第279話「暴言への対抗手段は知識と教育」

僕はその日に寝る前に考えていた。


 『王都』に着いた時点で皇女の暗殺を考えてくる者がいる可能性と、その逆で騎士団が護衛して入ってくれば生きて居ると知られて、目立つ暗殺でなく『別の手段』を模索する可能性があるだろうと……例えば毒殺だ。


 何にせよ皇女に安息の日々は無い……『犯人を捕まえて罰しても次が来る』そう思うと異世界も元の世界も何も変わらないなぁととしか思えなかった。


 解決策を考える間も無く僕は寝ていた……


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌朝の準備はかなりやり辛かった。


 表皮が腐っている『レモップル』を朝から仕分けしているフラッペさんを見に行った時に皇女がついて来てしまい、表皮の腐った様を見た騎士団長のが怒り始めたのだ。



「腐った食べ物を皇女に食べさせるとは何事だ!不敬罪も恐れぬとは!」



「これだから下々には任せておけんのだ!昨日の魔物肉とてあとで何があるかわかった物ではない!」



「我々は体調を万全にせねばならないのだ!皇女を無事送り届けるために!今日は『普通』の食材を使い食事を用意せい!!」



 その言葉を聞いたフラッペやマッコリーニ、ホーンラビット亭のコックも慌てふためき土下座をして許しを乞う。



 どうしようもない事で揉めるもんだ……と思いつつも、せっかくの食糧事情の改善にケチをつけられて僕はイラッとした……



 自分たちは良い物を食べられるから良いがそうじゃない人も沢山いるのだ。



 なので彼等にとって重要な事を言ってやる……感謝の気持ちもさる事ながら、食い物の恨みは時には怖いと思い知らせておこう。



「アレックスさん王様やお姫様は『チーズ』は食べないんですか?」



「何の話をしているんだ!チーズなど王で無くとも誰でも食う……今はそんな話を……」



 アレックスは怒り浸透の様で聞く耳を持たないので、僕は話途中で言葉を被せる



「チーズなどは『発酵食品』で、簡単に言えば腐敗の親戚の様な物です。パンに使う酵母菌は文字通り『菌』です。それ以上『馬鹿な事』を言うと『皇女様や王様』が恥をかきますよ?」



「ぬ!?何だそれは……チーズが腐っているとでも?」



「まぁ言いたい意味は異なりますが、説明が面倒なのでそう思っていてください。説明しても『今の知識程度』では多分理解できないです。」


「ナチュラルチーズとプロセスチーズの違いがわかります?聞いた事もないですよね?僕の村では常識と言えます。それと今回の件に深く関わる事ですが、発酵と腐敗の違いは説明できますか?できませんよね?」



「単純に『見た目』で判断すれば『大恥』をかく事につながると言う事です。今のは『賢明な判断』ではないので、酷く罰しようとした事をちゃんと彼等全員に謝罪した方がいいですよ」



