第280話「エルフレアからの贈り物」

それから朝食を済ませて出発の準備をしていると、騎士団の部下が謝りに来た。


「申し訳ありません……実は昨日の夜に姫を自分の力で助けられなかった事を相当悔やんでいまして。その場に居れば自分が助けたのだと……」


「騎士団長は悪い人間では無いのです。かなり思い込みが激しい性格でして……そこに変な風に我等が弁護したもので、それが元で力強く語り出してしまい『自己陶酔』して、今日この様な事になってしまった様で……」



「本来は騎士団長は思いやりがあるのですが、事姫の話になると、一変と言うか暴走気味になる事が多く。姫を助けたヒロ様達に『嫉妬』をした様なのです……そこに今朝方、帰りの道でも姫がアリン子が傍に居れば安心だと言ったせいで……尚更対抗意識を持った様で……」



 どうしようも無い理由だが、それが分かれば理解もできる。大好きな姫からお礼をいっぱい言われたいのだろう…



「な……成程……相当『姫様愛』に溢れているのですね……まぁ気持ちはわかりますが……騎士団であれば守る主君のためですよね?……逆効果ですよあれじゃ……」



 理由を聞いた僕は、アリン子に一つお願いをする。


 お手伝いのお礼は飴ちゃんだ。



「騎士団長、良ければアリン子に乗りますか?王都まで『一緒に姫を守れば』安全度が上がるのでは?」



 僕がそう言うと、自分が乗っていた馬を降りて僕を抱えて馬に乗せお礼を言う。



「かたじけない!そうして頂けると、このアレックス非常に助かります!」



 行動と台詞の順序が逆転しているが、この際気が付かない事にしておく。


 アリン子に乗ってアレックスが姫の馬車に近づくと馬車の窓から出ようとする……姫。


 騎士団長の馬に毎度こうやって乗って行くのだろう。



 出発していないので出来る事だが、姫は最初怖がっていたのだが今は全く怖がっていない。


 エクシアが乗っている時にたまによじ登ろうとするので仕方なく引き上げている事があった。


 用事がなくてもエクシアは割とアリン子にまたがる事が多い。


 彼女にとって力の象徴なのかそれともラミアとアリで何か近いものがあるのかは分からないが……



 準備を終えた伯爵が姫の許可を仰いでから出発を指示して、王都へ向かう今日いよいよ王都へ着く予定だ。


 騎士団長の肩を持つつもりは無いが、これ以上の問題事など勘弁してほしい。


 守りたいなら勝手に守れば良い……というかそれがアンタの仕事だ僕に任せるな!


 アリン子には申し訳ないが、今の時点で騎士団長に恩を売っておけば後で『取り立てる』事も出来るだろう。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 出発したのは朝8時頃だったが、2時間ほど進むと王都が小さく見えてきた。


 最前列はエルフ2組に最後尾は問題児ヤクタ男爵の元騎士団だ。


 本来はここまで大きい隊列では移動しない、その為物凄く目立つ集団になっていた。



 その集団が進む事3時進に差し掛かりそうな時に先頭を陣取っていたエルフ達に動きがあった。



「伯爵殿にヒロ殿、テイラー殿も申し訳ないが隊の移動を止めてくれるか?この先から『太陽のエルフ』が向かってくるのだ……万が一もあり得るからな……我々が先に行って話をつけてこよう」



 そう言ってエルデリアとエルオリアスは伯爵にくる者の説明をするが、人間の僕達はエルフには全く見えない……彼等の視力はずば抜けているのだろう。



 太陽のエルフと言えば、あの豹変した戦士の一人の行方が分かっていない……もしかして等と思うと恐怖だ。


 今はあの時と違って、皇女はいるは5人の少女も増えている。


 襲われれば誰かが怪我をするし、下手すると命さえ危ない。


 しかし、大地のエルフと月のエルフが先に気が付いてくれたおかげで、戦闘行為にならない様に祈るしかない。



 半刻程で太陽のエルフを伴って戻ってきた各エルフは、太陽のエルフに自己紹介を促す。



「我々は太陽のエルフ王国親衛隊でございます。私は親衛隊長で名前はエルフレアと申します。そして……申し訳ない…我が同胞が迷惑をかけました……その上闇堕ちなど……」



「その上仲間を一人保護して頂いていると。本来の任務を放棄して人族を襲いその上欲望に呑まれる等情けないにも程があります……全て我々の教育が不十分だった為に起きた事……心からお詫び申し上げます」


