第203話「魔導士学院にスライム連れ込んだら速攻バレた」
因みに魔導士学院は『魔導士』だが、講師名や皆が魔法を使う者に使うのは『魔導師』だった。
何が違うのかと言うと、アイテムを作ったりする特定の資格や技術を有するのが魔導士らしい。
そして魔導師はと言うと……魔法を教えたり、使ったり、誰かを(に)師事したり、されたりするのが魔導師らしいのだ。
コレは昨日宴会の飲みの席(僕は飲まないが)でザッハとゲオルに教えてもらった事だ。
目的地となる魔導士学院は半刻ほどの位置だった。
ジェムズマインの街は当然ながら、一般市民が暮らす地区のほかに商業区と貴族が住む富裕者区画そして貧民街がある。
貴族達の別邸がある区画は富裕者層が多く住んでいる区画であり、その周辺に様々な建物が建ち並ぶが、魔道士学院は町の中心に近い場所にあった。
ギルドなどの重要施設も中心に近い場所にある。当然利便性の問題でその場所に立てられることが多い。
この街に魔導士学院が建設されるときは、貴族の殆どが自分達の区画の側に建てるべきだと言ったが、逆に魔導士学院はそれを拒否した。
彼等は貴族に従うのではなく、独立した機関として王国に貢献していた。
要はマジックアイテムの開発と、提供を王国に優先すると言う内容だ。
貴族としなかったのは、理由は当然だが私利私欲で今まで集めた貴重な物を無能な貴族達に独占させない為だ。
万が一愚王が誕生すれば、国とのパイプが太ければそれだけ面倒なことも増えるのは目に見えていたからだ。
一貫して姿勢と信念を崩さずにいたその甲斐もあって、ジェムズマインの街では貴族に関わらず素質のある者は貧富の差に関わらず学ぶことが出来た。
しかし、貴族の問題が全部なくなったわけでは無い。
当然問題児は何処にでもいるのだ。
学院に着いたときに僕は思い知ることになる。
「ヒロ様!それでですね、私のクラスには伯爵様の御子息が入られまして〜伯爵家は代々土魔法の魔導書を収集しているらしいんですの〜」
僕は半刻だけの時間なのに馬車の中にいた。
初めは外の御者台で周りを警戒するつもりだったが、出発時にアープの我儘で馬車内に引き摺り込まれた……出発時間にはまだ余裕があったが男爵夫妻が嫌じゃなければ中で護衛をと言われた。
僕には空間感知があるので反応は人間だとしても感じられる。
敵かどうかは正直近づいてくるまでわからないが……人間は皆一様に同じ反応を示すからだ。
アープはどうやら自分で気が付いていない様子だが、伯爵の息子であるザベルの事が気になっているらしい。
話す内容が全部伯爵家のザベル絡みの話題であり、話す魔法形態も土系魔法の話題だけだ。
男爵が知ったらどの様な顔になるのかすぐに想像がついた。
でも貴族間の繋がりだから既に男爵に色々と吹き込まれてたり、もしくは既に政略結婚的な事があるかもしれない。
何にしても関われば、面倒くさい事には変わりがない。
街の央付近にある建物で半刻ほどの場所なだけに割とすんなり到着すると思われたが、魔導士学院内に入るには割と時間がかかった。
徒歩で来るお付き無しのいわゆる『一般市民』である受講者は魔導士学院の正門から歩いてくるが、貴族の馬車は前の馬車がつかえてしまい前の貴族が馬車から降りるまでは進まない。
その上貴族でもタチが悪いのがいるらしい。
他の馬車が並んでいる所に横付けして、割り込みをせがんでいるのも見受けられる。
既に遅刻しそうなのだろうか?
