第303話「第八位王位継承権を持つ王族」


 その間は王命で人減らしをして行われたので、それを聴いたのは『王と相談役2名と騎士団長アレックス』の4名以外は玉座の広間から退出を命ぜられた。



「うむ……では手筈は理解できた。相談役達よ……どうだろか?何か懸念される事はあるか?」



「そうで御座いますなぁ……私とすれば、他の腐敗貴族共への牽制にもなるでしょうしな!問題はございますまい……」



「私も今回の件は『面白い』と思いますぞ?事ある毎に辛酸をなめますからな……間違いなく横の繋がりがある関連貴族の取り調べも出来ますから一石二鳥でしょう。あの金に汚い輩が消えれば王政はもっとスムーズに事が運ぶでしょう!」



 王の相談役とされるふたりも反対意見はない様だ。


 その言葉を聴いた王は王宮内で行われている現状を話す。



「今頃、妻のポラリスが貴族どもを率いて庭園で茶会を開いておるでな!妻には火の刻まで引き伸ばすように言っておる」



「この件は火の16刻間近までは悪辣貴族どもには知れ渡る事はあるまい……先程捕まえた痴れ者も、事が済むまで他言しない様に言いつけてある」



「秘薬の件での褒賞は、皆の前で行う故に今渡す事ができないが、必ず期待に添える物であると言っておこう!」



「早いものだな!もう光の13刻か……次の謁見の支度をせねばな!……まぁそうは言っても罠に嵌める為の準備だがな。こればかりは余念なくやらねば、失敗したら更に巧妙になるからな奴等は」



「あいすまぬが……対談はこれにて一度終了と致そう!無事事が終わった後ゆっくり話すとしようではないか!」


「ヒロ世話になった。お前の注意力がなければ姫は死んでいた……エクシアも世話になった。あの時我の前に立ち塞がっていなければ秘薬は失っていたやもしれん!」



「そしてマッコリーニ!お前にも世話になった!急ぎ呼び立ててすまんな……そう青い顔をするな!お前のおかげで『鑑定スクロール』の使い方もわかった!後程例の品と代金を宿に届けさせる故、今暫く待っていよ!」



 その言葉に、マッコリーニは涙をダダ流しして喜んでいた。



「こ!このミャッコリーニョ……マ!マッコリーニ!!お役に立てて、幸いに御座います!もしまた何が御座いましたらすぐに飛んで参ります!………うううう……」



 マッコリーニは、嬉しいのか……それともやらかした事を悔やんでいるのか……わからない顔だった。



 光の13刻(午後13時)を迎えて一度王との対談は終了となる。



 王様もこの国の現状にはうんざりしていた様だ。


 第一皇女の病気を治す為に方々に手を尽くす以上、家臣達に無理を言うこともあった様でその部分で弱みになった様だ。



 しかし実情は、家臣達は自分の権力を増す為に邪魔こそすれ手助などしていなかった。


 そのことも露見していたが、証拠がないのだ。


 そうなれば、悪い方へしか進まないのは仕方のない事だ。


 僕らは会釈をして玉座に広間をでるが、扉が閉まる前に中から声がする。



「シリウーース!!今パパが行くからねーーー!!シリウーース!!」



「………ホゴン……良いか!我々は何も聴いていない!分かったな!」



 ザムド伯爵がそういうと、エクシアが笑いながら『どこも親バカしかいねぇーな!?この国は……』と呟いていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「じゃあヒロ、先に行っておるぞ?私たちは荷物といっても然程無いのでな!」


