第281話「新たなる仲間……好転する王都への行進」
お断りを入れるも結局強引に渡されたが、剣の柄にはエルフの紋章が入っててかなり高そうだ。
その紋章は既に無い『王国』のエンブレムらしいが、エルフ王国基準の時間が経っているのに未だに褪せる事がなく、気品を漂わせていた。
横向きの女性の顔と流れる髪に星が7つ付いている。
かなり小さい造形だが、この剣を打った鍛冶職人の素晴らしさを感じる。
ただ、僕には刀身が長い為に重さが半分でも振り方に戸惑ってしまう。
そもそもロングソードなので物凄く全長が長い、アリン子に跨り万が一にでも剣先が触れたら可哀想だ。
隙を見てベンに剣の使い方をキッチリ教えて貰ってからの方が事故がないだろう。
太陽のエルフ達が謝罪をする間に、流石の商人達は色々と準備をしていた。
話に出た『レモップル』の実を剥き身にした状態で、僕へ持ってくるフラッペは流石だ。
「エルフレアさん。せっかくフラッペさんが剥き身にして持ってきてくれたので『レモップル』ジュースの作り方を教えますね」
「レモップルは未熟時は酸味が強いので、紅茶に合わせるとスッキリとした飲み口になります。暖かくても合いますし、冷たくても平気です」
「そして完熟時は非常に甘くなるので潰した後の果汁を集めて色々なものに使えます。糖分も多いのでジャムにも最適です。水を50%合わせて攪拌すればレモップルジュースになります」
「果汁100%でも美味しいので用途に応じて使い分けてください」
僕はそう言うと『魔力ミキサー』を自分の魔力で作ると、不思議そうにそれを見るので僕がそれを説明する。
途中でムーアと呼ばれるエルフが呼ばれて、僕がやるそれをよく見ている様にと隊長から指示を受ける。
折角なのでムーアさんの魔力で容器を作る部分から説明して二人でジュースを作っていく。
「おおお!凄い容器を中と外で別に作るなんて……そこにすり潰す仕組みを作り素材を入れるだけとは!発想が素晴らしい!」
「隊長!王都まで行く間私に暫く時間を下さい!なんとかこの『魔力容器』なる物を完全に学習して見せましょう!これを王国へ持ち帰れば!我々も『レモップルジュース』を一族に届けられますぞ!」
その言葉に非常に気まずくする、エルフレアは身振り手振りで黙る様に示すが、僕には全部見えているので一言付け加えて安心させよう……武器のお礼でもあるのだ。
ムーアの言葉で思った事だが、王都方面から来たが何故かまた王都に戻るようだ。
「大丈夫ですよ?エルフレアさん。武器を貰ったお礼という事も含んでますので、是非国に戻った後でも活用して下さい」
「ま……誠でございますか!こんな技術など本来であれば外に漏らさない事ですよ!?『魔力ミキサー』と申されたが、此れであれば大概の物をすり潰せます……それを我が国で自由に使っても良いと?」
やり方が分かってしまえば、誰にでも使えるのだ……容器の形が変わって『亜種』が産まれるだけで内容は同じなのだ。
だったら変に気を回して無駄な時間を使う前に、この扱いに慣れる方が重要だと思った。
「扱いが慣れたら『自分の使い易い』型に変更すれば良いのです。今は動きと仕組みを覚えてより速くより正確に扱えた方が得です」
僕がそう言うと何を感心したのか、エルフレアは非常に嬉しいようだ。
「そうか!ならお言葉に甘えよう……『姫の言う通り人間は悪い者では無いな!』あって間も無いのに我々エルフの為にここまでして頂けるとは!」
どうやらエルフレアは国王側に相当傾倒しているのだろう。
皇女が言ったとされる言葉をかなり噛み締めそう言っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
太陽のエルフが隊列に加わった後、伯爵の指示で隊列の移動スピードが上げられた。
既に王都が見えている以上、この周辺はかなり安全な地域になるらしい。
魔物の襲撃などがあれば物見塔から目につくらしく、場合によっては衛兵が救助に来るらしい。
今の距離ならば夜迄には着く距離のようで、昨日の王国騎士団が来た時間には充分王都の外壁門まで到着するらしい。
僕は伯爵と男爵に最後の打ち合わせと称して馬車へ呼ばれた。
