第208話「激怒する僕と崩壊するかもしれない魔導士学院」


「うわぁぁぁぁぁぁん………………エグエグ……うううう……プラム先生〜〜ごめんなざいーーーー」



「『マジックワンド』を忘れたならわし、の所に買いに来ればよかったじゃないか!幾らでもあるっちゅーに!どれ、ワシがお前専用のマジックワンドを作ってやろう!それをお父上に話すんじゃ!辞めたくないじゃろう?ワシの講義を!?」



「水精霊を信仰しているじゃ辞められないよなぁ?金貨200枚で作っちゃる。ちゃんといつもより多めに魔法力込めて作るから絶対にそれで魔法は成功するから大丈夫じゃ!」



「いーやお前は辞めちまえ!アープ!さっさと辞めて俺の家に嫁げ!俺がもらってやる!前にも言っただろう!水精霊の儀に失敗してんだから!もうすぐに嫁いで隠れてた方がいいんだよ!」



 僕はだいぶイラついてきたのでここを破壊した後、水っ子呼んでアープに加護与えて結果オーライにしよう!とか考え始めていた。



「良いじゃないか!アープ辞めちまえ。こんな金儲け主義のクソみたいな講義なんざ!アンタが教えてやんなよ!ひろ!水魔法はアンタの専売特許だろう?」



「それに他の属性魔法だったら別の『優秀』な講師がいるだろう?そっちは今まで通り習えば良い!そもそも土系魔法は上達してんじゃないか!ストーンシールド使えるってきいたよ?」



「あ!でもアレか……問題はアープがヒロみたいなバケモン女魔導士になるって事だが……どうだい?男爵!?乗るかい?反るかい?」



 なぜか後ろからエクシアの声がする。



 エクシアの横には鬼の形相になった男爵が居て、そして多分だが伯爵の息子と思われる男の子がいる……服の胸ポケットに伯爵家の家紋がついているのだ。



「今頃ご到着か!?ザベル!お前が伯爵の息子じゃなかったらどうなってるか!ここからすぐ追い出してやるのに!伯爵家の長男だからっていい気になるなよ!鉱山のジュエルイーターの討伐部位を王様に献上すればお前の親父と俺の父上は入れ替わることになるんだからな!」


 何故男爵が居るのにこうも強気なんだろう?と思って聞いていたが、彼の父親がそれ以上の爵位か少なくとも同位の爵位なのかと思ったら納得がいく。


 爵位に詳しくはないがこの世界特有かもしれない。


 それにしたって父の爵位でモノを語るとは恥ずかしく無いのだろうか……



「また性懲りも無くアープに嫌がらせか!授業を受けにいった後、お前のお付きがアープの荷物から『マジックワンド』を取るところを確認したぞ!クゥーズ!」



「遅刻してきて偉そうに!何処にそんな証拠が!」



『ドガ!!』



 ゲオルに蹴り飛ばされて出てきたのは一人の騎士風の男だった。


 鎧には家紋が入っており、それが怒鳴っている銀髪の少年クゥーズの、上着ポケットにある家紋と一致する。



 男が転んだ拍子に鎧に挟んでいたワンドが転げ落ちる。


 ワンドにはクリスタルレイク家の家紋が入ったリボンが括り付けられていた……多分お気に入りなのだろう……



「あ、私のワンド!」



「確かにコレは『アープちゃんのワンド』だがの、残念な事にそこいらに生えてる単なる木で出来た粗悪品でな……紛い物と言うか、いわゆる『木工品』でワンドじゃないから何も効果はないんじゃ。」


「魔法力も上げないし、魔力さえない。この棒切れでは魔法を使う事どころか感じることもできん。」


「今まで使えないのは当然じゃ!」


 ゲオルがアープのワンドについてわかりやすく説明した後に、今度はそして転がっている男の一部始終を学長へ暴露する。


「コイツは実行犯で捕まえたぞ?俺はどうするか隠れて見ていたんだ……多分何かやるんだろうと思ってな……」



 男の子がアープの側へ行き、頭を撫でる。



「すまないな……こんな風になるまで黙ってて。今までの嫌がらせを見てな流石に黙っていられなくなって、学長にこっちまで来てもらったんだ。学長たちには一芝居打ってもらおうと思ってな。あの水魔法講師がどんな人間か見てもらいたくて」