「それに『食材云々』言いますが、『鑑定スクロール』で食材鑑定をした事がありますか?ないでしょう?ちゃんと食べれるんですよ?」


「そもそも、これが魔物肉と言えども基礎構造は動物なんです。『魔』の『物』なだけで『食べれない』のではないです」


「そもそも魔物じゃなくても、食べれない動物だって沢山いるでしょう?毒を持った生き物など特にそ良い例です」



「お貴族様は食べ物に困りませんでしょうが、スラムの子供は『食べ物』にも困るんです!」


「そもそも『肉』を含めて食べ方を教えたのは『僕』ですから……罰するなら僕にしてもらえますかね?でも全力で反抗してみますけど?」



 僕はそう言って片手で合図すると、アリン子が何故か地面を掘り掘りする。


 アレックスを地中深く埋める気だろうか?そしてキノコでも生やすつもりだろうか……出来ればナメコでも育って欲しいものだ。


 そうすれば味噌汁の具が増える……


 それはそうと昨日は助けてと言いながら、今日になってこの様では僕だって苛々するので直接言う事にした。



「助けてくれと言いつつ翌日に掌を返すのであれば、王様の為とて僕は手を貸しませんよ!?心無い事をいう様な相手であれば全力で拒否しますから!」



 そう言った瞬間ザムド伯爵が青褪めて仲裁に入る。



「いいか!アレックス!このヒロがダンジョンから『秘薬』を持ち帰り、王への『献上』も快く受けてくれたのだ!その全てを『お前』は無駄にする気か!」



「彼の知識で考えたことが間違えていた試しはない!現に昨日の『レモップルジュース』を飲んで誰か腹でも壊したか!?飯を提供されて騎士の誰かが体調を壊したか!?」


「やる事が出鱈目だが、彼はそもそも人の為にしかしていないのだ!」



 僕はやんわり馬鹿にされた様だが……聞かなかった事にしておこう……



 伯爵が話している間に、マッコリーニに耳打ちして鑑定スクロールを用意手てもらう。



「伯爵様、騎士団は目で見たものを頭で覚えてもらう方が早いです!『鑑定スクロール』ですこれで食材を『鑑定』してみてください。言っている意味がわかります。」


「もしその結果が鑑定さえ信じられないなら、既に貴方の持つその武器や防具の性能さえ当てにならない筈ですよ?」



 僕はそう言って、近くにいた騎士に鑑定スクロールの束を渡す。



「王都についたら『ちゃんと』使用した分の鑑定スクロールの代金を払ってくださいね!」



 僕はそう言ってからはフラッペの選別を無言で手伝う。



 皇女は……と言うと騎士から鑑定スクロールを引っ掴み食材を鑑定していく……『良い玩具』と思っているのだろう。


 しかししっかりとした知識欲が有った様で、僕は皇女の行動に考えを改める結果になった……少しばかり感情的になった様だ。


「すごいです!ヒロ様の言う通り食べ物の詳細がわかります!食用になるかどうかもコレで分かるのならば、もっと沢山魔物を調べれば、おっしゃっていた様に貧しい民にも沢山食事を与えられますね!」



 王族なのに下民の事を気にしてくれている、本気で取り掛かってくれれば全員にとって良い結果が待っているのだが……王の民にも王国にもだ。



 育ちが良い姫に理解出来るか不安だったが、アレックスと言う脳筋よりは遥かに理解が早そうだ。


 そう考えていると姫は考えを巡らせて、言いたいことを説明してくれた。


「それに魔物を減らせれば力無き民が襲われる被害も減るのではないですか?魔物の肉があれば冬の寒い日に食べ物に飢えて死ぬ子供が減らせるのではないですか?」



「魔物の肉が何が悪いのでしょうか?貴族が良い物を食べて、民が死んでいく……この方がおかしいのでは無いですか?」



「魔物の数が減らせれば民は襲われず……その肉が民の腹を満たし飢えて死ぬ人が減る。悪い事などどこにありましょう?」



「アレックス……貴族は肥え太り自分勝手になっています……」



「王の民であるヒロ様は姉様の為に『秘薬』を献上して頂いただけでなく、民の食べ物まで届けてくれたのです……」



「騎士団でウルフや食用になる魔物を討伐をすれば魔物も減らせる上に、この冬は飢えで死ぬ民も減らせます」



「ぐ……ひ……姫様……自分が浅はかで御座いました!教えて貰い習うのでは無く、その者の行動から見て学ぶ……自分が部下に言っている事が『自分自身』が一番できておりませんでした!」



「不覚の極みに御座います!マッコリーニ殿、フラッペ殿……コックの皆様……大変失礼な事を申しました……このアレックスが間違えていました」



 僕はその言葉を聞いて一言付け加えた……大切な事だから覚えて置いて貰いたいからだ。



「魔物と言えど『魔物に生まれたかった』わけではないでしょう?その性サガの為に人を襲いますが、自然の動物だって人を襲うでしょう?」



「危険な動物は元が何であれ危険なんです。その事の何が種族の差でどう変わるんですか?動物か魔物かの違いです。」



「それにですね、魔物を狩れば『素材』も手に入るのです。冒険者はそれが稼ぎになり街が潤い、ウルフ素材は装備や『防寒具』になるのですよ」



「防寒具が多く手元にあれば、寒い冬には国民達の『凍死』も減るのでは?」



「それに、この『レモップル』は未熟から完熟まで様々な効果があるんで、長距離移動には欠かせない果物ですから……」


「表皮の腐敗くらいでゴタゴタ言うなら『そもそも食べなければ良い!』それに限ります!以上です!」



 僕はそう言うと、もう一箱の選別を始める……何か言われたとしても、もう聞く気は無い。


 しかし姫はちゃんと理解したのか手伝いを始める……


 姫様も完熟になったレモップルを一緒に探し始めたが、流石にそれは臭いからやめた方がいいと思った。

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