第275話「王族と招かざる客をびびらせるアリン子」

「何をしていらっしゃるのですか!カノープス第二皇女様!自分のした事の意味をお分かりになっての事ですか?国王陛下はご存知なのですか!?」



 大変な状況だった……ザムド伯爵は騎士団員と冒険者の5パーティ全員を配置して、野営地の警護にあたらせている。



 当然問題を起こしたヤクタ男爵の元騎士団達は隊列最後尾に野営地をつくらせている。



 間違っても側になど置けない。



「私は拝礼殿での30日の祈りの儀で王宮を出ると許可を頂き出ていますので、お父様はこの事を知りません……ですが『秘薬』が賊に奪われたと聞いたので、居ても立っても居られなかったのです」



 カノープスはどうやら間違い無く皇女様の様だ……ザムド伯爵は王に伝書鳩で状況を伝えた。


 これには『腐敗した貴族』を処罰する目的があったが、全貌は王へは伝えていなかった。


 『襲われた』事を書いてその結果『ヤクタ男爵』には逃げたれたと書いたのだが、王はちゃんと内容を読まずに口にしたのか、それとも伝書鳩を受け取った者が細工したのかは分からないが、間違えた情報を聞いた皇女が祈りの儀の最中に出てきた様だ。



 騎士団も何故止めなかったのかは追及しても意味がない……現に今抜け出して来てしまっている。


 多分王宮では大騒ぎもいいところだろう。


 皇女が出た時間と方法にもよるが、聞き耳を立てる限り間違い無く『此処にいられる状況』はおかしいとしか僕は思えなかった。



「ですが、結果的にその行動を看破され今日この様に襲われたではありませんか!その御身に何かあれば王は悔やんでも悔やみきれませんぞ!」



「拝礼殿から侍女の服を使って抜け出したのですが……抜け出したところを騎士に見られ逃げてしまって……」


「そのあと街で捜索の騎士隊に見つかってしまい……一緒に行かねばたとえ一人で歩いてでも向かうと脅したので……彼等は悪くなど無いのです…」



 それを聞いた周りの冒険者は何故か僕を見る……僕は脅したりなどしない……そもそもそんな状況になる前に『隣町に行く馬車』に飛び乗ってしまうだろう。


 あとはフードを深く被って寝ていればどうにかなるだろう……鉱山の時の様に。



「そうであっても城門を出るなど……本来姫様の立場ですと王の許可がなければ無理でしょう!?たとえ侍女の格好をしていても、騎士がいる時点で怪しまれましょう!王都より出る時に目的地も聞かれるはずです」



「一体どこから出て来たのですか?そんな簡単に出られる王都では無いはずですよ?誰かに実行案の話をしませんでしたか?」



 しかし姫の身を案じて、流石に二度とこうしない様に話をする伯爵は一番の被害者だろう。



「第二城壁城門の兵にも『行く手を遮るなど無礼であろう』と……申して無理強いしたので……馬車は……その……以前より叔父様に相談しました」


「一人でも探しに向かうと言ったところ、渋々神殿横に私用の馬車を用意してくださり護衛の冒険者も……出た後には絶対に無理はしないと言う約束で…」



 本来『伯爵風情が失礼であろう!』と騎士が言う事で済みそうだが……何故か事情を話す姫と騎士に、僕が不思議が隠せない顔をしていると伯爵がその顔を見て必死に首をふる。



「私も止めたのです……ですが事情を聞き……第六位王位継承権を持つ叔父上様もご承知ならと……仕方無く……まさかその冒険者が敵の手のものだったとは……」



 そもそも、どんな理由があれお付きの騎士団がそれを許してはならないし、姫には出来る筈が無いのだ。



 それを考えたが、僕が学んだ現代の知識とこの世界の常識では差があったりイレギュラーがあった場合は仕方ない……としか言いようが無かった。



 万が一、間者が手を回していたらその限りでは無いし、策にはまっていれば間違い無く通行許可だって出かねない。



 それより何より気になったのは伯爵と面識があるのか、皇女は普通に伯爵と話していた事と騎士も何やら遠慮がちに話している……



 この様なことは通常あり得なそうだが、何か特別な理由でもあるのだろう……『触らぬ貴族に興味なし!』絶対に触れてはいけない案件だ!これは危険が危ない!



