第194話「役に立つ豆知識を持つユイナとウッカリ者」

伯爵と男爵は一部始終を説明すると冷ややかな目で僕を見るユイナがいた。



「もう大概のことがあっても驚か無いと思ったけど、怪我の再生とか……再生医療の時点で回復師要らなくね?」



「まぁ10mlを調べる方法は簡単だよ!ヒロの持っている空ボトルのキャップが10ccだから10mlだよ。」



「え!本当ですかそれ!」



 当然だが、伯爵も男爵も『空ボトル』と『キャップ』が何かを知っている。


 『ペットボトル』は無いがポーション類があるのだその様な容器もこの世界にはあった。



 しかしながら彼等としては、とても不思議な顔をするしか無かった……この世界のキャップには量を測る機能など無いからだ。


 当然の事ながらキャップの容積が10mlと言うのは知るはずがない……異世界製品なのだから規格も作りも違うからだ。


 そもそもこの世界のキャップは、木を丸く細長く削って差し込んだ後に湿らせて抜け難くするのだ。


 測れるはずがないのだ。



「有名な話だよ!?満杯じゃなくて一番上の筋切りまでね。溢れるギリギリだと7.5mlから8mlだから2杯で大さじ1杯で約15mlになるんだよ。まぁ15mlは実用的じゃないけどね。」



「なんでですか?」



「動かしゃ溢れるじゃない!?そうするともう既に量はあやふやだし……溢れるんだからたらないでしょ?」


 それを聞いた僕は、バッグ中から空のペットボトルのキャップを外す。このボトルを捨てずに持っているのは外歩きで水を入れるためのものだ。


 キャップに注いでから鑑定すると、『部位特化ポーション・初級『10ml』』と出た………


 僕は此処で気がついた……容積…………鑑定できんじゃん………怒られるからユイナさんには言わないでおこう。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「うぉぉぉ!!マジで………ムグ…………」



「聴いてたのか!?オマエは説明を?アン!?」


 この繰り返しだった……



 冒険者欠損部位の再生にビックリで大声☞エクシアさん怒る☞頬を左右から思いっきりつまむ☞冒険者恐怖



 伯爵と男爵は遠い目で見ている………



 男爵と伯爵は冒険者が飲み終わるたびに、キャップを手に取ってマジマジと観察する。



 そのキャプをユイナが受け取り桶で持ってきた水で洗浄後に布で綺麗に拭く。



 その行為さえ伯爵と男爵はまじまじと見ている。



 気まずくなったのだろうか…ユイナが自分から説明する。



「衛生管理の観点で、不特定多数の人が関わる事ですから。個人が何かウイルスを持っていれば接触・経口感染する可能性があります。なので最低限の洗浄です……本当なら煮沸消毒云々カンヌン…………」



 当然だが治ったわけではない……彼等はあくまで再生治癒が始まっただけだ。



 しかしこの状況に感謝で泣き続けている人が約2名……イーザさんは勿論だが何故かミオさんまで……。



 結局この2人は僕達の行動を具に確認してた為、隠しきれなくなり個室の中で呼び込まれる冒険者の身の回りの諸々をやる仕事をして貰っている。



 ちなみに泣いている理由は簡単で、再生の見込みなど予想してなかったからだ。


 冒険者ギルドの職員として此処にいる受付嬢は、全員が自分の担当冒険者に『連合討伐戦』の話をせざるをえない。



 それは初級受付嬢のミオだって例外では無い。


 過去に初級窓口で自分が担当し送り出した冒険者とは、当然まだ繋がりがあるのは言うまでもないのだ。


 彼等を1人でも多く派遣し討伐せねば、鉱山に巣食う魔獣はこの町の財政を壊滅的状況まで追い込んだだろう。


 それだけこの街は、この宝石鉱山に頼らなければならなかった。


 その為、彼女達は心の奥底では冒険者達を送り出した事を悔やみ、謝っていた。



 表向きには街の側には1個しかダンジョンがない風に言っているが、実際は鉱山にもダンジョンがありジェムズマインの領主と彼を慕う貴族達の連合騎士団それと銀級以上の入場許可がある冒険者でやっとのことで抑えていた。