 エクシアは預けた物を返して貰うと、既にエールを飲みたいらしく先程から



「早く帰ろうぜ〜!予定外の勤務だぞぉこれは!あたいは酒を所望する!」



 とザムド伯爵に強請っていた。



 王都だけにジェムズマインでは飲めない貴族御用達の酒も多数扱っていて、それを遠巻きにねだっていたのだ。



 僕は苦笑いしながら倉庫へ入る。



「お待たせー!モンブランとスラ!」



「意外と早かったね!2時進ってところね〜後半分はこの部屋使えるわね?」



「いやいやモンブラン……王宮にこのままつけといたりしないよ?今からこの部屋出ないといけないんだよ。この倉庫は後でまた出すけどさ!」


「それにしても今日ばかりは疲れたわ!慣れない事ばかりか7日の旅で休みなしだからね……流石に疲れたわ……」


「仕方ないな〜じゃあ私の若葉を捥いでから噛んで飲みなさい!」



 そう言ってモンブランは苗木の若葉を指さす。



 本人の前で毟るのを躊躇っていると、モンブランが指で刺す若葉をスライムが毟り僕に渡してくる。


 モンブランとはずいぶん長く過ごしているので意思疎通ができる様だ。



 聖樹の若葉はミントの様な風味だった。



「少しすると体調が良くなるはずよ!私の安住の地を探すまでは倒れちゃ困るんだから!」



「結局はそこなのか〜全く!でもありがとう。ずんぶんスッキリしたよ頭の中が……スラもありがとう。躊躇ってたのが分かるなんて!偉いなぁーお前は!」



 僕はモンブランとスライムにそう言ってから、聖樹の苗をリュックにしまうとスライムは、倉庫の棚を器用に使って自分からリュックに入って来た。



 倉庫の中の棚をアスレチックの様に使い、各棚に触手を伸ばして移動できる様になった様だ。


 お手とオスワリができる様になったばかりの時の我が家の愛犬を見ている気分になる。



 倉庫から出ると既に皆は荷物を纏めて出ていたが、応接間を出た時に声をかけられる。



「これはこれは!『王位継承権を失いました』ザムド殿にウィンディア殿……この様な場所にまだ未練がお有りですか?」


 突然の挨拶には思えない嫌味な言葉に、僕はびっくりして声の方に顔を向ける。


 そこには、ケバケバしいドレスに身を包んだ女性が立っていた。



「これはこれは!第8王位継承権をお持ちのドクリンゴ様ではないですか……こんな応接間などに何の御用で?」



 ザムド伯爵がそう言うと、二人の会話では若干火花が散っているのがわかるが、そのやり取りをドクリンゴと呼ばれた女性が自らの言葉で終わらせる。


 ……それにしても、名前のインパクトが凄い!!



「私の姪が『お世話になった』冒険者と言う方が『応接間』に来ていると言うではないですか!であれば、叔母として礼を言わねばなりませんでしょう?『王の血縁者』として当たり前のことです!」



 その説明に今度はウィンディア男爵が難色を示す。



「そうで御座いましたか……ですが生憎でありますな……次の用事で既に我々は『帰る』ところで御座います。ですので失礼させて頂きます。ドクリンゴ様!」



 上手い切り返しだったが、名前が正確物語ってそうなその人物は、手を変えて優先権を引き戻しにかかる。



「大丈夫ですよ!また火の16刻に王宮に参るのでしょう?それまではヒロ殿には『カノープスの叔母として』御礼をさせて頂きたいと思いまして、お茶をお勧めするだけです」



「お茶一杯のことでそんな時間は取りませんし、宿への送りも我が家臣にさせます故……もし行く先を指示されていればそこまでご案内いたしますよ?どうぞお二人はお帰り下さいまし!」



「執事や!彼らを見送りなさい!ついでに帰宅先も聴いておく様に!」


「さぁ!ではヒロ殿参りましょう!……まさか……王の妹である私のお茶は断りますまい!?」




 さすが王族だけあって、情報収集は余念がない様だ……その上権力まで差し込んで物言いすると、流石に男爵の爵位では文句も言えない様だ。



 それにしても………何故こうなった?


 助けたのはエクシアだが、そのエクシアは興味もないことなのでドクリンゴの言葉を無視してさっさと馬車に向かってしまったし、伯爵も男爵も『お茶一杯の事』と言われれば頭ごなしに否定など出来ない。


 そもそも王族のお誘いであり、その上自分たちが誘われたわけでは無いのだ。


 結局僕は『ドクリンゴ』と言うカノープスの叔母に、ほぼ拉致される形でお茶をご馳走になる事になった。

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