「アープちゃん聞いてもいい?あの学校で習う授業だけど、時進別に複数あるのかな?あそこの馬車横入りしようとしててかなり焦ってる様に見えなくも無いんだよね……」
「はい!講座は先生方の都合で行われるので分かれています。たまに見かけますねあの様な事をされている方が……同じ貴族ですが恥ずかしい限りです。」
アープちゃんは育ちが良いのだろう遅刻しない時間にちゃんと送り出して貰っている様だ。
前の横付け馬車は強引に割り込んだらしく、後ろの貴族が文句を言っているのが見える。
入れた方も悪いが、入る方はもっと悪い。
後ろにも時間を考えて来て並んでいる事を忘れてはいけない。
「あ!あの今入った馬車は知っています。あの家紋はヤクタ男爵の御令嬢ですね。私……あの方苦手です……でも今から後ろに並んでも十分に間に合うと思うのですが……同じ講師から学んでますから……」
完全に意味がない割り込みだった様だ。
しかし暫くして割り込みの理由がわかった……ザムド伯爵の子息が乗った馬車が来た瞬間、ヤクタ男爵の馬車が前に割り込ませようとしたのだ。
多分『この為』にこの時間に列に強引に割り込んだのだろう。
強かだなぁと思うしかなかった……伯爵家の馬車は挨拶はするもののその誘いなど無視する様に列の最後尾に馬車を走らせていく。
中に居た青年は馬車のすれ違いざまにこっちを見ていた気もするが、伯爵家の馬車はそこそこ早いスピードで移動させていたので偶然かもしれない。
アープちゃんは前の割り込ませ様としていた様を見て怒っていた。
「ダメですあれは!ザベル様が割り込みたいと思われかねない行動です!伯爵家の馬車が割り込めばすぐに話題になりますし、伯爵家の名を汚す行為です!」
僕は飴ちゃんと男爵家が暇な時に飲む用に持たせてくれたお茶をコップに入れてアープちゃんに出す。
「はぅ!飴ちゃんだ!!」
お茶を飲みながら飴を口にしたので機嫌は治った様だ。
「歯磨きはできないので、学院に着いたらちゃんとうがいをしてくださいね!?虫歯になったら僕の首が飛ばされちゃうから」
「はい!ちゃんとうがいします!でもヒロ様の首を飛ばせる者は我が家にはいませんよ?聞きました昨日。鉱山の魔物を一人でやっつけて、その魔物のお手の一部をお父様が貰ったと……」
「お父様が、絶対に手を出したらいけない……家など指一本で吹き飛ばされるぞ!って」
「吹き飛ばしません!!僕は怪獣か何かですか!?」
そんなくだらない話をしつつ、談笑して馬車が進むのを待つ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「では次の方!家名と受講生の名前を!」
その言葉に御者が答える。
「男爵家が御令嬢、『アープ・クリスタルレイク』、護衛担当:銅級冒険者『ヒロ』2名の入場を希望します。」
「担当講師は『魔導師 プラム・ウォーター、』水魔法・土魔法の受講にて参りました!」
「よろしい!入場を許可する。………む!?魔物の反応があるが……敵対意思はない……そこの者その荷を開けよ!」
いきなりトラブった…………ひとまずアープちゃんも居るのでバッグを開ける。
「僕はテイマーです。なのでスライムをテイムしています。」
スライムを手に乗せてコロコロ転がす……スライムはちょっと成長していて今は両手の掌サイズだ……ハンドボールくらいの大きさになるので18cmから20cm位だ。
「凄いな……一部の冒険者が魔物をテイムすることは聞いていたが………この学院へようこそ!君みたいな未来有望な冒険者が来た事を我々は感謝する!」
そう言って衛兵は敬礼し始める。
武器の他に腰にはマジックワンドがあるので魔法戦士といった所なのだろうか?
それとも魔法使いが武器を持って門番をしているだけだろうか……いまいち分からないが無事通れそうだ。
「こちら問題無し!テイマーの冒険者様が今から通るので丁重にお迎えせよ!」
面倒な事になりそうだ………
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