第227話「襲撃再び」

貴族特権はなかなか素晴らしく、帰る前だったがギルドが提供する食事が振る舞われた。


 僕は宿に夕食が用意されるのでお断りしたが、チャックがこれまた食べたいと騒いだので持ってきて貰った。


 チャックは夜食として食べる様だ。



 時間的にはさほど暗くはなかったので、まだジェムズマインに街にある商店は営業をしている。


 明日からの予定もあるので皆で護衛旅用の食材を買い込んだ。


 主に日持ちする乾燥パンに塩漬け肉が主だ。


 ピクルスの様な物も売っていたので僕は買っておく。


 クロークの中に突っ込めば良いだけなので必要と思えるものを買っておくだけだ。



 僕達は臨時パーティーの様なものなので、お互いフォローをし合うが食材を分け合う様な事まではしない。


 体格差もあるので、それぞれが必要な保存食の量がある為だ。


 なので各自で食料を調達する必要がある。



 ユイナがいれば他愛も無い食材からでも、満足できる食事は期待出来るが流石に今回の旅は違う。


 ユイナにソウマ、ミクとカナミこの世界で唯一の『家族』を置いて行かねばならない。


 この4人は僕にとって『家族も同然』だ辛い時を乗り越えるのに必要不可欠なのだ。



 しかし、今では銅級ランクと言う壁が邪魔をしてしまい、満足にパーティーも組めない状況だ。


 当然王都遠征には連れて行けない。



 昇格を目指して彼等を手伝うと僕のランクが弊害になって、皆のランクアップの妨げになってしまうらしい。


 これはこっそりとイーザさんが教えてくれた事なのだが、対象より上位冒険者の手助けがあった場合はその判定基準全て『不採用』となるらしい。


 理由は過去にあった事例を元にしており、上位冒険者がメンバーとして在籍していた場合には階級を上げた下位の冒険者が命を落とす確率が通常より増えるのが原因らしい。


 コレは単に地力不足が問題で、特出した冒険者がパーティーにいる場合起こり得る事らしい。



 僕達のパーティーと言えば、確実に僕よりはソウマの方が近接は向いているし、全体の状態把握や危険判定はユイナとミクが勝っている。


 ミクの距離間を測る術は素晴らしく、模擬戦をしてもスルリと後ろに下がり絶妙な距離を維持するので、思わず追撃してそこを狙われる95%負ける……残りの5%は運では無い……おこぼれだ。