 ちなみに「竜と虎に5つ星」が王家のエンブレムの様で、エンブレムを見ていたらこっそりシャインが教えてくれた。



 竜は『彗星』と『繁栄』を意味するらしく、5個の星がこの宇宙にある星要は惑星を意味するらしい……そして虎がこの王家を意味しているそうだ。


 見張りをしていたら、闇の向こう側から騎士隊30騎がやってきた……



「我は国王陛下直属、騎士団団長アレックスと申す!姫はご無事か!」



 その言葉に恐る恐るかをを向ける姫さん……もう半泣きだ……



「姫様!ご無事で!よかった!……このアレックス……もう心臓が止まる思いでしたぞ!……王に聞いて飛んで参り………ん!?……なぁぁ!!なんだこれは!!!」



 姫の泣きそうな顔を見て安心したのか、ふと横の滅茶苦茶になった馬車を見て絶叫をあげるアレックス。



「………ど……どう……どうしたら馬車がこんな……ひん曲がり……焼け焦げるのですか……」



 それを聞いたエクシアがそそくさとマッコリーニの方にトンズラする。



「アレックス殿……申し訳ない……姫を救う為にやむ無く我が連れて居る者がな……助ける為には仕方なかったが、元から悪漢に襲われ酷い様であったのはカブラの証言を聞いて貰えばわかる」



 それから伯爵は起きた姫に起きた事件の一部始終を話す……馬車を壊した事の詳細は省いた様だ。


 エクシアのチャンティコの精霊化の姿を見せたら問題になるからだが、伯爵は馬車で追いかけていた為に直接目の前で見たわけでは無く、そもそも距離があったので言わないでいた様だ。


 そして問題の指示書とマジックアイテムの話をすると、騎士がそれを手渡して自分が襲われた状況を話す。



「すまんな……先ほど聞いたと思うが証拠のために預からせて頂く……事が済んだら間違いなく返すので安心してくれ」



 アレックスと言う騎士団長が、そう言った時だった。



 日も暮れてしまいここからの移動が難しいので、マッコリーニが後ろの方で野営準備を始めたらしく、肉の焼ける良い匂いと飯の炊ける匂いも一緒に漂ってくる。


 今日は、ホーンラビットの柔らか焼きにプレインウルフの生姜もどき焼きにその両方の肉を使った味噌焼きだ。


 味噌焼きは僕が漬けダレのレシピを教えたので今日から新たに加わったメニューだ。



 暗闇の中遠くで伏せをして、騎士達をこれ以上驚かせない様にしていたアリン子が爆進してくる……マッコリーニが『柔らか焼き』を作り始めたせいで、匂いの誘惑に負けて来てしまった……この子はすでに腹ペコなのだ……



 しかし事情を知らない騎士団は一瞬でパニックになる。



「うぉぉ!?なんでこんな近くに!トンネルアント亜種だと!!ぜ……全員戦闘準備だ!姫をお守りしろ!身を挺してお守りしろ!」



 騎士団全員が急な出来事でビックリして慌てふためき脚がもつれひっくり返るが、遠慮なく近づくアリン子……そしてアリン子に慣れたので全く気にもしない冒険者達……



「オスワリ!!まだご飯できてないから!今作ってるからもうちょっと待ちなさい。いい子だから!」



 僕がそう言うと、ペタっと伏せをするアリン子は説明がわかるほどに『知能』が高かった。



「ぬぁ!?伏せだと!?き……君の……従魔なのか!?トンネルアントの亜種が!?……従魔とでも言うのか!?……」


「ではこの馬車は君が!!姫が無事なのは君のおかげか!助かった!礼が遅れて大変申し訳ない!!この事は王に必ず伝えておく!無事であった事を必ずな!」



 それはエクシアさんですと言いたかったが……それを言う隙も与えられずに胸糞悪い筋肉隆々の『ハグ』が待っていた……非常にヘビーアーマーがゴリゴリして痛い。



 僕の精神力がゴリゴリ削られて……すでにもう再起不能だ……白い目をして居るとハグは解き放たれたが会話がまだ続く……拷問って酷いと本当に思った……



「こんな巨大な魔物をテイムするとは……貴方は金級の冒険者であられるか?以前聞いた事があるのはフォレストウルフが従魔として居ると聞いたが……まさか上には上がいるのだな……」



 この言葉のあとは僕の耳には入ってこなかった……

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