第229話「遠征前夜祭と昇格祝い」

 今僕達はファイアフォックスのギルドでお祭り騒ぎ中だ。


 まずユイナとソウマが昇格試験を受けることが出来る様になり、ミクとカナミを残すだけとなった。


 残されたミクは上がれなければどうしようと緊張しているたが、カナミはミクが試験を受けれる様になるまでは受けずに待つと言っていた。


 二人は出会ってから音楽話をよくしているので凄く仲がいい様だ。


 そしてレガントが無事に銅級冒険者になった。


 そしてタバサが銅級心得を受講完了して、晴れて銅級冒険者の依頼が受けられる様になった。


 しかし既に『貴族任務』のメンバーになっているので明日からは遠征組だ。


 レガントパーティーもゼロイックとヒーナが昇格試験を受けることができる様になり、同時に上がったユイナに誘われて今日はファイアフォックスのギルドに立ち寄っていた。


 レガントパーティーの全員がすごく緊張していたが、このギルドは緊張と無縁なのですぐにいつも通りの遠慮のない皆になっていた。


 この話を聞きつけたマッコリーニとビラッツはすぐさま駆け付ける。


 ビラッツは当然祝い飯を持ち込みで、マッコリーニは自分が取り扱う酒類を持ち込んでだ。


 明日からマッコリーニは急な遠征だと言うのに元気なものだ。


 乾杯は何度か行われたが、エクシアが酒瓶片手に意気揚々と話し始める。



「アンタ達!昇格試験おめでとう!そしてレガント!銅級冒険者昇格おめでとう!そして本当の冒険者に今日からなった訳だが……パーティーリーダーとしてちゃんとこれから離れたところで彼等の面倒を見るのが『本物のリーダー』だ。今までの様にはいかないぞ!気張なよ!」



 エクシアのハッパに男泣きするレガント……それだけ嬉しかったのだろう。



「ここで報告がある!アタイ達は明日から王都での長期任務だ!この大馬鹿者ヒロがやってくれちゃったんだよぉ〜!」


「アイアンタンク!レッドアイズ!スノウベアー!あとタバサ!アンタ達は明日早朝から『貴族任務』だ!早朝、風の8刻に街営ギルドに装備をしっかりして来る様に!」



 唐突にエクシア告げられる『貴族任務』の案件に驚くギルドメンバー達。


 しかし、話を続けるエクシアの言葉を聞き漏らさない様にする。



「ザッハから今日数日に渡る依頼を受けない様に『注意』されたと思う。その理由は2つある。まずは王国への『秘薬』運搬の護衛だ!これは知っての通り、『ヒロ達が持ち帰った』事で我々に依頼された貴族任務だ。」


「それと同時にジェムズマイン領主、ザムド伯爵が考えた『商売』に新しい知識をこれまたヒロが吹き込んだお陰で、舞い込んだ『貴族商材』の護衛任務だ」


「折角王都に行くなら一緒に商売したらどうだ?王様に拝謁している間にマッコリーニ達にでも販売させれば良い!自分達の商材を持ち込み販売の許可を商団に出せば文句言わずにやるはずだ……と言ったんだ。この馬鹿は!だよな?」



 その言葉を聞いて興奮がおさまらないマッコリーニがエクシアに変わって話し出す……横には涙と鼻水で汚い顔の奥さんがいる。



「私共マッコリーニ商団はエクシア様そしてヒロ様と『お知り合い』になってから……それはもう、良運に恵まれています!男爵邸の特権商人だけでは無く、今度は伯爵様の商売までお手伝いさせて戴けるとは……それも!王都での期間販売許可!!」


「このマッコリーニお世話になったエクシア様そしてヒロ様の役に立てる様、誠心誠意頑張っていく所存です!皆様方の旅程期間は私共が完璧にフォローして見せますのでご安心ください!」


「私の幼少からの友である、ビラッツの店舗からも料理人を借りました!料理長推薦の腕に自信がある料理人を3名と店員を1名借り受けました!万全の栄養面を保証致しましょう!」


 ビックリした事に、マッコリーニはビラッツの所の料理人を借りたらしい。


 それを聞いた僕はまたもやいらない事を言ってしまう。


「折角なら王都での『お弁当販売』をすれば良いのに……王都で流行れば『王様の耳』にも届くかも知れないし……上手くいけば踊るホーンラビット亭(王都店)ができるかも知れないでしょう?でもこの街が良いんでしたっけ?まぁ運営はマッコリーニさんに頼めば何とかなるんでは……」


 マッコリーニがビラッツの顔を見る事もなく!


