第204話「ウッカリしちゃったアープちゃん」
門番が僕達を通してくれた後、正門から学院正面口は遠くは無かった。
数百メートルと言う感じだが、遅くなり入れない理由は貴族側にあった。
馬車を降りた後、荷物を運ぶのが嫌でお付きに持たせるのだが、自慢したがりなのだろ……うわざわざバッグの中から自慢の一品を探してこれ見よがしに手に持ち……代わりに勉強道具を馬車に忘れていくのだ。
当然お付きの者がそれを全部持っていくのだが、腕は2本しか無いのだ山積みの勉強道具はバッグ等に入ってなくバラバラだ。
かき集めて他の荷物の上に置いてちょっとしたタワーを作って持っていく有様だ。
そして当然お馬鹿さんの貴族の子息やら御令嬢が急がせるので落とす。
まぁ一様に無様でしか無い。
当然まともな貴族もいる。
自分で荷物を持ち、自分のお付きには物を落とさせる様な無様な格好はさせない。
そんなダメな貴族の馬車が先を遮っていればなかなか進に進めないのは一目瞭然だ。
それに比べて、一般の受講生は逆に手荷物が少ない。
親のわずかな稼ぎでは買えるものが少ないからだ。
しかし生活を切り詰めて子供を将来のために通わせている。
この魔導士学院は裕福な家庭からは多くの『援助』を貰っているが、貧しい家庭からは1銅貨さえ貰わない。
一般から優秀な魔導師が生まれた場合、間違いなくこの学院で働く事は決定事項になっている。
現に過去数十例もの優秀な魔導師が一般の受講生から出ている。
暗黙の了解と言えば間違っていないが、悪い意味では無い。
一般から上り詰めた生徒は間違いなく恩を返している。
他で働くより、稼ぎも当然良いのだ。
この学院の創設理念は『恵まれない生活を豊かにする』なので多くの人に受け入れられている。
一部の『腐敗貴族』以外は……だが。
僕は護衛件お付きになので荷物を持って行こうとすると、アープは手で制して自分で持つと言う。
出来た子だ……魔物部位を見てウロウロし始める男爵の子供とは思えない……
多分母親の血が99.9%で0.1%が男爵だろう。
そうしていると入り口付近にいた職員が近寄ってくる。
「此方でございます。アープ様、素晴らしい人を護衛に選びましたね!!『テイマー』とお聞きしましたが………拝見しても?」
そう言われて、まずい事をした可能性があると思い話す。
「すいません、なにぶん昨日銅級に昇格したばかりで『座学』さえ受けて無いもので……アープ御令嬢には恥をかかせてしまいました……案内後は速やかに施設外に出て待つ所存です。次回からは宿泊場所に待機させますので……」
慌てふためいて言ったはずだが、慌て始めたには逆に向こうだった。
「とんでもございません!外で待たれるなんて、全然アープ御令嬢は恥などかかされていませんよ?寧ろ逆ですねこの場合は……この魔導士学院に付き添いとして魔導士を連れて来れる方は『稀』ですから、その上テイマーだなんて前代未聞です!」
「ところで……銅級に上がったばかりなのに『テイマー』なのですか?……と言うことは既に見習いの時点でスライムをテイムしてたと!?」
「スキルをお持ちで……す、すいません冒険者様に愚問でしたね。スキルは命と同等と言われる冒険者様に私ってば!『答える筋合いは無い』と一括されますよねすいません」
矢継ぎ早に言われて思考が追いつかない……此処は色々と知りたい情報が多そうだが、なんか自分的に危険な香りしかしない……
「そうなのです!ヒロ様は凄いのです。スライムはなんでも食べるんですよ!あとはミク姉様のクルッポーちゃんも可愛いのです。鳩の魔物なのですが凄く懐いてて、珍しい動物を森で捕まえてきてくれるんです!」
「それにヒロ様は巨大なオオカミの魔物をバシバシ魔法で倒しちゃうんですよ!テロルも凄く助かって………あ!今のは無しです!内緒なんです!」
知り合いが自分のお付きになったので褒められたのが嬉しかったのだろう。魔法契約の事を忘れて話してしまった……しかし声が出るので不思議がっているアープ。
「アープちゃん魔法契約だったら気にしなくて平気だよ?お父様がから聞いてない?効果が切れちゃっただよね……鉱山で魔法使っちゃって皆に見られたから効果が無くなったんだって!」
ウッカリ魔法契約や鉱山で使った魔法などのことを職員の前で話すと、顔面を凄く近寄らせながら……
「詳しく!アープ御令嬢様をお待ちの時に詳しく魔法のお話をしましょう!?良ければ当学院の案内もさせて頂きますし、出来ればテイムの話も聞きたいので。むっちぃ!すぐにミーフィー事務長にお知らせなさい!」
