第228話「それぞれの思惑と駆け引き」
しかし何故か今日は人間のギルドに入ったっきり出てはこない……裏門も3人配置して様子を伺っていたが其方からの連絡もない。
地下に出入り口がない限りはここからは出られないはずだった。
当然理由など知らないのだ、今日モアは『銅級心得』を受けているのでほぼ一日中ギルドにいるのは当たり前だ。
そこになんと、『太陽エルフ』の戦士がギルドに入っていくと、中が若干ザワザワし始めるのを聴き取った。
エルフは聴覚が非常に優れているので多少距離があっても中身の状況は聞き取れる。
どうやら『揉め事』を起こしている様だ……この時点で飛び込むか相当悩んだのだが、耳を澄ませてもモアの声はしない……ここでギルドへ入れば間違いなく監視がバレる。
最悪エルフ特有スキルの『気配眩まし』でもされたら、それこそまた探すのに時間が掛かってしまう。
それだけは絶対にいけない!
なんとかして足取りを掴めたのだ、此処で見逃す事などあってはならない。
そこでリーダーは万が一の事を考えつつ、様子を見る事に徹底した。
見張りながらもモアが出てくる気配はない……こればかりはどうしたものか……と思案に暮れる中、少し後に少年がギルドに入る。
不思議な雰囲気を持つ少年であった為気にかけただけだった。
あんな『少年』が冒険者などとは人間のやる事は嘆かわしい……と思っていると仲間から、
『モア様が身を寄せているパーティーのリーダーです……相当の手練れだと認識できます……あの身なりで以前レッドキャップの首を跳ねるのを私は見ました』
などと言う証言があった……。
少年がレッドキャップの首を刎ねるだと!?と聞き返したかったが、問題はそこでは無い。
そんな少年の側に『月エルフの姫君』がいる状態を早くどうにかせねば……『絶対に事態が悪化する』と思ったのだ。
そして少年が入って半刻足らずで『太陽のエルフ』の戦士が外気消沈し出てきた……それも中で警護中の衛兵に捕まってだ…
当然あのエルフの戦士は治安を乱したのだ……この街から外に放り出されるだろう。
自分たちもあの時入っていたら、下手すると同様に連行されていて街から追い出されたやもしれんと冷や汗が出ていた。
そして待機に次ぐ待機時間……日が暮れそうな時間に動きがあった。
一度出るが、何やら買い物をして、またもやギルドへ戻る。
しかし良い情報を掴んだ……『どうやら任務でこの街から出る準備』をしているらしい。
それであれば、その時に狙えば成功率が増す……と思ったのだ。
彼等は先回りして何を買って回るのか調査するつもりだった。
理由は簡単で、保存食の物量で何日間の遠征か想像がつくからだ。
それに、いくら狩猟が上手いエルフとは言え、長期遠征でモアを連れ帰るチャンスを伺いながら満足な獲物などできようも無い。
なので最低限の自分達用の物資も用意せねばならない。
それも火を起こしての野営などはできそうも無い……その焚き火で見つかってしまうからだ。
シャドウミストで光を吸収する事も出来なくはないが、不自然な魔力異変のそれはモアに『探してくれ』と言っている様なものだ。
モアは英才教育を受けた『エルフの姫君』だ身逃すはずもない。
なので日持ち食材は月のエルフとしても必須なのだ。
しかし先回り途中の現在………
何故か大地のエルフ達が『太陽エルフ』の戦士5名を『蔦魔法』で捕縛している。
意識外からの捕縛魔法だったので、如何に戦闘慣れしている『太陽エルフ』であっても対処できない上、周辺には二重三重の『エルフの戦士を捕らえる魔法罠』が掛けられていた。
この短期間に凄い物だと感心した……その結果、目の前にいる『大地エルフ』達は、大地のエルフ国王直属の護衛軍であると行き着いた……
考えて見ればそうである。
昨日の情報を整理すると、各王国の姫が自分達の国から出てしまったのだ……探さない方がおかしい。