要は『罠』のついての打ち合わせだろう。
マッコリーニは流石に貴族門からなど入れるわけが無い。
その為に到着した後の打ち合わせをする為だ。
僕達は外壁門まで着いたらひとまず、マッコリーニの隊列に混ざり代わりにマッコリーニ商団を護衛中の銅級パーティーが伯爵護衛隊に加わる話になった。
僕はあらかじめ、『ウィンディア男爵』が用意した『黒箱』をこっそり持ち込んでいた。
ギルドに一度は置いていこうとした男爵に、『待った』をかけて僕がクロークに収めてきた物だ。
僕は伯爵に許可をもらい、積荷チェックの時に『入れ替える』事にしたのだ。
理由は皇女の叔父が『襲撃』された事に違和感を覚えたからだ。
ヤクタ男爵が『秘薬』を盗んだ事になっているが、伯爵は『追撃隊』を組織して向かわせていないのだ。
感がいい『腐敗貴族』であれば気がついているだろうし、『叔父』も気がついていた可能性がありそれを知らせに出て邪魔をされたのかもしれない。
死なれたら国王側が調べに出てしまうので、死なない程度に足どめだったのかも知れない。
狙うのがヤクタ男爵だけと言うのが腑に落ちなかった……王都に潜む腐敗貴族は現在まだ狙っていると思ったのだ。
なので、僕のマジッククロークに『本物』を忍ばせて、予備の『偽物』をそのままトランクに詰め込もうと言う計画だ。
「成程!そう言われると、何とも違和感しか無いな……王都にさえ持ち込めば何とかなると思ったが……ギリギリまで王を欺く事をせねば、満足に薬一つ渡せない状況にあるかもしれないとは……誠に嘆かわしい……」
伯爵は苦虫を噛み潰したような顔をするが、コレは仕方がない事だ。
「皆、王へ渡す事で自分の功績に繋げたいのでしょう……少しでも発言力を増せれば、相手に差をつけれますからね」
「問題は皇女様やその叔父のことです。誰が皇女を狙ったかは分かりませんし、叔父については馬車が横転だけで致命傷では無いです……あれは計画が杜撰でした。『殺した後巣穴へ証拠隠滅』では無かったですからね……もっと調べないと全貌は見えないですね」
僕がそう言うと『なんて事を言うんだ!』って顔で見るので……
「だってそうでしょう?恨みで皇女を狙うとかじゃ無いですからね普通……『次期王位継承権』を狙ったならばもっと確実にするでしょう?折角のチャンスが無駄に終わり、『警戒』される結果しか残らないのですから…」
その言葉に反論するべく理由を考える伯爵と男爵は、相応しい理由が見当たらないようだ。
僕は徐に疾走する馬車の窓を開けてアリン子を念話で呼ぶ。
「おおお……勝手にアリン子殿が進路を変えてビックリしましたぞ!どうしました?ヒロ殿……そろそろ姫を中に入れた方が良いので?」
もうこのダメ騎士団長は姫のことしか頭にないようだ……姫が喜ぶ顔が見たくて仕方ないのだろう。
とうとう魔物にも殿がついてしまった……。
呼ぶまで右へ左へアリン子を走らせて楽しんでいたので、理由は分からなくもない。
蟻の走法は足が早く動くので、馬より縦揺れがなく安定しているのだ。
まだ伯爵と話があるのと、窓を開けた事で風が馬車に吹き込むので、ひとまず呼んだ理由を手短に話す。
「いや違います、僕はマッコリーニさんの商団に預けた『伯爵様と男爵様の商材』を安全に運び入れる事を頼まれたので、王都に入る直前にこの隊を離脱します」
「でも、姫が襲われても困るので、このままアリン子を一時的に預けようと思いまして」
「騎士団長が魔物に乗って王都に入るのは可能なのか聞きたかったのです」
僕がそう質問すると騎士団長は、
「そうでありましたか!それはかたじけない!是非このまま乗せて頂けると助かります。」
「我と一緒であればこの魔物とて入る事も問題ありません、テイマー殿の意向で一時的に我が管理してるとでも言いましょう」
「それより貴族門よりマッコリーニ商団も入れるように致しましょうか?」
願ったり叶ったりだがそうされてしまうと、フラッペやハリスコの商団に加えてエルフ達も一緒になる。
それは不味いと思いその部分を説明すると理解したようだ。
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