第179話「回復魔法の盲点……『回復異常』」

馬車の中では、バームが宝箱の持ち主が僕であることを話したので、伯爵は『またか!また君か!』と言ったせいでバームの見る目が白くなり、エクシアが『一部始終を話せ』とバームに詰め寄ったため、彼が今日あったことを話す事で全部が露見した。



 男爵が笑いを堪えられなくなり大笑いをし始め、伯爵も釣られて大笑いをしていた。



 しかしバームの話を聞いたシャインさんは、何故かエクシアの横からわざわざ狭い僕の横に座って、怪我がなかったかとしきりに心配していた。



 直後に馬車の中で範囲回復を使ったシャインは、エクシアにめっちゃ叱られていた。



 何故かと言うと、『ダメージを受けてない者』が回復された場合『オーバーヒール』と言う状態になり、回復効果を著しく阻害する状態になるらしく、その効果はなんと半日も続くらしい。


 魔物がいるこの場所でやるなんて到底理解出来ない、一度頭を冷やせ!と言っていた。


 簡単に言うと万能薬以外はその状態を回復できない『回復による状態異常』を作り出す回復師の回復阻害行為になるらしい。



 しかしバームの深い傷はそれで全て治りものすごく感謝していたが、僕は大した傷を負ってなかったので体力が全開してちょっとばかり快調になったぐらいだった。


 しょぼくれた彼女を元気付けるために、クロークにしまってた飴ちゃんを取り出し皆に配ったら、伯爵とバームが『宝石は食えないだろう?』と言い始めたが、これが飴だと知っている男爵とエクシアは躊躇わずに食べていた。



 その後に食べた伯爵とシャインそしてバームは、味の素晴らしさに馬車の中で絶叫していた。



 ギルドへ到着した僕はそれはもう大変な有り様だった………。


 ギルドの職員は上へ下へのテンテコ舞いで、沢山の貴族がギルドへ押しかけて居た……多分このギルドやら鉱山へ派遣して居た貴族の兵が早馬で知らせたのだろう。


 その様を見て、伯爵と男爵は『悪い顔』でニヤついて居た………笑顔からは『してやったり!!!」と言わんばかりの笑みだった。


 多分彼等は、テイラーが言って居た『腐敗貴族の方々』なのだろう………取り分の異議申し立てを処構わず職員を捕まえては怒鳴る様にして居た。


 ギルド職員達は新人窓口担当以外はほぼ100%無視である。


 理由はギルドからの再三の討伐協力要請を無視した結果なのだ……ギルド職員である彼等の今の態度は仕方がないだろう。


 ギルドの中央には大きな円形テーブルが置かれて、既に大きな『デビルイーター』の討伐部位が飾られて居た。


 砕けた爪に、魔力骨に甲羅の一部、そして逆鱗(特大)だ……全部魔法が当たって砕けてしまった部位らしい……伯爵はその部位を『約束したので貰った』ようで、腐敗貴族へこれ見よがしとばかりにギルドの一番目立つ場所に飾って居た。



 あの時言った約束は『尻尾』だったが、ここに居る腐敗貴族の悔しがる顔が面白かったので、あえて言わずにおいた。



 僕は初心者窓口へ向かう。


 理由は当然ダンジョンで印を集めたので『昇格試験の完了報告』だ。


 これを済ませなければ『報告不備』でダンジョン探索のやり直しが確定だ……絶対にそれは避けないとならない。



「ミオさん……ダンジョンでの昇格試験に必要な印集めが終わりましたので報告します。審査をお願いします。」



 僕が帰ってくると、鉱山で見たギルドマスターが既に初心者窓口で待っていた………



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「ヒロさん!なんで素直にギルドに帰ってこないんですか!鉱山に行ったんですよね?ギルドマスターに聞きました……鉱山で『負傷者の手当て』をしていたと!私がどれだけ心配したと!」



「ミオさん……その……なんて言うか、確認はしたんですよ?「鉱山行きの馬車」なのかって途中で降りようとしたんですけど、眠りこけてしまって……後で聞いたんですが、鉱山への直通馬車だったようで路線が急遽変更になったって聞きました。」



「なので、不可抗力で鉱山に行き手伝ったと言いますか……怪我人を救護テントに運ぶ仕事をしてました。その後伯爵様と男爵様が鉱山に『偶然』来たので男爵にお願いして馬車を借りダンジョンに行ったんですよ……」