 その言葉で、エルフ達から全て伝わった事を知り安心する……この場合『仲間をよくも!』と言う事にもなりかねない。


 仲間の声を聞きつけた太陽エルフ戦士隊のテリアが来る。


 彼女は彼等の剣を持ってくると、エルフレアに渡して頭を下げている。



 これからテリアが、ジェムズマインで起きた事の一部始終を話すのだろう。



 エルフレアが伯爵に挨拶を交わし、ザムド騎士団の団長、テイラー、アルベイ、バームと挨拶と謝罪を言う。


 太陽のエルフはプライドが高く決して謝らないものと思っていたが、どうやらそんな事はないらしい。


 そして僕達の前にきたエルフレアは僕達にも謝罪するが、表情を見る限り謝罪というより安堵しているとしか思えない。



「このパーティーのリーダーヒロ殿で御座いますね!貴方様にはお礼の言葉もございません。只でさえお礼を言わねばならない立場であるのに。我が同胞の馬鹿な行いで大変ご迷惑をおかけしました」


「こちらは、謝罪の品となります。どうかお納めくださいませ。」



 そう言うと一振りの剣を僕に手渡してくる。


 僕はうっかりいつもの癖で『鑑定』をしてしまう。




◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 ロア・ミナスフロアのロングソード


(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎) レア装備 装備品・剣『片手直剣』


種類:マジックウエポン  鋳造・錬金可能


 刃厚1.8cm ブレード85cm 全長120cm


 攻撃力110 (耐久150/150)(鍛造度150)


  今は亡き都ロア・ミナスフロアにて製造

 された剣。

  剣には魔鉄、ミスリルを練り込み魔力を

 注ぎ打たれた名剣。

  魔力を注ぎ込みながら魔鉄による特殊製

 法で、剣の重さは半分になる。


  剣の作りはシンプルだが、とても取り回

 しが良く、扱い易い。


 『特殊技』なし  効果:ーーー


 『特殊効果』:剣の重さ1/2


 鋳造・製造・錬金アイテム

 ・知識レベル不足により解除不可。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇



 その武器の価値がレア装備と書いてあったので驚くと、エルフレアは僕の表情を読んだ様だ。


「この武器の性能がお分かりになるようですね?この武器は剣の重さを半分に出来ます。素材にはエルフ峡谷で産出されるミスリルを使用し、現在では製造者も既に居ない武器で御座います」


「我々は、長い間王都をこの世界と隔離して危険を回避してきました。その間に王都の事情も昔に比べて大きく様変わりしたと言わざるを得ません」


「我々は人間と隔絶する道を選びましたが、今ではそれが間違いだったと思わざるを得ません。」



「以前我が国の皇女は言いました……『人間にも良い人は必ずいる。何も話さずとも我々の魂が穢されない様に考えて行動してくれる』その言葉を今私は痛感しています」



「現に我々エルフの勝手で巻き添えにしたにも関わらず、剣を持ち帰っていただいた……それだけで無く『穢れた身を埋葬』までして頂いたとか……我が王には我々の教えは必ずしも『正解では無い』と、伝えさせて頂きます」



 エルフレアはそう言うと、僕の手を取って剣を渡してきた……。


 凄い剣だが……僕は使いこなせる気が全くしない。


 それにこれを貰うには値しない……助けられる道を探さずに仲間の危険回避を最優先にしただけなのだ。



「これは頂けません!僕は仲間の命を最優先に考えた結果で、あの場合他に方法がなく貴女のお仲間さんを仕留めざるを得なかったのです。なのであの状況では埋葬するのは当然ですし、捕縛すれば万が一にも戻れる可能性を探せたと思います」



「コレはもっと相応しい人に……」



 僕が言いかけた時、エルフレアは、月のエルフのと大地のエルフ両名のリーダーから『ジャーキーのレシピ』も頂いたと説明してきた。



 太陽のエルフも食糧難が深刻化していて、渡りに船だったようだ。


 伯爵の隊列にくる間に大地のエルフが仮に作ったジャーキーを試食したところ皆に好評だったそうで、そのお礼も兼ねているそうだ。


 それだけで無く、食べ方に困っていた、『レモップル』の正しい食べ方を教えて貰った事も加味しているらしい。


 レモップルの原産は太陽のエルフが治める村の一つらしく、そこから伝播して伝わったらしい。


 酸味が強いので気付けに使ったりがやっとだと言ったので、レモンティーの作り方も教えると喜んでいた。

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