第274話「襲われる馬車……これは…デジャヴ?」
その女性は服装からして高貴な出だった。
彼女がそう言ったのはクルンクルンに巻かれた髪の毛が食べ物に見えたせいで、アリン子が『ジーーーー』っと見ていたからだ。
アリン子の口からは当然ヨダレも垂れている。
「アリン子戻っといで!それは食べ物じゃなくて髪の毛だよ!」
エクシアがそう言うと、とぼとぼ帰ってくるアリン子は馬車の周りをウロウロしはじめ食べ物を探し始めた……運動をしたせいでお腹がすいた様だ。
流石に漏らした冒険者や足元に転がる元人間は食べる気にはならない様で、足元に転がる部位を蹴飛ばしていた。
「お嬢ちゃん安心しな!あたしゃ魔物じゃないよ。これでも冒険者さ一応この世界で『多分』二人目の精霊使いだ。名前はエクシア・フレンジャーって言うんだが、知るわけないよな貴族のお嬢様じゃ」
ラミアから人型に戻ったエクシアを見て尚更びっくりする。
冒険者には疎い様で、『精霊使い』と言ってもピンとこない様な顔をする。
「お嬢ちゃんは何処の誰なんだい?今から王都に私らは向かうんだが、もし良ければ送っていくよ?」
そう言うと、名前のわからない女の子はトンネルアント・タイラントを見て『ふるふる』と首をする。
当然のこの場合、乗るのはアリン子の背中としか思えない。
「おーい!エクシア!大丈夫か!?」
遠くからカブラの声がする。
流石にエクシアには任せられいと誰しもが判断し対人間対応にテロルとカブラ、それとテイラーとシャイン、飼い主と言うことで僕とアルベイが馬に乗って先行してきた。
流石に装備を着込んで二人乗りなので、荷重オーバーとも思える。
僕が馬から降りるなり、アリン子とエクシアが僕等の方へすっ飛んでくると、『どうだい?あたいとアリン子の(投げっぱなしラミアアタック!)かなりイケテただろう?』と言い放つ……もはやチャンティコと呼ぶ事もしない……万が一の時に使えなくならないか心配だ。
代わりに女の子は僕からすごく距離を取る。
「ヒロ!ヒローーーー!頼む頭から水をかけてくれ!!そして乾燥をーーー!」
エクシアが泣きついてきたが、何故か出た時より臭かった……
理由を聞くとウォーターを求めている訳がわかった……確かに思い出したくもないし頭から水を浴びたくなる。
「ウォーター!……乾燥!!」
頭から水をかけて装備一式も水で洗い直しておく。
毎晩エクシアにはシャワーがわりにやらされているが、今日は率先してやることにした。
これでアリン子に乗られたら、寧ろアリンコが可哀想だ……万が一それが元で『人間嫌い!』となって野生に返られてもすごい困る。
「それでこのお嬢さんは何処の誰なんだ?エクシア」
テイラーが聴くと、エクシアは聞いたけど教えてくれないと言ったので、シャインが察して説明した後また聞き直す。
「私達は怪しい者ではありません……私はシャインと申します。私達は冒険者で彼はテイラーと言います。私たちの目的はトレンチのダンジョンで、とある冒険者が獲得した『財宝』を王都まで持っていく事で、王への献上品の護衛です」
「あそこに見える馬車が、ザムド伯爵様が用意しました護送隊と荷馬車です」
そうシャインが指さす方には、既に肉眼ではっきりとザムド伯爵家のエンブレムも見て取れる程に馬車が近づいてきていた。
それを聞いた貴族に女の子が、自分の護衛隊が全員倒れていることに気がつく。
「か……彼等は……私を守るために?……まさか………」
その言葉で、シャインがエクシアに聴くが『あたしゃまだ調べてないよ?』と呑気に言う。
それを聞いたシャインが溜息をつきながら、そばに居た騎士風の男を調べるとちゃんと脈があるのでホッとする。
「調べたところ護衛の方は『昏睡』状態ですね……異常系のスキルかマジックアイテムでしょう。今解呪しますね」
「光の精霊の導きと癒しの神のフェミの御心にて身を蝕みし穢れを祓い給え!『キュアー』」
シャインがキュアーと呼ばれる状態回復魔法を唱えると、倒れていた騎士が目覚める。
周辺の状況を見た騎士はすぐに剣を構えようとするが、冒険者数人に縛られている盗賊団が目について『助けられた』事に気がついた様だ。
「大丈夫ですか?すぐに動いてはなりません。このシャイン様がお助けしてくださったのです!」
女の子がそう言うと
「我々が不甲斐ないばかりに大変申し訳ございません……カノープス様」
どうやらこの女の子は『カノープス』と言うらしい……騎士の男は頭を下げて謝っているが少女はそれを咎めるどころか、『無理を言ってごめんなさい』と謝っていた……何か理由がありそうだ。
賊をふん縛ったカブラが皆にマジックアイテムと『指示書』らしき紙を見せる。
「どうやらアンタ達は、待ち伏せにあった様だね。此処には何やらアンタ達の行動を知らせる事が書いてあるよ?そしてアンタ達が『昏睡』になったのは、スキルじゃなくてマジックアイテムだね」
「これがそうだけど、『デッド・スリープ』って言う杖だね。前に王都のオークションで一度だけ見たことがあるが……出所漁れば襲った犯人の黒幕がわかるんじゃないかい?」
そう言って、カブラが騎士の男に投げる。
「其方達が賊を捕らえたのでこのアイテムはあなた方の物になるが……犯人の目星がつくまでお借りしてもよろしいか?」
男がそう言うと、カブラが
「コイツらぶちのめしたのがそこのエクシアと、その坊やの従魔だからな……アタイに聞かれても困るんだけどね?」
そう言って、僕とアリン子を指さすカブラ。
「うぉぉぉぉぉ!ま!魔物!なんて巨大な!姫様!すぐに馬車へ……馬車へお戻りを!万が一何かがあった日には王へ申し開きもできませぬ!」
騎士はすぐに立ち上がると剣を抜くが、抜いた途端に剣の根本からアリン子に圧し折られる……鉤爪の根本は厚みが太く頑丈なギザギザになっていて俗に言う『ソードブレイカー』の様な作りだった。
へし折られた剣は作りからして凄く豪華で高そうだった。
これを弁償するのはごめんだ……何か言われた場合はこの騎士が勝手に喧嘩売って来たと自己主張しよう。
この騎士が護衛する馬車に盗賊団の強襲が成功したのは、どうやらマジックアイテムを使って一度に全員を『状態異常』にした為のようだ。
そんなことよりかなり問題発言をした気がする……『姫と王』これはお約束すぎてヤバイやつな気がする。
盗賊団は、この女性の護衛隊である騎士達に昏睡系統のスキルを使ったのでは無く、マジックアイテムで昏睡にされたと言う事を知らされた騎士はショックを隠せなかったが、今はへし折られた剣にショックが隠せない様だ。
12人の護衛をシャインは様子を伺いながら状態異常をディスペルしていくが、そのうち3人は昏睡状態の時に攻撃を受けた様で既に息がなかった様だ。
他の騎士達は怪我はしているが無事の様で、今は魔物に怯えながらポーションで回復していた。
そのあと伯爵の護衛馬車が着くまでカノープスのと言う御令嬢はシャインから離れず、護衛は魔物が襲って来ないか青い顔をしながら姫を守っていた……
騎士ともあろうものがアリン子が相当怖かった様で、一切そっちを向く事がなく時間が過ぎていく……
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