くぞ?じゃが主は実力を試す事をしたからの!この上の階層からは『お主が苦労』する魔物しかおらん!」



「今のうちに気持ちを引き締めねば、地上など夢のまた夢ぞ!」



 戦闘が終わった後も、宝箱が出るまで僕はお叱りを受けた……僕は宝箱がさっさと出ない事をこれ程恨んだ事は今までない。



 出た箱は1つだった……理由はこの階層主の部屋は、狭くて小さい上に5匹のグループだったのだ。


 今まで得た知識では、単独個体が多ければ箱は期待できるらしいが、グループだとすれば手に入る部位こそ多いが箱は1つだけらしい。


 それに参加している戦闘に『冒険者』や『人間』は僕だけだ。



 だが1個の割には良いものがでた……多分アラーネアの親切の見返りかもしれない。



 出た宝箱は『異世界からの祝福 』で罠は無しだった……箱のランクはSだったので中身はかなり期待ができる。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 充電式 小型トランシーバー「4台セット」 3箱


 キャンディアソート 業務用200個入り 3袋


 歯ブラシ「50本セット」


 アンティーク 紅茶茶器セット「6人用」


 充電式ドライヤー 


 折畳式ソーラーパネル型充電器 


 ギフト用 紅茶 12缶セット 1箱


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 なんだろう……飴や紅茶……歯ブラシセット……飴を舐めたら歯を磨きなさいと言い過ぎたせいだろうか……正直この世界では使い用がない……異世界製品と分かる紅茶缶など以ての外だ。


 唯一使えそうなのは紅茶器セットだろうそれも6人用となっている。


 充電式ドライヤーはすごい嬉しいし、ソーラーパネル型充電器は同じものが既に僕は持っているので2個目だ。


 ふと思ったのは、Sグレードくらいの箱の中に入っている物は、それで完結出来そうな組み合わせだとわかった。


 全てがそうとは言い切れないが、ソーラー充電に対して充電式の電化製品……ただ問題はこの世界の冒険に役立つ物はこの世界では『トランシーバー』位だろう。



「どうじゃ!?中身はどうなんじゃ?妾にも見せるのじゃ!!」



 僕はリザードマンの討伐部位も集めるので、アラーネアには箱の中身を好きに見てもらうことにした。


 魔物であるアラーネアが持っている分には『奪われる』可能性は少ない。


 あの15階層で使って貰う事を前提に、この異世界で外に出し辛いものはこの際アラーネアに渡してしまい、地上までの敵殲滅を含めて道案内をお願いしよう……と思った。


 このままのスピードだと間違いなく謁見には間に合わないだろう……未だに13階層だ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 リザードマン・スケイルメイル 1

 地底湖ナマズの干物 2

 地底湖ウナギの干物 1

 リザードマンの鱗  1

 中魔石 1

 小魔石 4


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 魔物が居た場所に落ちていたのは、何かの魚の干物や魔石にリザードマン・ウォーリアーが落としただろうリザードマン・スケイルメイルが落ちていた。




「妾が貰えるにはなんじゃ?折角なのじゃ!物珍しい異世界の物を幾つかくれぬか?」



「それにしても……この中身はどれも良いものぞ!異世界とはこの様な物が豊富とは……羨ましい!妾が店になど出向いたら目移りして一日中そこから出られぬだろうな!」



 物欲に目が眩んだアラーネアは僕の方を向かずに、箱絵を取っ替え引っ替え見ている。


 ひとまず急ぎたい僕はお願い事を先にして、上に行く間に出るアイテムでその都度妥協点を探るしかなさそうだ。



「ひとまずトランシーバーだけは冒険で使うので渡せないですが、他の物ならば差し上げますよ。ただお願いがありまして……このままだと多分間に合わないので……できれば魔物の相手をアラーネアさんに………」



「皆まで言わずとも理解した!先導と魔物に対処じゃな?構わぬぞ!!……ちなみに……この変な形をしたメイスは何に使うのじゃ?」



「それはメイスじゃないです!ドライヤーと言いまして……と……とりあえず使い方はあとでと言う事で!……差し上げますので壊れない様に僕のクローク…………」



「自分の糸で包むから平気じゃ!陶器の茶器など……とうの昔に壊れたからこれは外せんの……この葉っぱの絵柄の箱は何が……」



 このままだと、全く先に進めそうにないので、僕はトランシーバーの3箱だけをクロークへしまうと、箱の蓋を閉めて全部を差し上げます……と言う身振りをする。



「これ全部妾にくれると言うのか!?妾は幸せじゃ〜!!」


 そう言った後、全ての品が未開封で梱包材に包まれているにも関わらず、各種の品が箱の中で動かない様に粘着糸で固定するアラーネア。


「これで良い!妾がこれを箱ごと持てば良いだけだしな!」



 そう言って少女の体躯で軽々と箱を持ち上げる。



「じゃあお主が地上に間にあう様にすれば良いのだな?簡単じゃ!……妾の家に戻るぞ!お主が落ちて来たあそこから、まっすぐ上に上がれば出口じゃ!」



 言われてみればその通りだ………だが、それが出来るのはアラーネアだけだろう。

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