 鉱山にも実はダンジョンがあって結構危険なんだ、そんなことを言えば当然だが坑夫の皆は不安になる。


 そして不安のあまり坑夫が仕事を投げ出せば、街の資金繰りは回らなくなる。



 しかし鉱山の魔物を討伐したくても、ギルドとしては冒険者達の多くはトレンチのダンジョンへ行かせなければならない。


 理由は魔物の質が全く違うからだ。


 鉱山特有の魔物が多く、体表の硬度がトレンチのダンジョンに出る魔物と比べ物にはならなかった。


 トレンチのダンジョンでさえ無理をしがちな冒険者は、とてもじゃないが鉱山のダンジョンには入れられない。


 一時の油断それは死を意味するからだ。



 それに冒険者は無理をして、なかなか街まで帰ってこない事が多い。


 より多くの収穫を得てから帰って来るのだ。


 その際、冒険の為にダンジョン内部で宿泊を取る者、ダンジョンの外に拠点を作り到底階層までの周回を繰り返す者は大概すぐには『帰ってこない』


 理由は単に遠征日時の問題である。




 しかし彼等とは違う理由で帰って『来れない(・・・・)』者もいる……稀にいる無能なリーダーにダンジョンへ連れ込まれ命を落とすパーティーだ。



 ダンジョンは巧みに罠を張る。


 『わざと階層に見合わない』良いアイテムをドロップし、欲望の芽を出させて奥へ誘いそして帰路を断つのだ。


 当然、そんな冒険者は帰れなくなり、ダンジョンの肥やしとなるのだ。




 この街のギルドには国王からの勅命で『鉱山に巣食う魔物の討伐』が出され、この街を故郷とする冒険者は家族と友人の為に戻ってくる。



 因みにこの国のギルド全体にも魔獣討伐の勅命は出されているのだ。


 だから、このジェムズマインの街以外の街からも当然冒険者たちは来ている。


 理由の殆どは『報酬』が良いからだ。


 冒険者はある意味『傭兵』と変わらない、自分の命を賭け値にして勝ちを得るのだ。


 賭けに勝てれば『普通とは比べ物にならない報酬が手に入る』


 では負ければ?体の部位を失う程度はまだ良いほうだ、最悪死ぬのだから。



 しかし此処に来てこの賭けが、ある『一部』の人間には『成立しない状態』になったのだ。


 失った部位の『再生』だ……負け分の回収が出来たのだ。


 しかし当然ギルドの手元にある部位特化ポーションの残量問題で、すぐに部位欠損者全員が受けられるわけではない。



 まだ日が落ちていない時に運び込まれた冒険者は全部で25人、4人乗りの馬車に御者席横の一名を足して合計5名それを5往復だった。


 何故もっと往復しなかったかと言うと、日が落ちて鉱山付近は危険だったからだ。


 いかに距離が短い直通路とは言え、夜の街と鉱山間の直通路を使うのは得策ではない。


 フォレストウルフは勿論、ゴブリン、スパイダーなど当然だが夜行性の魔物の出没が多いのだ。


 一寸先は闇なので襲い掛かられればひとたまりも無い。


 そこに加えて馬車の全員が怪我人で、満足に剣も振るえないのであれば『どうぞ喰ってください』と言っている様なものである。



 そんな25人は部位を欠損している冒険者が殆どで、それ以外は深い傷や意識不明で鉱山にいれば明日を迎えられない冒険者を連れ帰ったのだ。


 内訳は、部位欠損が21名・意識不明が2名・瀕死(持って半日)が2名の合計25名だった。


 意識不明及び瀕死の患者はギルドに着くなりポーションと回復師が総出で事なきを得た……鉱山にポーションがあれば何の事はない状況だったが全ては『腐敗貴族』がポーションを使い込んだ為に、あの時は彼らは死を待つだけだった。


 因みに意識不明の患者は『気付け薬』を使った後回復師の魔法で済んだ。


 内臓がやられていた訳でも魔獣の一撃を受けたのでなく、単純に恐怖の余り意識が飛んでいただけと言う……いわゆる誤診と誤報だった。


 彼等は『腐敗貴族の騎士団』のキャンプにいた領民だった。


 騎士団の救護担当は領民のこの2人を『調べる事』もなく『危篤』と診断したので、彼等は死者扱いで騎士団キャンプの片隅のテントに放置されていた。


 その様が酷かったので急いで連れ帰ってきたのだが、このせいで代わりに来ることが出来たはずの冒険者2名は寒い鉱山で辛い1日を過ごすことになる。


 当然、誤報をした騎士団が居た領の領主はこっ酷く罵られる事になる……しかし領民に罪はない、何も知らず巨大な魔獣の肉壁に使われたのが原因なのだから気絶して当然だ。


 今回多くの領民が使われたその理由は『口減らし』と『特殊素材獲得』の為としての命だ。


 領民からの食糧分配の上訴があり、これを機にその理由の元を減らそうとアホな貴族は考えたのだ。


 自分の事しか考えない貴族のやり口だった……男手が減り領民が今後どれだけ苦労するかなど考えもしていないのだ。

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