 僕は苦し紛れに、大まかに説明する。


 それに話は大方端折っているが全部嘘ではない。


「それは疑っていません。実際にシャインさんも助けて貰ったと言ってましたし、助けて貰った際の高級ポーションの瓶を見せていただきました。ヒロさんがあの場に居なければシャインさんは確実に亡くなっていた事も聞きました。」


「それに、そもそも今回の件はこのギルド職員の不手際によるものなので、ペナルティのような事はあり得ません。寧ろ無事でよかった……皆心配してたんです。」


 ミオは先程『私がどれだけ心配したか…』と言った後に、メイフィの視線を感じて今は『皆が心配した』と言い直していた。


 当のメイフィは意地悪そうにミオの顔が見える場所で、彼女を見てニタニタ笑っていた。


 仕事を卒なくこなす職場の先輩であるミオは、滅多に『弄れない』のだろう……メイフィはとても楽しそうだ。



「あ……あのぉ………すいませんでした!私が浅はかな事をした為に……大変危険な目に合わせて……本当にすいませんでした!!」



 そんな皆の空気を更に重く変えたのは『イーザ』の一言だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 イーザが何故こうなったのかと言うと、その理由は数時間前に遡る。


 ギルドマスターが鉱山から傷だらけの冒険者を馬車で連れ帰った事が原因だった。


 運び込まれた冒険者は全員『特別なポーション』が必要な状況だった。


 鉱山にもポーションは持ち込んでいたのだが、腐敗貴族が擦り傷程度にも使った為全てのポーションが底をついていた。


 その現状に、伯爵と男爵そしてギルマスも激怒して大変な状況だったのだが、既に無いものはどうする事もできない。


 回復魔法でなんとか怪我の断面は塞いだものの、予断を許さない状況である事に変わりはなかった。


 その為ギルドマスターは、空きが出来た馬車に急を要する冒険者を乗せれるだけ詰め込んで連れて帰って来たのだ。


 馬車は5回も鉱山と往復する事になる。



 しかし、往復など問題ではない……寧ろそこからが悲劇の始まりだった。



 冒険者は四肢の何処かが欠損したり、もしくは目を失ったりと外傷は様々だったが、殆どがギルド所有の『ポーション』では絶対に治せない傷だったのだ。


 失った部位が手元に有ればズレないように縫い付けて中級から高級ポーションを使えば神経までも回復出来るが、潰れた眼やちぎり飛ばされ跡形さえも無い腕や脚は治すことなど出来ない。


 デビルイーターの攻撃はそれ程迄に凄い威力だった。


 ひと撫でで腕や脚なんか簡単に千切れ跳び、縫い付ける事なんて出来ない状況までの衝撃があった……そうなれば失った部位など原型を留める事はない。


 治す場合は『部位再生の特化型ポーション』が必要だ。


 それも失った部位の状況により使うポーションは異なり、『部位関係なく』確実に治すので有れば『秘薬』が必要なのだ。


 これら特殊なポーションは、ダンジョンの魔物が落とす宝箱から排出される。


 それも『極稀』にしか手に入らない……それも帝都や王都のオークションのみだ。


 なので、大変高価であり稀にオークションに出てもそれは大概は銀級上位か金級冒険者が買い占めてしまう。


 『秘薬』に至っては王族が全て買い上げるのが普通で、稀に金級冒険者が手に出来るぐらいだ。


 それも手に入れた時、『黙っている』場合のみ手に入れられた……要は『自分でダンジョンまで探しに行き獲得』するのだ。


 そんな事もあり、銅級がそもそも買える金額では無い。


 彼等は鉱山から呻きながらギルドに運び込まれ、ポーションで『命のみ』を拾い上げるのだ。


 勿論、鉱山に行くのを決めたのは彼等だ。


 『名誉』の為、『お金』の為『この街』の為……理由は様々だが、『イーザ』にしてみれはそれだけでは済まなかった。


 運び込まれた『銅級冒険者の多く』は担当が彼女だった。


 彼女は言葉巧みに送り出したのだ……ギルドマスターに『褒めてもらう為』、そして『ミオと成績の差』をつける為。


 彼等を待ち受けている『悲劇』などこれっぽっちも考えていなかった。


 いよいよ彼女が逃げる事ができない『ツケ』が回って来た………

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