 カナミに関しては可愛さを含めてオールマイティーだ……ステータスにおいて僕は足元にも及ばない。


 片手に木剣をもち片手に飴ちゃんを持つと目線が揺らぎ心奪われる事が多々あるが………それも含めてとしておこう……



 何はともあれ、僕は既に銅級だ。


 ギルドのルールであれば、守らなければ全員の昇格試験に影響がある。


 そうなれば結果的に困るのは皆なのだ。


 僕は可能な限り魔法で魔物を殲滅してきている。そのせいでレベルもカナミ以外で見れば僕は皆よりかなり上だろう。



 皆とは王都への護衛期間の間は離れる事になるが、なんとか頑張ってこの期間に追いついて貰いたい。


 そうでないと僕が銀級に上がった時点で更なる差が開いてしまう。



 そんな事を考えつつも皆でギルドまで帰り、買った食材を遠征馬車に積んでいく。


 大所帯で行く場合は、各パーティー別のトランクにパーティーごとの日用品を納めるのだ。



 最初に入れるのは食材を主に調理道具とキャンプ用品がメインだ。


 大掛かりな遠征馬車は、基本は翌朝までギルド職員と衛兵により管理される。


 第三者に下手に積荷をいじられない為だ。



 しかし今回は伯爵家の『秘薬』配送任務なので、騎士団からも派遣され馬車毎に逐次見回りと利用者記録がされる。


 僕達は自分たちのトランクに積み込み終えた事を報告してからギルドに戻り、出発時間の最終確認と遠征荷物の購入漏れがないか確かめる。


 チャックとチャイがギルドの『個室』に入っていくのを3人と見送った後に彼女達とギルドを後にする。


 僕と彼女達の宿泊場所は異なるのだが、途中までは一緒なので夕暮れの人通りが多い道を歩く。


 すると、目の前にエルフと思わしき人物と遭遇する……先程ギルドで見かけた野伏の様なエルフ達だ。



「失礼致します……少しお話をよろしいでしょうか?」



 急に話を振られて戸惑いが隠せない……何故なら既に僕は一度エルフと剣を交えているからだ。


 さっきの事を難癖つけられると非常に不味い。


 今は冒険者とは言え女の子3人が側にいる上に、ここは『街』だ迂闊に大きな魔法は使えない……街民を巻き添えにする可能性が多分にある。


 そもそも、さっきは相手が一人でありスライムと水精霊のサポートで勝てたのだから……


 彼等に彼女達3人のリーダーとして対応する。



「何でしょうか?もし僕とやり合ったエルフの件であれば、謝罪を求めても無駄ですよ?先に仕掛けたのはそちらですから……」



 僕は強気に出る。


 相手はエルフだ。そもそも何を言われるか正直想像がつかない……威勢よく言っておけば警戒して、先ほどの様な『即攻撃』にはならないかも知れない。


 そうした場合、この3人だけは何とか逃がせるだろう。


 しかしエルフ達は次の瞬間ビックリする事を言う。



「いえ、先程ここの道の奥で待ち伏せしていた『同族』がいまして、貴方達がとても危険だったので助けた次第です。彼等は同族ですが、我々の隣人である『人族』を襲う等の行動は、我ら大地のエルフとしてはとても見過ごせないので……」



「つきましては、その物達をこの街から『追い出したい』のですが、そもそも人間のルールが分からないので教えて頂けないものかと……」



 そう言って野伏の様な格好をしたエルフ達のリーダーが、説明をしてから横の路地の方を向くとT字路の奥に5名のエルフが倒れている。


 姿と装備からして、ほぼ間違いなく僕とやり合った者の仲間達の様であった。


 身体には太い蔦が絡まっていて身動きが取れない様だが、人数分の細身の剣と鞘が辺りに転がっていた。



「あ……そうでしたか!助かりました。実は先程その方達のお仲間に絡まれまして……本人は襲いかかって来たので何とか撃退はしたのですが……そんな人数で来たらとても無事ではいられませんでした」



「ひとまずは、周辺を巡回警備している衛兵に渡しましょう。そうすればこっぴどく怒ってくれるはずです」



 僕が笑顔でそう答えると、今度はエルフが笑いながら答える。



「左様ですか!ではお任せしてよろしいでしょうか?我々はこの街でまだ宿を取っていないので、これから探さなければならないのです。お任せして申し訳ないですがこの辺りで失礼いたします」



 そう言って脇道で芋虫の様に転がりもがくエルフを放置して去っていく。



 転がったエルフ達は、『邪魔をしやがって!オマエ等は人間と組んだのだな!人と共に滅びてしまえ!』などと言っている……。



 このエルフ達は仲が悪いのだろうか……しかし、これは非常に助かった。


 あの素早い動きのエルフが更に5人も同時に襲いかかって来たら、ひとたまりも無いところだった。


 彼等エルフは僕に軽く会釈した後に、僕のそばに居たユイにも全員会釈して去っていく。


 何故かユイは眉間にシワを寄せて会釈をしていた。



 そんな事があって心配だった事もあり、宿まで送る提案をしたがキッパリ断られた。


 何かがあればすぐに『大声で助けを呼ぶ』と言う事を3人に言われてしまえば引き下がるしか無い。



 芋虫の様な彼等は僕が引き渡すと伝えて、彼女達には先に宿に帰ってもらう。


 明日は集合が早いから早く帰ってちゃんと送れず来て欲しいからだった。


 異世界の冒険者の朝は出たとこ勝負で適当なのだ。



 ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇



 この様を離れたところで静観してた者達がいる。


 昨晩3人を襲った月のエルフ達だ。


 彼等は戸惑っていた。


 何故、大地のエルフが太陽のエルフを捕縛しているのか………そもそも月のエルフ達は、遠くから『モアが一人になり周りに冒険者がいなくなる状況』になるチャンスを窺っていた。


 流石にモアと言えども、月のエルフ王の親衛隊相手ともなれば逃げる事など容易には出来ないからだ。

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