第195話「突然出て来た部位特化ポーションと受付嬢達の感涙」
彼等が満足にクワを振るえなければ田畑からの収穫は減るのだが、そんな勘定さえ出来ないほどにまで冷静さを失っていた。
当初は王の手前、仕方無く出兵をしたものの……ここ最近ある噂を聞きつけたのだ。
ジェムズマインの領主に縁があるどっかの男爵が『魔物のレア素材』で武器を製作していると。
事実、素材獲得の為にマッコリーニが各地の商団に素材買い付けを依頼したのだ。
腐敗貴族達は面子が大事だった。
これ以上、自分以外の周りの貴族に差をつけられない様に、今度は『特殊素材』を手に入れたがったのだ。
しかしそんな裏事情など、領民である彼等に説明はあるわけも無い。
腐敗貴族は『王の勅命で鉱山を奪還せねばならない』と触れ周り本当の理由を隠したのだった。
そして現在……彼等の領主は馬鹿な事にこのギルドへ『討伐部位』の請求に来ていた。
早く帰れば直接何かを言われる事は避けられ、言い訳を考える時間を与えられたのに……彼はわざわざ伯爵を探していたのだ。
そこで『領民を盾にした事実を知った』激怒している伯爵の元へ、ギルド職員に案内されて連れてこられて鉱山での問題を伯爵自らに問い詰められていた。
この領主は多くの冒険者達がいるギルドで謝罪させられる屈辱を受けた。
周りの大怪我を負った冒険者達は、渋々頭を下げ冒険者に謝って回る貴族を見て幾らかは溜飲が下がったのではないだろうか……
当時運び込まれた部位欠損をした冒険者は、即座にポーションで傷の回復を行われた。
当然傷は塞がるが、冒険者達の落胆の色は隠せない……普通のポーションでは再生などしないのだから。
しかし、一部の怪我人には嬉しい事もあった。
彼等が熱烈に愛していた受付嬢のイーザの存在だ。
前から『利用されている』のは知っていた。
周りの話を聞けば、彼等だってとても盲目的になどいられない。
しかし今彼らが見た彼女は、あからさまに『今迄のイーザ』とは180℃違かった。
自分たちに為に泣き、自分の服が血に汚れようが泥に塗れようが気にもしていないのだ。
以前ミオ派の冒険者が『ミオの素晴らしさ』を盛大に語り大袈裟なまでに言っていた事を思い出す。
『自分の事など顧みない』その言葉が今のイーザには当てはまるそんな行動で、周りの銅級冒険者も見ていて言葉に詰まる程だ。
その様を一番信じられなかったのは、イーザ信派の彼ら自身であった。
今までは怪我をしても軟膏一つ塗ってくれなかったイーザが、今は防具を外し『まだ残っている』汚れた腕や脚を嫌な顔一つせずに温水で濡らした布で拭いてくれている。
怪我が酷い場所には洗浄後にポーションをかけてから、周辺に軟膏を塗り込む。
打撲痕を探しては懸命に薬を塗っていた。
そんな彼女の目には大粒の涙が溢れていて、常に『御免なさい』と謝っているのだ。
彼らは慰めようと大丈夫だから……と髪を撫でるが逆にその行為でもっと泣かせてしまう。
でも彼らは『幸せ』だった。
今までの様に薄っぺらい表面的な付き合い方ではなく、初めてまともに相手をしてくれた事と、まるで自分がイーザの恋人でもある様な錯覚が出来たからだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
イーザが斡旋し鉱山へ送り込んだ冒険者は、欠損部位の再生効果をマジマジと眺めている。
彼女が評価の為に利用した冒険者の中から選んだ5名は、伯爵から説明を受けているが心ここに在らずという感じだ。
ちなみに個室へ案内の際はイーザ絡みとそれ以外に分けたりせずに交互に入れている。
周りが変に勘繰らない様にした為だ。
ちなみに該当する冒険者の選択方法は作成者(入手者扱い)である僕が独断と偏見で選ぶ感じだ。
小部屋に連れて行く前に対象者を間違えない様に要観察である……まぁ最終的には25人全員分を作ろうと思っているので数日の差でしかないとは思うのだが……
イーザが長袖や長ズボンを持ってきては、体格に合うか見てまわっている。
