第180話「イーザの後悔……反省と償い」

彼女は運び込まれた冒険者を見て、自分が愚かであった事に気がついた。


 あれだけ『ミオが必死だった』意味が漸く分かったのだ。


 自分はのうのうと、この安全なギルドで送り出した冒険者の実績を盾に、大見えを張って今さっきまで言いたい放題だったのだ。


 今までも冒険者が大怪我をした事は幾らでもあった、しかしそれは彼ら自身が選んで行った冒険の末に負った大怪我であり、その対処に焦る事はあっても責任を感じることはなかった。


 ダンジョンであれフィールドであれ、其れは全てそこを選んだ冒険者の責任だ。


 しかし今回は、この連合戦を彼女は進んで冒険者たちへ斡旋したのだ。


 ギルドが必要していた事もあるが、彼女は周りが自分にする評価のみを重要視した。


 その結果、当然怪我をして帰ってくる者さえいるのは目に見えていた。


 そして自分を慕っていた冒険者が今は瀕死の怪我や、冒険者として致命的な怪我を負って帰って来たのに『自分』は彼等を癒す事もできない所か、送り出した癖に彼等にどう声を掛けていいかさえも分からない。


 それなのに、彼等は皆『イーザさん!鉱山の魔獣は無事討伐された。この街はもう安全だよ……だから安心して』と口々に言っていた。


 傷ついた体でそう言う彼らに対して、彼女は自分のした事に『絶望』しか抱けなかった。


 取り返しがつかない、謝って済むはずがない、そして何より何の能力もスキルも持ち合わせない自分では、絶対に彼等に償う事ができない……それを瞬時に理解した。


 彼女は『我が儘』であるが『残酷な人間』ではないのだ。



 その瞬間『ある事』に気がついた。


 『鉱山の情報』を一切教える事をせず、馬車に乗る事さえ『自分で確認して』送り出した『少年』のことを……。


 万が一『救護テント』ではなく『戦場まで救護』に出たら………


 銅級冒険者は『連合討伐戦』に備えて『装備をしても』この状況なのだ……ダンジョンの上層用の装備さえ満足に揃えられない駆け出しだったらどうなるか……等は目に見えている。


 ミオはそれを必死に訴えていた。


 それなのに自分は彼女を馬鹿にする事しか考えていなかった……ミオさえ困らせられれば後はどうでも良かった。


 しかし自分の愚かさに気がついた瞬間、彼女は人目を憚ることなく大声で泣き出していた。



 自分は『知っていて送り出した』それも『わざとミオが困るように』だ……少年がどうなるかさえその時はまともに考えてないで死地に送り出したのだ……『覚悟などしていない少年を』



 同じパーティーの仲間に少年が懇意にしていたファイアフォックスのエクシアは勿論、何故か男爵でさえその身を案じていた。



 現に今も自分が担当している筈の銀級ギルド・希望の盾サブリーダーのシャインでさえその『少年』をミオの様に探しているのだ……『早くいる場へ向かおう!』と……



「漸く目で見て意味がわかったか?イーザ……自分がやったことの罪の重さを。安心しろ、『彼は生きている』今はトレンチのダンジョンに向かっているよ……ミオが望んだようにな!」



 ギルドマスターの一言だったが、その一言で彼女は心から『救われた』


 謝る事さえ出来ない最悪な状況にならない事に感謝していたのだ……


 そして自分の罪を認めて皆に謝ろう、そして少年が戻り次第『誠心誠意』謝罪しようと……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 彼女の目は今まで泣いていたのだろう、酷く瞼が腫れていた。


 着ている服の袖口やスカートの裾は血に濡れていた……ギルドマスターが連れ帰った怪我人の看病を今までしていたからだろう。


 傷口だけではなく鉱山で汚れた細部を清潔にする為に、湯を沸かしてバケツに移し自分が送り出した冒険者の傷付いた身体を拭いていたのだ。



「グス……ごめんなさい……本当にごめんなさい……私……知ってたのに止めなかったんです……貴方が馬車に載ったところも確認してたのに……何も言わないで危険な場所に…」



「謝って済むことですか!あの冒険者達の現状を見たから理解したようですが!運良く万が一の事が無かったにせよ絶対に許してなんかないですからね!」



 状況はエクシア達から聞いてはいたが、本人は悪びれる事もないと言っていたので一言くらいは嫌味を言ってやろうと身構えていたのだが……帰って来たら何故か大泣きしていた。


 そして何故かギルマスよりミオさんが怒って、サブマスがそれを宥めてメイフィはミオを見て益々ニヤニヤしていた。


 女性が泣いているのに追い詰めることなど出来なかった……


 ここは異世界ですがそもそも高校生ですから僕は………泣いている女性になんて言えばいいかなんかわかりません。


 なので、無視するわけにも行かずひとまず泣き止ます事にした。



「イーザさん。大丈夫ですよ?確認して乗ったんですよ……そもそも鉱山に行くか聞いて乗ったことは確かですし、それに鉱山で一部始終はギルマス達に聞きました。」


「まぁ『僕にあそこで何ができる訳では無い』んですが、行ったおかげでシャインさんは救えたし。そういう意味では鉱山に行かなければ彼女は死んでたし、結果オーライじゃ無いですかね?『命を大事に!』って言いますし」



 そう言った時、なぜか周りの皆の見る目がとても冷たく感じた………


 何故かこの事に関係のない『ラビリンス・イーター』のメンバーも冷たい視線を僕に浴びせる。




「なぁクーヘン……俺達あの地下5階の特殊な魔物だったガーディアン一緒に倒したよな?今の話聞いてさ……なんか俺たちあの場所で何もしていない気がして来たんだが?」


「ちょっと……バーム……『ダメだって言った』よね?アンタ……彼の影響でも受けたの?『話は済んだ』でしょ?」


「あ…………」



「ほう!?………バームとクーヘン……いや…『ラビリンス・イーター』の諸君。後で是非とも私の部屋である『執務室』に来てくれるかな?『よく話をしようじゃないか!!トレンチのダンジョンの『階層主』の部屋のことで!」



 バームの一言で突然ピンチになった彼等は何故か僕を睨んでくる……悪いのは『バーム』であって『僕』ではないが!?



 少し気分がほんわかしたが、未だにイーザは泣いていてミオは彼女のした事に怒っている。


 そんな2人の気持ちを少しでも和らげる為には『飴ちゃんでも』口に放り込めば少しは良くなるかもしれない。


 残念ながらこの飴ちゃんにはカルシウムは含まれていないのでミオに効果があるかは不明だが………小魚でも漁村で探したほうがいいにだろうか?


 そんなくだらない事を考えつつ僕はクロークの中から飴を二つばかり取り出し口に放り込むチャンスを伺う。



 目標はお小言中のミオの口と泣き止まないイーザの口だ。



「良いですか!?イーザさ………ふぐっく…………」



「ごめんなさい……本当にご………ふぐっく………」



 2人とも『ふぐっく』っと同じことを言った………意外と仲が良いのかもしれない。



 突然近づいてきて口に何かを放り込まれビックリするものの、鼻から抜ける甘い香りにビックリするミオ。


 そしてミオにずっと怒られていたのだろうイーザも、謝ってる最中に飴ちゃんを放り込まれて突然の事で言葉を発せない。


 突然の事に2人ともすごい混乱している様だ……このタイミングで話を切り替えるのが得策だろう。

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