第282話「エンブレム入り短剣それは男爵家感謝の気持ち」

一度は許可を出そうとしたものの、エルフ達まで貴族門を使用となると口煩い貴族に王族への口実を与えてしまう。


 だからと言って何も出来ないのは歯がゆい為もあり、アレックスは代案を用意してくれた。



「確かに!エルフの方々や、一般商団を山程入れるとなると問題が出ますな」


「それでは、我が騎士団より同行者を2名出しましょう!全てが終わり次第その者に騎士団宿舎まで案内させまする」


「アリン子殿は宿舎にて休ませますゆえ、ご安心してくだされ!」



 僕はその事を念話を使いアリン子に話すと、『ご褒美飴ちゃん2個頂戴』とせがまれたので宿舎で大人しくしてたらあげる事で纏まった。



「今アリン子にも『念話』で説明したので、一時的に離れてても問題ないです。ですが刺客には充分注意していください。アリン子でも対応できない『遠距離』の可能性もありますので!」



「あいわかった!何から何までかたじけない!」



 僕はその言葉を聞いて窓を閉めると、窓から吹き込む風で頭がボサボサになった伯爵と男爵がこっちを白い目で見ていた………



 時間的に王都に着くのは夜なので、可及の用でない限りは王宮の門はくぐれない。


 ある意味それは僕ら日とっては都合がいい……時間差で門から入るマッコリーニに比べて、伯爵達は本来すぐにでも王宮へ向かわなければならないからだ。


 『秘薬』のついての報告、『ヤクタ男爵』の裏切りのついての報告、複数の黒箱を使用した経緯も含めれば話すべき事は盛り沢山だ。


 だが、王宮に入れない以上は必然的に翌日になる。


 その上、姫が拝礼殿から脱走すれば尚の事後回しだ……今日の話題は全て『姫絡み』になる事だろう。



 しかし襲う側にとっても、それは絶好のチャンスだ。


 『腐敗貴族』達のチャンスは今日しかない……明日になれば伯爵は王宮に出向いてしまい王に献上してしまう。


 そうなれば代わりに王へ献上する機会は潰えてしまう。



 だからこそ行動を起こす為の猶予は明日の朝までなのだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな話をしていると、男爵が一振りの短剣を僕に見せる。


 鞘には透き通るような青い宝石が細工と共にあしらわれている逸品で、男爵の持ち物と言われれば納得の物だった。


 しかし、何故今この時に『自慢』なんだろう……と思っていると、



「実は家族と相談してな……ヒロ殿には何から何まで世話になりっぱなしだから、我が男爵家として何かお礼が出来ないかと考えたのだ」


「冒険者として何かの時に役に立つ様に、一番良いのは『短剣』ではないか?と娘が言い出してな……実はコレが我がウィンディア家紋が入った家族とテロルと執事のみが持っている『ミスリルの短剣』なのだ」



「この剣の鞘を見せれば大概の者は『男爵家所縁の物』とわかるからな……武器以外としての効果もある。ヒロ殿なら悪用もしないだろうし、つい先日の娘の事もある……是非もらってくれないか?」



 そう説明されたら貰わない訳にはいかない。


「有難う御座います。誰かに絡まれそうな時に使わせて貰います!余計な揉め事はなるべく回避したいので!」



 そう言うと、『揉め事起こす張本人なのにか?』と大笑いしていた。



 説明があるだけに、作りがしっかりしていて手にしっかり収まり扱い易かった。


 一応鑑定してみると、確かにミスリルダガーと鑑定されている。



◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


ウィンディア家のミスリルダガー (⭐︎⭐︎⭐︎)

ノーマル装備 装備品・短剣『片手用短剣』


種類:マジックウエポン  鋳造・錬金可能


 刃厚0.6cm ブレード27cm 全長45cm


 攻撃力70 (耐久120/120)(鍛造度140)