「あの講師の男は裏でクゥーズの父親と繋がっているらしくて、あのマジックワンドがクゥーズの親の収入源になっている様だったんだ」



「そしてクゥーズの父親は、この学院の理事たちにも取り入って販路を増やそうとしてたのを、報告を受けた父が秘密裏に裏を取っていたんだ。君を巻き込み本当にすまない。アープ……」



 すげぇドラマを目の前で見た……年下かと思ってたら……精神年齢は多分僕より上だろう……



「今頃父上がお前の悪事の裏付けをしている事だろう!」


「プラム講師!私の学院を地に貶めた事は、絶対に許しません!貴方が今まで販売した『マジックワンド』は全部貴方に返却し、弁済して頂きます。そして悪質な詐欺罪によって貴方は鉱山送りになります。この件は証拠の提出により既に衛兵に通達済みです。」



「ヒロさん……申し訳ありません……事件の為とは言えあんな風に侮辱してしまい……この償いは………」



「あのー………あそこの銅像もう要りませんよね?アレってそこのペテン師の水魔導師の銅像ですよね?」



「は……はい!?あの像ですか?はい……もう要りませんが……即時撤去を………」



「馬鹿にしやがってーーくたばれーーーー!!ウォーター・スピアー!!!」





『ドッゴォォォォォォォォン!!!』





「ふぅーああ〜スッキリ!良いですよ……あの銅像ぶっ壊したんでチャラで!」



 僕はストレスマックスで、アープちゃんをガン泣きさせた水魔法ペテン師を許す気になれなかった。しかし本人が居なくなれば罪を立証できない……



 だからソックリな銅像に一発お見舞いしたんだが、生徒達は尊敬の眼差しで見てエクシアさんはゲラゲラ笑っていた。



 銅像に勢い良く投げ過ぎたが周りには飛散しなかった……水っ子が周辺に水系のバリアのようなものを張ってくれたのかもしれない。



「よかったな!プラム講師だっけか?アレがお前にぶっ刺さってたら『ああなってた』ぞ?」


 エクシアが粉々になった銅像を指さす。


 勢い良く転がる銅像の部位……プラム講師の足元には銅像の自分の首がもげて転がって来ていた。



 しかし男爵は怒りが収まらないようで耳打ちするようにプラム講師に囁く。



「因みにな……彼が『鉱山のジュエルイーター』の腕と尻尾そして最も硬いとされている『逆鱗』をあの魔法で撃ち抜いたんだ……お前みたいなペテン師と違うって事を今日教えるために連れて来た。」



「良いかペテン師!お前が万が一逃げ出したら私が全騎士団を使い……お前も家族も親類一同諸共ジュエルイーターと同じようにしてやる。」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 事の顛末はこうだ。


 伯爵の息子はアープに好意を寄せていた。


 その事もあり彼女を注視するようになったのだが、見ているうちに嫌がらせを発見した。



 基本的には土系魔法の受講をしていたザベルだが、気になる女の子が嫌がらせを受けていたら辞めさせたいのは当然だろう。


 彼は本心を父に言わずに『水系』の受講を受たいと言った。


 父は自分の血族に土系魔導士が居たので、どうしても土系を学ばせたかったが如何してもというので渋っていた。



 自分に答えが出ない状態のまま仕事で王都へ行かなければならない父は、『本気ならやってみると良い。』と仮だが許可を出して王都へ向かう。


 ただし、息子は父の希望を捨てきれないので『土系と水系』を学び始め、結果アープもザベルも急接近する事になる。




 ザベルが気になり始めたアープは父親に『黙って』土系の受講をする事にした。


 しかし残念な事に親の承諾がなければ受講は出来ないので、母親には父に黙っていて貰い受講する事にした。



 母は感が鋭く本当の理由を聞いた。


 その結果伯爵家のザベルの事を話す事にした……相手が相手だけに反対されたら諦めるしかなったのだ。


 母はそれを聞いて驚いた。二人にはまだ秘密だが実はフィアンセなのだ。



 しかしそれとコレは話が別……なのでこちらも条件付き。


 土系は伯爵家の宿願だが、男爵家は水系の使い手を得るのが宿願なので気を抜かず必ず成果を出すこと。


 コレが『夫に黙っている』条件だった。



 こうしてお互いに家の大切な要素を二人で共に学ぶ事になった。



 しかしここで問題が起きる。


 ザベルは『土系』の成果が全く出ず何故か『水系の魔法が上達する』


 アープは『水系』の成果が全く出ず何故か『土系の魔法が上達する』


 こうなったらお互い笑うしかない。


 どちらにしてもお互いがお互いの家の宿願を果たせてしまう状態になった。

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