むっちぃと呼ばれた職員が小走りで建物内に消えていく………
「あ、私とした事が……私は主任事務員をしています、『プッチィ』と申します、先程のは事務員の『むっちぃ』です。あそこで貴方様を私に知らせたのが『モッチィ番兵長』です。」
「アープちゃんでは中にいきましょう?授業まで時間がありますが、席を取らないと良い場所は埋まってしまいますからね!」
そうプッチィと言う女性に連れていかれるアープちゃん……
今僕の頭には何故ここの職員は〇〇チィなのだろうか…………常にその名前を揃えようとしているとしか思えなかったが、ある意味他の職員の名前が気になって来た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ですからして!魔法を扱うには長い詠唱と、集中力が必要になるのです!魔法を強くイメージして、打ち出す魔力を込める。コレは絶対に必要なのじゃ!」
「その上で次に必要なのは魔力を増幅する、もしくは威力を増する触媒の『マジックワンド』が必要で〜云々カンヌン………」
「既に精霊が居ないこの世界は精霊力は期待できないのじゃ!なのでえー魔法の力はーペラペラ」
講師が一生懸命説明しているがなんか胡散臭い……精霊なら居るんだけどな……とは僕は言えないか……目立ちたくないし。
僕はアープが授業中にひとまず施設内を案内された。
一番最初に見たのが自慢の図書室だった。
魔導書は勿論、呪文書にマジックアイテムまであった。
マジックアイテムは封印処理がされていて使えないが前に聞いた『ダンジョン由来』の品と『この学院で作られたもの』だった。
此処にあるアイテム全部が『未鑑定』だったらどれだけ助かったか……僕は目から血に涙が出そうなくらい残念だった。
現代に近い形のキャビネットは既に懐かしさを感じる。
本が綺麗に整頓され、マジックアイテムはサイズ順に収納されちゃんと触れる様になっている。
此処で鑑定すれば何かが起こるかもしれないから敢えてしないが、物凄い数の魔導書は嬉しかった。
因みにゲームの様な消耗品では無いのでいくら読んでも無くならないのだ。
問題はスクロールの類で、それは読むと『効果が発揮』されてしまうので封印処理がされているが、封印処理のせいで大切な部分が判別不能になっていた。
例えば火炎球のスクロールがあるとする。
それは、羊皮紙に魔法陣が書かれて火炎球が封じられている。
その効果は魔法文字を詠唱することで発揮するのだが、封印処理をしたスクロールは重要な火炎球の『炎効果』を示す部分と発動魔法陣の一部が不可視状態になるのだ。
それのせいでスクロール全体の仕組みがわからないので再現が不可能だ。
多分此処にある魔導書から、魔法陣と火魔法の元になる魔導書を見つけてくれば再現は可能だろう。
ただし作り方がわかればだが……
単純に書けばマジックスクロールが出来る訳でもなさそうなので、此処にコレだけの魔導書と実物を展示しているのだろう。
僕は非常に残念にも感じた。
他のスクロールと同じように魔法陣と水魔法や氷魔法のマジックスクロールを作れば、あらかじめ何個も大きな魔法を封じられるんじゃ無いかと思ったのだ。
『アイスフィールド』の魔法は今回の鉱山であった連合討伐戦で役に立ったので、僕的にはいい研究材料にできるのでは無いかと思った。
効果時間に応じてあらかじめスクロールを作っておけば必要に応じて使い分けが確実にできる。
ウッカリ氷柱を降らせないように『中級』のアイスフィールドを封じておきたかった。
それにこの魔法は他の魔法と比べても消費MPは大きく乱発もできない。
であれば時間を見つけてスクロール作れば魔法の練習になるし、ファイアフォックスのゲオルさんも他の種類の魔法が使えるしいいな?と思ったのだが……まぁ現実そんな上手くはいかない物である……
色々プッチィさんに説明を聞きながら図書室を案内して貰っていると……ムッチィさんが走ってくる。
すいませんお話の最中に、例の貴族がまたもや受付に来てまして……ちょっと大声で騒ぎ問題に。
今は受付のナッチィが対応してますが……
その話を聞かない素振りをするも僕はつい、此処でも結局貴族問題か……昨日と言い今日と言いご苦労なこった……と考えていた………
そして受付はナッチィだった。
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