  クリスタルレイク領・ウィンディア家の

 エンブレム入り短剣


  素材にミスリルを用いて打たれた名剣。


  剣の作りはシンプルで扱い易い。


 『特殊技』なし  効果:ーーー


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇



 太陽のエルフからはロングソードで男爵からは短剣を貰い、何故か装備がミスリル製品で充実し始めた。


 剣で戦うのが怖いから基本は魔法ばかり使っているのだが『剣』を少し覚えなさい……との事だろうか……



「もっと早く私の出逢えていればな……お前たちの様に信頼の品を交わすことができたのだが。実に……妬ましい!」



「ならば伯爵様は『短剣』以外の物を今度下さいよ!同じ様な物があっての装備できませんから。あと、ロングソードもエルフ国の持っているので別のでお願いしますね!」



 伯爵は笑いながら言うので意地悪く返すと、



「貰う身分で注文が多いな。よし分かった!ジュエルイーターの素材から武器のショートソードを作る予定だったのだ!それを我が家系のエンブレムを入れて其方に授けよう!」



 鉱山の魔獣素材から作る予定だったショートソードを僕用に作ってくれる様だ。


 伯爵家のショートソードに男爵家の短剣、失われたエルフ都市のロングソード……全て名の通ったエンブレム入りともなれば粗末に使えない。


 ここは有り難く戴いて、何か面倒に巻き込まれた時に有効活用させてもらおう。


 暫く和気藹々と話をしつつも順調に王都へと馬車が進む……窓から見える王都の外壁は非常に大きく強固だと感じるが、今までの王に反目する貴族の事を思い出すと薄っぺらい壁にも感じる。


 暫くすると、男爵は停車を命ずる。



「それではヒロ殿、あとは手筈通りに……我々は先に入り準備をしておるからな……抜かるなよ?」



 伯爵の言葉に男爵は『置いて行くなよ?に間違いだぞ?ザム!』と言って笑い合うと、僕を送り出した。


 僕はマッコリーニの管理する商団にメンバーになり、代わりにスノウベアーのメンバーが伯爵の護衛に加わる。


 接近戦で少しでも役に立つ様にの采配だ。



「伯爵様!それでは後程!」



 僕はそう言って見送ると、伯爵達は貴族門へ馬車を向かわせる。


 これより先は貴族と一般入場では入り口が違う様で、舗装されている敷石さえ質が全く違かった。




 ここからは伯爵とは別になるので『秘薬』を守り抜かなければならない……責任は重大だ。


 現状秘薬はまだマッコリーニの荷台トランクの中だ。


 怪しい動きを調べる為にも、城門での荷物チェックの際に入れ替えるのが自然だ。



 王都の門は、ジェムズマインと比べて引っ切り無し人が来るために、閉門の時間は無かった。


 正門は荷馬車が同時に4列も入れる程広く、列の消化は早いと思われた。


 しかし現実は、門が大きい以上は並ぶ人も多かった事を考えていなかった……かなり長蛇の列が出来ていて時折列の中で喧嘩も起きていた。


 日が暮れているのもあり、気が立っているのだろう。



「次の者!前へ。積荷のリストに滞在期日の申告及び人数を申告せよ!」


 僕達の前の4グループがリストやら冒険者証やらを見せて、そのあと荷物を見せている……何人かの衛兵が積荷の中を探り怪しい物は無いかを探る。


 衛兵の数名が、何やら奇妙な動きをしているのが目で見て取れるが、賄賂なのかそれ以外の事なのかが分からない。



 僕はそのやり取りを見ながら、ある事を思いつく。


 わざと男爵から貰った短剣を目につく様にして周りの者にアピールして見せるのだ。


 もし何かよからぬ事を考えている者がいれば、間違いなく行動に移すだろう。




「以上はなかったか?ならば行ってよろしい!」



「次の者!前へ。積荷のリストに滞在期日の申告及び人数を申告せよ!」



 その言葉を受けてマッコリーニが前に出る。


 万が一、腐敗貴族の関係者がいれば『秘薬』の罠にかけて関係者を一網打尽にすれば後顧の憂いが無くなる。


 ここからが腕の見せ所だ……

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