「是非それで行きましょう!踊るホーンラビット亭(王都店)素晴らしいです!ビラッツ貴方の店のコックで王都での実演販売に充てましょう!私は知り合いの商団から魔石で扱える調理機材を明日の朝までに取り揃えます!」


 マッコリーニの言葉の前にビラッツは上を見上げて……『王都店!王都店!夢にまで見た王都店の足がかりが!!』と既に壊れていた。


 

 エクシアはその後も全員に詳細を告げる。


 僕がリーダーとして所属したダンジョンアタックパーティーが、そのまま適応されて護衛パーティーとして王都まで行くこと。


 タバサはメンバーの都合上エクシアパーティーに一時的に吸収され、一緒にマッコリーニ商団をフォローする事。


 テロルと共に銀級パーティの『輝きの旋風』は秘薬護衛班に組み込まれる事、そして新しく加わった3パーティはエクシアパーティーと一緒に王都への護衛任務に就くこと。



 本来マッコリーニの様な王都への商団は、同じ旅程の『他の商団』と共に連合を組む。


 最大5商団で銅級から銀級の冒険者パーティーをそれぞれ雇い、補い合って現地まで向かうのだ。


 これがこの世界でのセオリーだった。


 なるべく費用を抑えて安全に目的地に到着する……その売り上げで店をデカくするのだ。



 しかし今回は、『伯爵と男爵発案』の商売の為全ての冒険者パーティーの費用は貴族持ちになる。


 当然食費もだが、いつもなら最低限の食事を提供するのが旅団の習いだが貴族の建前もあり並以上の用意をせねば貴族が恥をかくのだろう。


 それじゃなくてもマッコリーニなら普通に雇いそうだが。



 そのマッコリーニはまたもや金儲けの妙案に浮かれていた、そして当然この場にもレイカは『遊びに』来ていて、彼女はと言えば父親の上機嫌もあり王都まで一緒に着いて行っても大丈夫と踏んでいた。


 王都へ向かう途中のユイナのご飯を、とても楽しみにしていたのだった。


 しかし遠征には当然レイカはお留守番になった。


 行く気満々だったレイカだったが、僕の一言でそうなったのだ。



「伯爵と男爵をよく思わない人が襲って来た場合、レイカさんに危害を及ぼす確率もあります。それどころか、今回は中途半端な刺客ではなく、手練れの暗殺者の場合もありその場合は流れ矢に当たり命を落とす事も考えられます」


「前回は、マッコリーニ商団としての買い付けだったとお伺いしました。しかし今回は『伯爵任務』です。危険度で言えば比べようもないでしょう、企画を成功させる為にマッコリーニさんを全力で守る以上は、レイカさんを守れる可能性は0%です。」


「敵の数がこちらより多い場合は間違いなく死ぬでしょう!!理由は護衛任務の全員が『商材』とマッコリーニさんを守らなければ今度は冒険者達自身の命が危ういんです。護るべきは販売を取り纏めるのマッコリーニさんと商材なんですから」


「なのでレイカさんは今回だけはお留守番して待っててくださいね!?その代わりお父さんにお土産買ってきてもらいましょう!」



 この言葉は脅しではない。


 既に秘薬を狙っている『ヤクタ男爵』は後に引けない状況になったのだ……魔導士学院のマジックアイテムを奪う行為までしたのだ。


 それが周りの貴族に露見したら、何を仕出かすかなど予測は出来ない。関係ない者には口封じで容赦なく剣を振るうだろう。



 それどころか、僕達の知らないところで問題は日に日にどんどんと膨らんでいるのだ………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る