「いいか!この薬は再生ポーションと言い『ダンジョン』から出た物である。君達5人は持ち主である彼が選んで連れてきた。」
「これを今ここで使う理由は『この再生ポーションには使用時間』が決められている。そして、完全に再生して自分の手や足として元に戻るのは1天後だ。非常に長い時間を要するが元に戻る。コレが『鑑定スクロール』で鑑定した結果だ。」
そう言って鑑定スクロールの内容を、部位欠損している冒険者に回し読みさせる。
問題は文字が読めない冒険者もいた事だ。
勿論イーザさんがすっ飛んでいき、説明に為に読み上げる。
周りは『しまった!!!』と言う顔でその冒険者を見ていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
部位特化ポーション・初級 (再生効果) 『錬金アイテム』
効果 欠損部位の再生(目、耳、鼻、指、足)
使用量 10ml 再生 極めて遅い 期間 1天にて再生
必要素材 (錬金術で作成可能)
中級ポーション1、オークの鼻1、ゴブリンの指1、
ゲイズアウルの目玉1、フォレストウルフの足1、
スライム粘液10、コボルドの耳1、魔石(中)1
『効果説明』
使用後1天をかけて欠損部位が再生する。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
鑑定スクロールはマッコリーニの時から感じていたが、物凄く鑑定内容が曖昧だった。
再生時の注意事項が全く書かれていないので、コレは不安しかなかった。
「見た感じだと、回復が始まったのだろう………既にスライムの様な素材の手足が形成されているな!」
「じっくり1天と長い時をかけて君達のそこは癒される筈だ。このポーションは『極めて珍しく』今までこのギルドでも扱った事がない一品だ。」
「その部位はちゃんと長袖や長ズボンで保護して守る様に、そして毎日清潔に洗う様に!」
「そしてこの効果は、今まで誰も見た事がない……私でさえもだ!だから効果の内容を伝えることはできないが、当分は不自由な生活であることは変わらない。」
「脚を失った者は、1天後は歩けるが、それまでは支えの杖が必要になるだろう!」
「腕を失った者は、同じように片手での生活が1天後まで片腕の生活だ!」
「不自由だが、未来がある!決して粗末に扱わない様に!『治して貰えない』冒険者も居る事を忘れるな!」
伯爵は先ほど僕達と決めた内容を伝えて、再生中の様をあまり周りに見せない様にそして、患部を大切に扱う様に伝える。
一年も不自由なのは大変だが、治る見込みがあるのだ頑張ってもらいたいものだ。
それにしても……一年を1天と言うのがしっくりこない……僕達の世界基準に変えてくれないものだろうか………そう言えばこっちは西暦とかあるのだろうか……聞いたことも無かったのでチャンスを見つけて『関係者』に聞いてみよう………詳しいのはマッコリーニさんかな?
そんな事を考えていると冒険者が質問をし出す……『説明を聴いていたのか?』とエクシアさんにパンチを喰らいそうな内容だった……
「今は『動かない』のは………仕方ないんですよね?」
どうしようもない冒険者の質問に僕が答える。
作成者tipsではなく、ちゃんと見た感じそのままを伝える感じだ。
「多分いまは中に骨がないですよね?まだスライムの様な感じで形ができてるとしか見えませんし、骨も血管も神経も無いのでは動かないのは仕方ないかと……」
「あああ!確かに!君が言う通り言われてみればそうだな……今日から治り始めたんだから直ぐにどうにかなる筈が無いよな!」
「貴重なポーションを使って貰い本当に申し訳ない……心から感謝する!もし僕達でよければなんでも言ってくれ!出来る限りのお礼をさせてもらうから!」
コレは良い言質をとった気がする!万が一僕に何かあったら……護ってもらおう!
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