そして、その3人が今一緒にいると知っているのは自分たちだけだろう……と思っていたが、はたしてそうなのか?と今は考えるしか無い。
何はともあれ親衛隊ともなれば、自分の仕える王の娘であれば顔はわかって当然だ。
自分達の国の姫君が居なくなれば同じ行動をして、『発見に至る』この結果に行き着ているに違いない。
なので、昨日迂闊にも飛び出した自分たちの行動が、監視をしていたと思われる大地のエルフの目を引き、彼等はこの街の人間を利用する気になったのだろう。
その結果、他のエルフ国の王女と共に行動している事に気が付いているか分からない『エルフの戦士』が、今正に危険行為に至った為に捕縛に至ったと考えられる。
ただし、近接特化の『太陽のエルフ達』は気が付いてない可能性は濃厚だ。
下手すると、自分の国の王女にさえ気が付いてないのではないだろうか……武器を携帯などもっての外だ。
まずは対話からで『穏便に帰って貰う』事を優先するべきだ。
月のエルフ達は、街の衛兵に引き渡される『太陽のエルフ』達を見てそう思わざるを得なかった……『奴ら脳筋か……』と。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
ジェムズマインの街で騒ぎを起こし、追い出された『太陽のエルフ』の戦士達6人は街の外に居た。
「人間の癖に!ふざけた真似を!いっその事、街を一つずつ軍で囲み全員を調べた方が早いのだ!」
「それだけでは無い!大地のエルフ共はとうとう人間と手を組む事を選んだ様だ!我々は彼奴らに邪魔されたのだ!」
「エルフに恥をかかせた『少年』には責任をとって貰わないとならんのに……人間は我々に滅ぼされたいらしい!この際大地のエルフ共も一緒に同じ道を歩ませれば良いのだ!」
「穢れがこの様な状況に至ったのは人間のせいだと言うのに!大地の奴らは何も理解してないのだ!」
エルフの戦士達は口々に呪いの言葉を吐く……彼等のこの負の感情さえも『穢れ』になり、各地のダンジョンに影響が有るなどと考えないのは『種族として傲慢』な傾向にあるからだ。
彼等は『穢れ』を封ずる手法を使い外界との接触をしない努力をした為『自分達はこの世界のために一番貢献している』と自負していた。
この世界を破滅に導かない為に、魔力を用いた『封印』を使って『穢れ』を自国から出さず、自国へ入れない手段を使っている。
取った行動は素晴らしいが、それを理由に慢心した事は誉められることでは無い。
理由はどうあれ、多種族を『蔑む事』はしてはならない事だと、彼等はその事に気が付かなかった。
「親衛隊へ報告を!大地のエルフが人間と手を組んだと!」
実は、彼等は『親衛隊』から各街へ使いに出されただけの『戦士達』だった。
彼等の仲間が人間の姑息な手段にやられたと偽りの報告をした為で、その為に全員で報復に出向いたのだった。
頭に血が上り本来の目的を見失った彼等は、すぐ側に自国の姫が居たのに全く気が付かずに行動していた。
彼等のリーダーは仲間の1人を『親衛隊』が滞在する地へ向かわせる。
自分達の報復の邪魔をした大地のエルフに怒りを覚えその結果、人間と手を組んだと『思い込んだ』ために誤報を送ってしまった。
親衛隊にこんな報告をすれば、このリーダーが『職務を放棄して何を遊んでいるのだ!』と怒られるとは思いもしない様だ。
そして彼等は『報復の機会』を街の外で伺う事にした。
彼等の身体能力を持ってすれば、人族が作った普通の城壁など無いも等しい。
普通に『監視の穴』を掻い潜って街に入るのは容易なのだ。
それをしないのは、誤った考えの結果『親衛隊』を待とうと言う結果に至った為だ。
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